3年になる
さて、3月後半の短縮授業期間を終えて今日から4月。
私たちは3年生となった。
私の周りはみんな現状維持。ニコラス君だって何とかB組に留まった。
「最終学年か。いろいろあったけど、過ぎてしまえば早かったね。」
「そうだよね。僕も何とか騎士団に入らずに済んだし、いろいろあったよ。」
「もう勉強しなくて済むと思ったら最高だな。」
「まだ一年あるよ・・・」
「病気で長期欠席みたいなことがなければ留年もないし、犯罪者にならない限り退学もない。もう卒業できたも同然じゃないか。」
「その代わり、最終順位が一生付いて回るって言ってたよ。」
「気にしないヤツにとっては何の抑止にもならねえな。」
「それは言える・・・」
そうして玄関に入るとローランド殿下が立っていた。
「おはよう殿下、こんな所でどうしたんだい?」
「ああ、おはようミッチェル殿下。何か言いづらいんだが、俺は毎年入学式の朝は玄関前で体が硬直してしまうんだよ。」
「大丈夫かい?魔法?呪い?」
「いや、俺にも分からんが特に害は無いし、しばらくすれば体の自由も取り戻せるから心配はいらんよ。」
「そうは言ってもいろいろ付け狙われてる訳だし、調子が戻るまで私たちも一緒にいさせてくれ。」
「済まないな。しかしあと1年か。」
「早いもんだよ。殿下とも1年でお別れだからね。」
「そうだな。俺にとってはバレッタよりここの方が馴染みの土地になったし、親しい人間は間違い無くこちらの方が多い。さすがの俺でも離れがたいと思っちまうぜ。」
「殿下にそう言って貰えると光栄だね。卒業してもたまには会えるようにしよう。」
「ああ、俺からも頼むぜ。とは言ってもまだ1年あるけどな。」
ニコラス君は殿下の背中を押し、何とか動かそうとするも、彼を持ってしても微動だにしない。
「おいおい、ホントこれどうなっちまってるんだ?」
「そうだろ?俺だって訳分かんねえんだ。」
「イリュージョンか?」
「いいや、テンコーに会う以前からこうだったし、第一、あいつが俺に隠し事を続けられる訳が無い。」
「ああ、目立ちたがりだもんな。」
「そう言えば僕も夕方は無性に訓練場に行きたくなるよ。鍛錬なんて嫌いだし、する必要だって無くなったのに。」
「何だ、俺に付き合ってくれてたんじゃねえのか?」
「いくらニコラス君の頼みだって言っても、自分から剣は振らないよ。」
「不思議なこともあるもんだな。」
「皆さん、おはようございます。」
「ああ、ルシア嬢、おはようございます。」
「あっ!」
「殿下、どうした?」
「ルシアちゃんと目が合った瞬間に体が動くようになった。」
「何それ・・・」
「それって聖女様の力じゃ無い?」
「やっぱ呪いの類いか。」
「確かにな。魔術なら俺で何とかできねえ訳がない。呪いの線が濃いな。」
「何よ、どうしたの?」
「まあいい。とにかくありがとな。」
こうして何となく理由も分かったところで教室に向かい、すぐに入学式に出席するため講堂に向かう。
生徒会メンバー以外の3年生はこれからダンジョン攻略研修説明会だそうだ。
例年なら午後から始業式なのだが、今年は異例だ。
生徒会長挨拶をそつなく終え、私は教室に戻ってクラスメイトに合流する。
「という訳で、4月4日、5日の二日間、王都東の王立ダンジョンを探索する。研修フィールドは第2階層までで、初心者は第1階層のみなので、安全性は確保されていると考えているが、弱くても相手は魔物だ。油断しないように。」
「先生!大きな怪我はしますか?」
「第1階層なら女子生徒の物理攻撃でも倒せるだろう。相手の攻撃をまともに食らっても骨折は無いと思う。また、パーティーのみんなで協力しあい、怪我人の護送と魔物の攻撃、追い払いを行うことで事故は防げると考えている。」
「怪我はするかもしれないのですね。」
「だから決して油断したりふざけたりしないこと。救護班もいるし、今年はB組に聖女様もいるが、そこのお世話にならないよう気を付けたまえ。」
「装備も持って行くのですか?」
「自分の着替えと水、食料以外は学校で貸与する。重さは約10kg程度だと考えて欲しい。そして、最低でも1日5時間は潜ってもらうから、体力の目安はそのくらいだと考えておくように。」
女子がざわめく。
そりゃ彼女たちにとっては人生の中でかつてない試練だろう。
「他に質問はあるか?」
「解体までやるんですよね。」
「もちろんだ。女子だけのパーティーには気の毒だが頑張ってくれ。」
「男子に手伝って貰うわけにはいきませんか?」
「それは構わない。あくまで討伐研修であって本校生徒は冒険者を目指している訳では無いからな。」
「ならば、解体は必要ないのではないですか?」
「それじゃ各班の討伐数が分からんし、体の仕組みを知ることも重要だ。」
「分かりました。」
「では、コンディションを整え、万全の体制で臨めるように。」
こうして説明会は終わった。
さすがはA組、バナナの扱いを質問する生徒はいなかった。
B組はニコラス君あたりがふざけて質問するのだろうし、D組なら質問時間の大半がそれで揉めることで費やされるだろう。
「しかし楽しみだな、ダンジョン。」
「3年生は研修終了後、学校の許可があれば3階層まではいつでも行っていいそうだよ。」
「そろそろ剣の鍛錬にも飽きてきてたところだ。」
「それはそうと、そろそろ役員選挙の準備もしないといけないよ。」
「生徒会も勇退か。」
「あら、ニコラス卿は仕事していたようには見えませんでしたよ。」
「何を言う。2年連続ゴミ収集量No1だぞ?」
「卿自身が大きなううんっ!ですから当然ですわ。」
「何か凄い引っかかってたぞ。」
「このやり取りもあと1年なんだねえ。」
さて、ますは研修だ。