苦情処理は続く
さて、剣術大会が終わればすぐに文化祭の準備に取りかかるのだが、テンコーたち以外は余裕があるので、残りのメンバーでいつもの苦情処理を行う。
「しかし、何でこんなに苦情が多いのかな。」
「お貴族様の集まりだからな。我が儘なんだろ。」
「あら、口だけニコラス卿も一応はお貴族様・・・ああ、あなたは違うかも知れませんね。」
「お貴族様ってのは、口が極悪なヤツのことを言うんだぜ。」
「真実を語っているだけですわ。良薬は愚か者ほど苦く感じるものですの。」
「効かないものは良薬とは言わねえんだぜ。」
二人とも本当によく口が回る。
しかも、かなり毒を吐いているのに、未だに取っ組み合いの喧嘩になったことが無い。
きっとウマが合うのだろう。
「それはそうと、これなんかどうだい?」
「なになに、最近フィアンセが冷たいのですが、ボツだな。」
「少なくとも生徒会が介入するような問題ではないね。」
「これはどうだい。ジェームズ先生の視線に湿度を感じます。どうにかなりませんか。」
「死刑だな。」
「しかし、湿っぽさではなく湿度とは・・・」
「熱い視線と書かれていない所が何ともまあ。」
「ジェームズ先生ってそういうキャラだよね。」
「顔はいいんだよ。顔は。」
「でも、よからぬオーラが出てるよね。」
「もっと堂々とすりゃいいんだよ。元は優秀なんだろうし。」
「やっぱりジェームズの魅力が分かるのはアタシだけのようねぇ。」
「会長、次行きましょう。」
スルーされた。
「最近、校内に迷い込んだネコをみんなで飼ってます。名前はウィンスロット貴族学校から取ってウィンネコです。エサ代を生徒会で補助していただけませんか。」
「平和だな。」
「こんなのもあるよ。ミントちゃんを私に下さいってさ。」
「そりゃ、可愛いもの好きには堪らねえだろうからな。」
「でも、この部屋の鏡の妖精だからな。」
「屋敷の鏡にだって妖精はいるんでしょ?」
「ミントか彼女が紹介してくれた妖精しか見えないからね。」
「本来なら、国で保護すべき貴重な存在ですわ。」
「言われてみればそうだな。でも、保護と言っても手段が無い。」
「自在にどこでもすり抜けていくもんね。」
「まあ、ミントは生徒会預かりだからあげないとして、もう他にちゃんとした要望って無いの?」
「あっ、これはマトモだよ。」
「どんなんだ?」
「最近、裏門付近に怪しげな中年男性がいて、どうやら怪しげな宗教団体に勧誘しているそうです。怖いので対処をお願いします。」
「これは警備の仕事じゃないの?」
「そうですわね。三歩譲っても教員の仕事ですわね。」
「だが、我が校の最大戦力は生徒会だぜ。」
「じゃあ、暇つぶしにクビを突っ込んでみようぜ。」
ローランド殿下の暇つぶしで、生徒会の介入が決まった。
相手が勧誘と言うことであれば、向こうから声を掛けてもらえるよう、少人数の班編制がいいだろうということになった。
まずはニコラス君とライオネル君のペア、続いてドウェイン君とローナさん、その次がローランド殿下とキャロライン嬢のペアで、正門と裏門を巡回することにした。
私はフラワーさんと応援部隊として裏門に待機する。
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俺とキャリーのペアなんて珍しいが、見た目ゴージャスな王子様と彼女なら並んで歩いていても自然だろう。
こんな陽キャカップルに宗教の勧誘が声を掛けてくるかどうかは知らんが・・・
「しかし、宗教って神教以外にあったんだな。」
「この国にはその一つだけで、あとは邪教しかございませんわ。」
「俺もその理解なんだが。」
裏門を出て通りを渡り、路地に入るとフードを被ったいかにもなヤツが経っている。
