進級?昇級?
さて、3学期はあっという間に過ぎるものだ。
そしてまたしても、進級とクラス替えを占う期末テストが近付く。
私の周囲で心配なのはたった一人。そう、ニコラス君だ。
「いや、俺はもう勉強する必要ないじゃないか。」
「学生なんだから、そういう訳にはいかないでしょ。」
「そうだよ。騎士団だって昇進試験には筆記だってある。」
「何でそんなモンがあるんだ?」
「上級騎士や管理職にはある程度の教養が必要だからさ。」
「でも、ドウェインの親父さんが合格するレベルなんだろ?」
どうしてこういう時のニコラス君はやたら鋭いんだろう・・・
「でもさすがにC組はヤバいんじゃない?」
「いや、どう考えても義父殿はCかDだろう。」
「そりゃ僕もそう思うけど・・・」
「騎士団長なら実技でAかBに居たかも知れないよ。」
「魔法が得意だっていう話は聞いたこと無いけどなあ。」
いつの間にかアレン殿をdisる流れになってしまった。
「とにかく、これ以上の転落は入団に支障が出るかも知れないから、やれることはやっておこう。」
「そうだよ。そうするべきだよ。」
「俺は馭者でもいいんだがなあ。」
「ダメだよ。ニコラス君には騎士団に入ってもらわないと、僕が代わりに入れられちゃうんだから。」
「仕方ねえなあ。今度だけだぞ。」
「いや、もう一年頑張ってよ・・・」
何とか渋るニコラス君の説得に成功し、勉強会がスタートする。
「さて、数学は微分積分からだね。」
「数学はさっぱりだな。」
「しかし、2学期からいきなり高度な内容になったよね。」
「1年の時は掛け算やってたのが嘘みたいに難しいよね。」
「こんなの、そんな単語があったなっていう位しか覚えてねえぜ。」
「じゃあ、早速微分から行くね。」
「多分、分からねえぞ。」
「教科書の練習問題を解いていくからね。」
こうして、絶望的な数学の授業が始まる。
「何だよ、このlogってのは。」
「対数のことだよ。log28なら、2を何乗すれば8になるか、ってことだから答えは3になる。
「何だ、これ見ただけでそんなことを考えないといかねえのか?」
「パターンは決まってるんだよ。」
「そうは言うけどなあ、数学のくせにやたらアルファベットが多いんだよな。」
「確かに公式はほぼアルファベットだねえ。」
「おかしくねえか?数字を扱うのに。」
「でもこれ、全部日本語で書き表したら大変なことになるからね。」
「そりゃそうかも知れねえが、aとかMとかどういう意味だよ。」
「底と真数だね。aを何乗すればMになるかっていう意味だよ。」
「そんなこと、教科書のどこにも説明がないじゃねえか。」
「確かに、数学の教科書って今一つ不親切だよね。」
「生徒が悩む顔を想像してほくそ笑むために、ワザと難しげに書いてるんだろうな。」
「まあ確かに、世の中そういうの多いけど。」
「とにかく、最初はこれ、log3243からね。」
まるで進まないが、数学っていうのはこんなもので、最初の山を越え、コツを掴むまで時間が掛かるのだ。
しかも、ニコラス君は授業中、何も聞いてはいないだろうから尚更だ。
「しかしまあ、書いてる字面はいかにも数学って感じだな。」
「まあ、知らない人からすれば、謎の仕組みだからね。」
「よくドラマに出てくる黒板はこんな感じだよな。」
「あれは完全に理屈っぽいキャラを印象づけるための演出だね。」
「やっぱそうか。そうだよな。どうせ何の意味も無い文字の羅列だろう。」
「いや、さすがに適当なことを書いてるってことは無いと思うよ。中には映像を止めて本当にちゃんとした式を書いてるかチェックする視聴者はいるだろうからね。」
「確かに、そこいらのスタッフが適当に書いたものじゃ無いかもな。」
「いや、ADさんだって大卒だろうから、ある程度は書けるはずだよ。」
「確かに、中卒はいないだろうな。でもなあ、絶対コレ、騎士には必要無いと思うぞ?」
実は私もそう思う。それどころか、国王にも必要ないと思う。
「ところで、やたらfが出てくるが、大文字じゃないのか?」
「ファンクションだね。ざっくり言えば関数って意味だけど、小文字なのは何でかなあ。考えたことも無い。」
「いや、2年になってやっと大文字を理解したんだが、何で小文字じゃなきゃならねえんだって思っただけだよ。」
「ニコラス君、いくら何でもFは学校通ってない人でも知ってるよ。」
「ああ、俺も見たことあったから、なぁんだ、これか、って感じだったな。」
こんな感じで一向に進まないが、こちらの精神力に限界が来たので休憩する。
「やっぱり、理屈っぽいものはまるでダメだな。」
「うん、ニコラス君はそこが良い所ではあると思うよ。」
「実の親父ともそこが合わなかった。」
「そこかい・・・」
「ところで、ニコラス君って座学の順位ってどのくらいなの?」
「年末に101位って聞いたな。」
「D組落ちのピンチだね。」
「まあ、実技があるからDでは無いと思うけど、何とかBには留まって欲しいよね。」
「俺はもう就職先が決まってるが、何か不都合でもあるのか?」
「結婚には響くと思うよ。どのクラスで卒業したのかって言うのは分かりやすいからね。」
「確かにそうだな。まあ、居ないものを心配しても始まらんが。」
「いや、これからのことだからもっと深刻に考えてよ・・・」
「ドウェイン、お前、いいヤツだな。」
「うん、お人好しな自覚はあるよ。」
こうして、勉強嫌いの補習は続く・・・