慈悲の心
クリスマスから正月三箇日ってホントに目が回る忙しさなの。
何で、ウチの神様じゃないのをアタシが面倒見なきゃいけないのか意味不明だけど、このゲームってそんなのばっかだったから仕方無いわね。
プレーしてた頃は大事なイベントだったけど、リアルに働く立場になると大変さが身に染みて分かるわ・・・
そんな激務を何とか乗り切り、今は信者の懺悔に付き合ってるわ。
キリスト教モドキの宗教だから、こういう仕事もあるし、聖女様にはファンも多いから、アタシが担当の日は長蛇の列が続くの。
まあ、アタシは自分のペースでのんびりやるわ。だって、疲れてるし・・・
「では、次の方、どうぞ。」
アタシのファンって、何故だか年齢層高めなの。
「私、今日は懺悔に参りました。」
「では、神の慈悲を信頼し、思う所を吐露しなさい。」
「はい。私は妻に二度と浮気をしないと2年前に誓ったにも拘わらず、またしてしまいました。本日は何卒お許しいただきたくまかり越しました。」
無理、アンタなんて神罰下って離婚されちゃえ!
「ここに来る前に、奥様の許しはいただけたのですね。」
「いいえ。妻の怒りは激しく、全く取り付く島もございません。」
「身近な人が許してくれていない状況では、神が許すことはございません。まずはそちらを解決した後に、再度お越し下さい。」
そんな決まりは無いのだが、疲れているときにそんなイラッとくる懺悔に付き合いたくない。
半ば突き放すように追い払う。
「次の方、どうぞ。」
今度は若い男性だ。
「はい。懺悔をしたいので、よろしくお願いします。」
「分かりました。では、神の慈悲を信頼し、事実を述べ、悔悟の思いを吐露し、許しを乞いなさい。」
「私は、彼女がいるにも拘わらず、三人もの女性と付き合い・・・」
また浮気?
「それは重罪です。神は決してお許しにはならないでしょう。」
「そんな・・・聖女様のお力添えで何とかなりませんか。」
「何とかなんてしません。滅んでおしまいなさい。」
「しかし、本当は彼女のことが・・・」
「手遅れです。私は彼女さんに救いの手を差し伸べたいと思います。」
「そんな、無慈悲です・・・」
「ですので、今この場で、彼女と別れることを神に誓いなさい。」
「無茶」
「無茶はどちらですか?彼女はこれからあなたを見る度に傷を思い出し続けるのですよ。あなたが神に許されたと笑顔になっている裏で。」
「あの、そうは言いましても、彼女のことはとても大切に」
「言い訳は結構です。去りなさい。」
男性を強制排除する。
聖女って結構偉いのだ。
「では次の方、どうぞ。」
またしても若い男性が現れる。
「あ、あの、今日は懺悔に参りました。」
「浮気でなければ聞きましょう。」
「あの、それが・・・」
「神はお聞き届けになりません。立ち去りなさい。」
もう門前払いよ。
そしてアタシが懺悔室を出て長蛇の列を睨むと、バラバラと人が帰っていくのが見える。
こんなに浮気ク○男いるの?
結局、あれだけいた人はまばらになり、しかもほとんどが女性になった。
「では次の方、どうぞ。」
それからは、いつもの懺悔だったわね。
「聖女様、お疲れ様でございました。」
一日のお勤めを終えて、アタシ専用の休憩室で一息つく。
ここのシスターたちは一日中、準ブラックな環境で働きずくめだけど、アタシはまだ学生だから、休日でも午前中だけとか、比較的短い時間しか教会にいないの。
「それにしても、今日はたくさんの方が懺悔に押しかけていたように思いますが。」
「ええ、私に掛かればざっとこんなものね。」
「さすがは聖女様でございます。」
「地獄行きが決まっているような者の懺悔なんて、無駄だもの。追い返してやったわ。」
「聖女様、生ある者には懺悔の機会が与えられております。」
「ええ、知ってるわ。でも、浮気するヤツは絶対繰り返すわ。神が審判する手間を省いているのよ。」
「なるほど、一つの理屈ではございますが、いくら聖女様といえど、神の代行はいささか越権ではないでしょうか。」
「あら?私はお手伝いをしているだけよ。第一、懺悔するより懺悔しなくて済むようにモラルを向上させる方が大切よ。」
「それはそうでございますが・・・」
「第一、謝ったら何でもかんでも許すなんて甘過ぎよ。異教徒は有無を言わさず地獄に叩き落とすくせに。」
「まあ、そういうものでございますので・・・」
「まあいいわ。これから浮気は地獄行きってみんなで広めなさい。これだけで懺悔に来る人が半分に減るわ。」
「あの、寄付金が・・・」
「こんな所に袖の下持ってくるくらいなら、相手に慰謝料を払わせなさい。」
「は、はあ・・・」
浮気者と同じような顔してた司教様も強制排除してやったわ。
今日も良いことしたわね。