俺たちはそれとなくヤツの前を通り過ぎようとすると。
「もし。そこの学生さん。3分だけお時間をいただくことはできないなでしょうか。」
「俺はともかく、高貴な彼女の時間は有料だが、いいのか?」
「あ・・・いいえ、それなら結構です。」
失敗した。今の俺たちは勧誘に引っかからないといけねえんだった。
「なんだ。用があるなら付き合うことはやぶさかじゃないんだがな。」
「そうですわね。有意義な話なら、今なら特別に無料で対応してもいいわ。」
「そ、そうですか・・・では、3分間だけお祈りを捧げてもよろしいでしょうか。」
「ああ、やってみな。」
男だと聞いていたが女だ。勧誘員は複数いるんだろうな。
「では、目を瞑って手を組んで下さい。」
取りあえず言われたとおりにする。
「天にましますパテーラの神よ。願わくは悩み多き人の心を安んじ給え、日々の糧を今日も与え給え、健やかなる日々と成功を与え給え、我ら神の僕を栄え増やし給え。」
一応、相手がいいと言うまで大人しくしておく。
「では、祈りは終わりました。我がパテ-ラの神はあなた方を信徒と認め、祝福をお与えになりました。大変喜ばしいことです。つきましては、私たちが集う教会にご案内したいと思いますが、来て頂けるでしょうか。」
「いや、こちらも忙しいんでな。それに、先ほども言った通り有意義な時間じゃ無かったからな。」
「何をおっしゃいますか。パテ-ラ様の祝福など、滅多に受けられるものではありません。とても光栄なことなのですよ。」
「しかし、とても無駄な3分間だった。高貴な人間の1分は金貨1枚にも等しいぞ。」
「神の加護はどれだけお金を積んでも代えがたいものなのですよ。」
「なら、その神の加護が本物かどうか試してやる。今からお前を本気の魔法で攻撃する。神の加護があるなら死なないとは思うがどうだ?」
「では、私は神の下に参りましょう。」
「まあまあ、ローランド殿下。ここは私にお任せを。」
「いいぞ。」
「ここにおられるのはバレッタの王子ローランド殿下です。この方の貴重なお時間を3分どころかもっと欲するなら、あなたはまず、時間を買うための金額を提示する必要がございますわ。」
「ですから、神の加護はプライスレスだと申しているのです。」
「王子の時間もプライスレスですわ。それと、貴族の時間も同じ事。金儲けがしたいなら、貴族学校の生徒は相手にしないことをお勧めするわ。」
「しかし、既にお二方には加護を与えております。このままでは与え損でございます。」
「まあ、それでは加護が与えられたという証拠が欲しいですわ。」
「そうだな。俺には何の加護が付いたんだ?」
「全ての加護です。」
「いや、俺たちには元々加護が付いているんだが、同じ物を押しつけられても困るぜ。」
「そうですわね。プライスレスどころか迷惑ですわ。」
「外してくれ。」
「そ、その・・・」
「俺は将来、一国の王になる者だ。異教の邪神の加護なんかあっちゃ困るんだよ。外せないならお前を不敬罪で捕まえるぞ。」
「分かりました。今すぐ加護を外します。」
こうして、また3分手を合わせることになったが、撃退には成功した。
この勧誘員はすごすごと立ち去ってしまったため、この日の活動はこれにて終わってしまった。
「かなり悪質でしたわ。」
「そうだな。気の弱いご令嬢なら断り切れまい。」
「でも、二人はやっぱり凄いと思うよ。」
「そうだね。見るからに強そうだし、頼りになるよ。」
「できれば俺たちも活躍したかったな。なあ、ドウェイン。」
「僕は・・・」
「殿下、他にも勧誘員はいるでしょうから、これからもお任せ下さいな。」
「ああ、これからもよろしく頼むよ。」
そうだね。また日を改めて巡回することにしよう。