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文化祭はいつも晴れ

 この学校には体育祭は無いので、全員参加の行事と言えば文化祭くらいのものだ。


 一般開放される行事も剣術大会と文化祭だけなので、生徒たちの盛り上がりのほどは想像がつくだろう。

 生徒会にとっても二学期の重要な行事であり、去年の催しが好評だっただけにモチベーションも高い。


 そして、今年の文化祭は例年と違って警備が物々しい。

 先般の賊襲撃が原因だが、タウンゼント家が奮発して、二つも大隊を投入してきた。

 既に生徒数を上回る騎士が学校の内外にひしめいている。



「今日はテンコー達が一番活躍する日だからね。期待しているよ。」

「任せといてよ。僕の生涯最高のイリュージョンをお見せするよ。」

「既に死んでるけどな。」


 今日は広い闘技場一杯に大きな施設を設置している。

 これをテンコーとミント、生徒会メンバーで管理し、フラワーさんとご先祖様には着ぐるみに入ってもらう。


 もちろん、昼と夕方の噴水アトラクションと後夜祭の花火は昨年同様だ。

 校長の開会宣言の後に正門が開かれ、保護者を始めとする多くの来客が入場を始める。

 私たちは、忙しくなる前に各ブースの状況をチェックする。


「みんな準備万端のようですね。」

「今年の一年は優秀だな。まあ、俺たちはA組でさえ、あの惨状だったからな。」

「今年もD組はかなり物議を醸しそうだけど。」

「A組だって、あれ、後で責任取れるのか?」

「身分差で押し切るんじゃない?」


 販売ブースは早くも多くの客で賑わっている。

 依然として、これを文化祭でやる必然性はあるのか、という根本は解決していないが・・・


「あれはラーメンの屋台か。」

「おい、ニンニクマシ過ぎじゃないか?」

 どうしてよりにもよってアレ系に手を出したんだろう。


「あっちはバザーだね。」

「孤児院から大量に仕入れてたよね。」

「さすがはオリヴィア先輩率いる3年A組だ。俺たちとは理念からして違う。」

 ニコラス君から理念なんて言葉が出るなんて・・・

 そして、私たちは闘技場に戻り、整理券の配布を始める。


「今年は利用者が一人づつだから、管理が簡単だな。」

「多分、去年みたいに中でイタズラする人はいないよ。」

「結局、犯人は捕まらなかったな。」

「ローランド殿下は、確かにダメージを与えた手応えはあったって言ってたのにね。」

「相手もある程度の手練れだったようだな。」

 ここで最初の爆発が起きる。初心者用の施設からだ。


「音だけはスゲえな。」

「そこはテンコーだからね。上手いよ。」

「ミントはいつものイタズラか?」

「リタイヤ選手の退場補助もしてるよ。」

「おっ!上級者用も始まったぜ。」

 上級者用はオープンスペースでサ○ケをやっている。

 もう既に、イリュージョンではない・・・


「懐かしいな、イラ○ラ棒じゃねえか。」

「時間制限ヤバめだね。」

「次がローリング丸太か。」

「結構ガチで作り込んでるよね。」

「騎士団用に作ってもらおうかな。」

「しかし、1stステージですら誰もクリアできないね。」


さすがは上級者コースだ。完走者には豪華記念品も用意しているが、誰もクリアできそうにない。


「あれ?アイツ仕事サボって遊んでるぜ。」

「オーッホッホッホ!下民ども良く見てなさい。高貴な私の華麗なアクションを!」

 何かキャロライン嬢がスタート前から既に暴走している。


「おい、テンコー。」

「何だい?」

「ちょっと邪魔してやれ。」

「それはちょっと・・・」

「いいんだよ。イ○イラ棒を触れてないのに爆発させてやれ。」

「もう~、後どうなっても知らないからね。」

 ブザーが鳴ってご令嬢が駆け出す。彼女が棒を差し込む前に激しい火花が飛ぶ。


「な、何ですの?これはクリアしたということなのですね。」

 彼女は何を思ったか、その場をスルーして次のアトラクションへ。


「アイツ、ルール知らねえだろ。テンコー、丸太の下をクッションじゃ無く泥水に変えろ。」

「ええ~、いくら何でもやり過ぎだよ。」

「大丈夫だ。その程度で崩れる髪型でも無いだろ。」

「分かった。試してみる・・・」


 テンコー、何だかんだ言っても従うんだね。

 バシャン!!

