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剣術大会

 さて、今年もこの季節がやって来た。


 去年はドウェイン君を優勝させるために八百長したが、今年はもう、そんなことをする必要はない。

 まあ、今にして思えば、あんなことをしなくてもドウェイン君が優勝する可能性はかなり高かった訳だが・・・



「また剣術大会だね。」

「今年は兄ドリも卒業していねえからな。俺たち以外に有力な選手もいないから楽勝だな。」

「ニコラス君は優勝がノルマじゃない?」

「ああ、最低でも金ってヤツだな。」


「じゃあ、最高は何だろうね。」

「最高でも金って言ってたような気がするな。」

「ところで、キャロライン嬢は出ないのかな?」

「どうせ、高貴な私がんなはしたない真似する訳に行きませんわ、とか言う理由で出ないだろう。」

「じゃあ、今年当たったらニコラス君に譲るね。」

「ドウェイン、そんなことをしなくても、今なら真剣勝負でお前に勝てるぜ。」

「確かにそうだよね。じゃあ、胸を借りるつもりで全力で行くよ。」

 昨年の実績からドウェイン君が第1シード、私が第2でニコラス君が第3シードだ。


「さて、今日は久しぶりに養成ギブスを外そうかな。」

「そういや、ニコラス君がそれ引き継いだんだよね。」

「まあ、俺はドウェインより少し線が細いから、多少は調整したがな。」

「じゃあ、最初は僕からだね。」


 ドウェイン君が競技場に向かう。

 今年は本戦参加者が12名で、シードは2回戦からの登場だ。

 彼の相手は鳥かごの生徒だ。意外なことに強豪選手だったらしい。


 それでも、昨年優勝者のドウェイン君がたったの一撃であっさり押し切ってしまった。

 そして、私の相手は一年生だったが、デーモンスレーヤー王子に萎縮する相手をこれまた圧倒し、開始僅か5秒で封殺した。


 ニコラス君も難なく女子を弾き飛ばしていた。

 そして準決勝。


 ドウェイン君の相手はオリヴィア先輩である。

 昨年、彼女と対戦したが、その早さと正確さに翻弄した記憶がある。

 さすがノーシードでここまで勝ち上がって来ただけのことはあって、力のドウェイン君も苦戦している。


「さすがだな。あれだけやれるなら、先輩も騎士団に入れるな。」

「いや、卒業後はすぐにケント先輩と結婚して、ヴィッカース侯爵家に入るそうだよ。」

「あれほどお似合いのカップルは、この国いないってくらい良い感じだもんな。」

「でも、さすがに剣術ではドウェイン君の方が一枚上だったみたいだね。」

 ドウェイン君が先輩の剣を弾き飛ばし、決勝に駒を進めた。


「さあ、次は私たちの番だね。」

 次は準決勝のもう一試合。私とニコラス君の対決だ。


 ここのところ、あまりニコラス君と練習試合をしていないが、彼はまた一回り大きくなり、威圧感を増している。

 全力を出して勝率3割ってとこか。


「では両者対戦・・・始めっ!」

 開始と同時にニコラス君が踏み込んでくる。

 一歩下がって間合いを確認するクセのある私に対応した策なのだろう。


 私はここで敢えて避けずに屈み、前傾姿勢から突きを繰り出す。

 ニコラス君は左に飛び、横から攻める構えを見せる。同時に私は逆に一歩下がって間合い取る。

 実は彼と一緒に練習していたとき、このパターンに度々なっていたから互いに慣れたものである。

 しばし両者睨み合い、同時に踏み込んでつばぜり合いをする。


 2合、3合、と鋭い金属音が鳴る。

 超接近戦を嫌ったニコラス君に押し返され、再び踏み込んで強打する間合いに戻った。


 私は弧を描くようにゆっくり時計回りに歩を進めるが、こちらの右足が浮いた瞬間にニコラス君が踏み込んできた。


 動くんじゃ無かったと後悔しているとニコラス君が突きの構えを見せる。

 私が咄嗟に彼の剣を横に薙ぎ払うために身構えた時、彼が急停止。

 こちらが一瞬降職した瞬間、彼の剣が小手に入った。


 痛みと驚きで剣を落とした瞬間、勝負は着いた。

「勝者、ニコラス君!」


「すまなかったな。痛み、大丈夫か?」

「ああ、ルシア嬢に治療してもらったから、取りあえず痛みは引いてきてるよ。」

「それにしても名勝負だったぜ。」

「もう少し抵抗するつもりだったけど、キャロライン嬢の口ほど耐えられなかったよ。」

「いや、あの口も攻めは強いが守りは脆いぞ。」

「まあ、それはそうと次は決勝だから、お互い頑張ってね。」

「ああ、どっちが買っても恨みっこ無しだぜ。」


 二人が競技場の舞台に立つ。

 この国屈指の剣豪による試合だ。

 サッと水が引くように会場が静まり返る。


「それでは決勝戦を開始します。始めっ!」

 去年とは打って変わって真剣勝負だ。


 二人とも踏み込んでつばぜり合い、そして力比べを行う。

 その直後、ドウェイン君の方が仕掛けた。膂力に勝る彼はこういった戦いが得意だ。


 ニコラス君も負けずに押し返そうと試みる。

 下手に下がるとそのまま押し倒されてしまうのだ。そして素早いフェイントを挟んでドウェイン君の勢いを削ぎながら好機を窺う。


「まだ息が上がらねえなんて、最近サボってたにしちゃ、やるじゃないか。」

「僕はまだまだ成長期だからね。」

「末恐ろしいな。」


 ニコラス君が流れを変えるために右に飛ぶ。

 ドウェイン君がすかさず剣を大きく横に薙ぐが、これを後ろに躱したニコラス君はようやく間合いを広げることができた。


「こっからは俺のターンだぜ。」

 今度はニコラス君がフェイントを掛けながら距離を詰める。

 ドウェイン君も大きく足を出して大きく間合いを冷とうとしたが、その隙に横にステップしたニコラス君が身をかがめてドウェイン君の脇腹に飛び込む。

 そこで審判の旗が上がる。


「それまで。勝者、ニコラス君。」

 会場が大きくどよめき、それが大きな歓声とスタンディングオベーションに変化していく。

 二人は共に健闘を称え合い、こちらに戻って来た。


「さすがは二人だね。お疲れ様。」

「行けると思ったけど、やっぱりニコラス君は強いよ。」

「さすがにギリギリだったな。」

「でも早かったよ。」

「試合ならあれでもいいが、実戦なら相討ちだ。」

「そういうものなのか。」

「ああ、命のやり取りはまた別だからな。」


「ニコラス君、いつもこんな調子ならA組に復帰できるのに。」

「俺だって、あの毒舌お邪魔虫キャラさえいなければ、もっと学生生活に集中できるんだけどな。」

「まあまあ、とにかく優勝おめでとう。」

「優勝と準優勝だ。父上も鼻高々だろう。」

「去年みたいに不敬だって怒らないかな。」

「あれは理不尽だったね。」

「養子にそこまで言わないんじゃない。」

「父上がこの一年で多少成長してることを願うよ・・・」


 こうして、今年の剣術大会も無事終わった。


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