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ドウェイン、初仕事

 さて、新年に入ると、年度末に向けた今年度事業最後の追い込みが始まる。

 僕も各部署から挙がってくる進捗状況報告を確認し、様々な判断をしないといけない。



「西部堤防は予定内に工事完了しそうなの。」

「はい。夏の増水で一部工区に遅れが出ておりますが、三交代24時間体制で完工をめざしております。」

「農地改良は全く予定通りにいっていないですね。」

「申し訳ございません。排水施設の整備が遅れておりまして。」


「進捗は何%くらいですか?」

「40%を越えるかどうか・・・」

「しかし、予算執行率が7割を越えています。無駄があった訳ではありませんよね。」

「はい。資材や人夫の確保など、先払いを余儀なくされるものが多く、執行率は高くなっております。」

「事情は分かりますが、先取後渡が原則です。あまり便宜を図りすぎないように。」

「承知いたしました・・・」



「なかなか頑張ってくれておるな。」

「有り難うございます。宰相様。」

「いやいや、有望な若手が入って来てくれて私も嬉しいぞ。」


「ニコラス君じゃなくてすみません。」

「いや、構わぬ。もちろん我が息子が有能ならそれに越したことは無いが、そうでない以上、国政に参画させる訳にはいかん。とくに文吏を事務屋と呼ぶようなヤツにはな。」


「そうですか。それで、僕の対応は少し厳しかったでしょうか。」

「そんなことはない。現場に近い者には臨機に応じた柔軟な対応が、上に立つ者にはそれを公正にチェックできる厳格さが必要だ。あの場合、適切に回答できなかった担当が悪い。」

「そうなのですね。」

「あれでは現場を任された部下を守る事などできん。そうである以上、こちらは不正支出や癒着ありきで厳しく追及せざるを得ぬ。その緊張関係こそが良い仕事を生むのだ。」

「そうなのですね。」


「まあ、今晩の飲み会ではさんざん悪口を言われるだろうけどな。それを気にしていては、人の上には立てぬ。」

「しかと肝に銘じます。」

「うむ。さすがはドウェイン君だ。」


 ニコラス君は陰険○ソメガネなんて失礼な呼び方をしていたけど、やっぱり、長年宰相の座に居続ける実力をヒシヒシと感じる。


「そんなドウェイン君に一つ仕事を任せて見ようと思う。」

「私はまだまだ未熟ですが。」

「本当なら、卒業してからとは思ったが、君の実力が想像以上だからな。先頃通過した来年度予算の新規事業だ。やってみるかね。」

「学校の勉学もございますが。」

「なに、プロジェクトのリーダーとして采配を振るってくれればいい。実務は全て担当が行う。」


「どのような事業でしょう。」

「バレンツ港の建設だよ。」

「そう言えばそのような事業予定がありましたね。」


「今まではロフェーデとの関係悪化の影響で、採算が合わないとして長年事業着手できていなかったが、今はチャンスだし、ファルテリーニとの航路が充実すれば、我が国の受ける恩恵は莫大なものになる。」

「確か、5年計画ですよね。」

「そうだ。このクラスの事業を予定通り行えば、爵位が上がってもおかしくないほどの功績が認められる。」


「私にはまだ早いと思いますが。」

「私はそうは思わない。チャレンジだけでもして欲しい。」

「分かりました。頑張ってみます。」



「ということで、これから忙しくなるんだよ。」

「大人になる準備が着々とできてる感じだな。」

「言われてみればそうなのかなあ。できれば20才くらいまでは学生したかったんだけど。」

「まあ、勉強なら大人になってもできるよ。」


「そうだな。それでドウェイン。どうやら学者でなく政治家になりそうだが、いいのか?」

「うん。僕は体育会系のあのノリが無理だっただけで、どうしても学者じゃないとダメって訳じゃなかったんだ。」

「デスクワークならいいって感じか。」

「そうそう。」


「後は俺と殿下の結婚相手さえ決まれば、この先の道筋も見えたな。」

「側室はどうやらロフェーデの第一王女で決まりそうだよ。」

「早いとこ一度会っておいた方がいいぜ。もしかしたら正妃がツタンカーメンになるんだろう?」

「ニコラス君の婚約者だったジュリア-ナ嬢の名前も挙がってるよ。」

「そうか。俺は恨まれてるかもだが、一度会ってみてえな。」


「恨まれてはないと思うよ。それに話はこれからだから、断られる可能性が高い。」

「まあ、向こうも今度は失敗できねえから、慎重になるわな。」

「そうなんだよ。だから期待薄というのが本音だよ。」


「そうか。俺の方も白紙のままだしな。」

「でも、ニコラス君は急ぐ必要無いよね。」

「まあ、校内を見渡せば、まだ結構フリーなご令嬢もいるし、別に平民だって構わねえんだからな。」


 まあ、生涯の伴侶はまだ未定な部分も多いけど、大人の階段は一段づつ上っている。

 それを実感した一日だった。


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