「キャーッ!」


 一際大きな水しぶきが上がる。

 いや、人際も何も他の挑戦者の時は柔らかいクッションが落下緩衝材なのだが・・・


「こ、これは・・・最優秀主演女優賞なのでセーフですわ!」

 そう言うと彼女は泥沼から這い上がり、2ndステージのスター台に立つ。

「ヤツの前ではルールも無意味だな。」


 第二ステージはスパイダーウォークというコース両端の壁に手足を突っ張って先に進むアトラクションからスタートするが、彼女はこの競技を知らなかったのだろう。

 そのまま走り幅跳びを行い、またしても泥沼にダイブ!


 テンコーもそろそろ緩衝材に変えてやりなよ・・・

 そして、不屈の闘志で這い上がった彼女はリバースコンベアに突入する。

 とてもお嬢様には見えないが、とてつもないパワーでクリアする。

 そして、ウォールリフティングは・・・


 得意の火魔法で破壊してステージをクリアしてしまった。

 泥だらけのご令嬢は、これで満足したか、こちらに戻って来る。


「初めてでこれなら、上出来じゃありませんこと?」

「せっかく模範映像が流れてるんだから、その通りやれよ。」

「私くらいの上級者になれば、人真似しなくてもクリアできますのよ。」

 いや、できてないと思う。


「しかし、見事に泥だらけだな。」

「でも、まあまあ楽しめましたわよ。」

「それに、お前の髪、強いな。」

「私の自慢の侍女達が毎朝セットしてくれますの。きっと魔王の攻撃にも耐えられますわ。でも、ドレスの汚れは如何ともし難いので、今日はこれにて失礼させていただきますわ。では殿下、馭者、ごきげんよう。」

「あ、ああ・・・」

 彼女は颯爽と去って行った。


「今思い出した。アイツの髪、ツタンカーメンだな。」

「泥水程度で乱れるわけないね。」

「しかし、上機嫌だったな。」


「ああ見えて彼女、多少のことでは怒らないよね。」

「どこがだよ。」

「いや、普通のご令嬢はあんなこと頼んでもやってくれないよ。泥まみれでも平気だし。」

「むしろ喜んでたな。」

「なかなか可愛いとこあると思うよ。」

「やっぱり殿下、いろいろスゲえな。」


 その間にも、あちこちから歓声が上がる。みんな楽しんでくれているようだ。

 もちろん、水柱が上がることは無い。

 ドウェイン君とアナベル嬢も二人で初級者用に挑戦してた。


 こうして次の日も事故、いや、食中毒も無く、無事に閉会を迎える。

 生徒会役員は闘技場に集まり、全員で花火を見つめる。


「たかが学校行事だが、終わってみると少し寂しいな。」

「そうだね。来年は生徒会では無いけど、また頑張りたいね。」

「俺も生徒会の縛りが無ければ、もっと楽しめたはずだからな。」

「今日はずっと初級者用に女子と入り浸ってたヤツが何を言う。」

「そうですわね。ローランド殿下は仕事をしておりませんでしたわね。」

「いやお前だって、ついでにドウェインもほとんど遊んでたじゃ無いか。」

「テンコーのお陰だよ。」

「ミントも頑張ったよ!」

「そうだね。まあ、生徒会はよく頑張った。結論はこれだね。」


 華やかな夜空を見上げる。生徒の歓声と花火の音が、祭りの最後を盛り上げる。


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