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再度、風紀を糺す

 9月第三週は、生徒会が主導する校内風紀強化週間だ。

 初日である今日は、生徒会役員と全クラスの風紀委員全員で登校時の服装チェックを行う。



「そこの君。制服は着崩さないように。」

「そこのあなた。はしたないですわ。スカート丈を元に戻しなさい。」

「も、申し訳ございません。キャロライン・ゴールドバーグ侯爵令嬢様。」

「ここでは副会長とお呼びなさい。セシル・レーン子爵令嬢。」

「は、はい。気を付けます。」

 彼女は上級生にだって容赦はしない。


「あなた、まだその鳥かご持ってきているのですか?」

 この生徒は昨年、ニコラス君とともにB組落ちした男子生徒だ。


「ピーちゃんJrはまだ幼くて、私と一緒じゃ無いと寂しがるんです。」

「屋敷に世話係くらいいるでしょう。それに、鳥はあなたごときの世話など必要としておりませんわ。」

「そんなことはありませんよ。」

「ではその小窓を開けてみなさい。あなたなどそっちのけで飛び去ってしまうはずですから。」

「僕のピーちゃんJrを馬鹿にしないで下さい。」

「では、屋敷に返してきなさい。」

「それでは遅刻してしまいます。」

「自己責任です。それに、あなたは真面目に勉強している訳ではありませんよね。」

「いや、彼は彼なりに頑張ってると思います。」

「他人事のように言わない!とにかく、そんな物を持って登校することは認められませんわ。」

 彼はすごすごと帰宅する。


「あいつもああいう事には使えるな。」

「妥協を一切しないからね。」

「ああ、個人的には鳥かごなんてどうでもいいと思うけどな。」

「でも、さすがにあれはどうかと思うレベルですね。」

 やって来たのはモヒカンが先導するスキンヘッドの集団。一年生か?


「あらあら、貴族らしからぬ髪型・・・というより髪の毛の無い方々が来ましたね。」

「髪が短いことについては、特に校則で規制は無いはずですが。」

「髪の毛が無いのはご年配の諸侯だけですわよ。」

「何?俺たちのヘアスタイルをバカにするのか?」

「何をとち狂ったのかは存じませんが、この学校の品位に相応しくない髪型は、長さに関係無く違反ですわよ。」

「ただ剃っただけじゃないか。」

「そこのトサカが特にみっともないですわよ。」


 前々から思っていたが、キャロライン嬢って結構度胸あると思う。

 私も今でこそ王族という立場が身の安全を保証してくれているが、前世でモヒカンとスキンヘッドの集団にあれだけ物を言う度胸などない。


「自分の事は全てどこかに置いてきてるんだな。」

「いや、あれはとても貴族らしいと思うよ。」

「それはそうだな。」

 キャロライン嬢がとても貴族らしいというのは論を待たないし、この時代の価値観的には彼女に分があるのは明白だ。

明白だけども・・・


「い、いかに侯爵家のご令嬢とは言え、少しばかり失礼が過ぎないか?」

「真面なことは、まず真面な髪型にしてからほざきなさい。」

「何だと?」

「大体、髪が無いからといってそのような開き直りかたをするとは、何と情けない。もっとありのままに堂々とすれば良いのです。」

「か、髪が無い訳では無い。」

「あるのですか?では、それをこれから証明なさい。できるまで登校は認めませんわ。」

「毛穴はちゃんとここにある!」

「死んでますわね。」

「何?」


「こんなおかしな髪型を良しとするあなた方の価値観も、1年の分際で先輩に対して真面な口調で会話できないところも、毛穴どころか根本の脳が死んでいますわ。」

「そちらこそ、辛辣過ぎて品位を損なっているじゃないか。」

「敬愛できない方に品位をもって接する必要なんてあるかしら。あなた、庶民に対しても恭しく接しているの?」

「そ・・・それは・・・」

「お馬鹿さんは休みを挟んでお言いなさいな。そしたらもっと真面な言葉が思い付きますわよ。」

「・・・」


「あなたも、その取り巻きも、家がそれを認めたということであれば、ゴールドバーグとしてお付き合いを考えさせて頂きます。高貴な当家は下卑た者など必要としていないのですから。」

「いや、それはいくら何でも。」

「髪があるなら生やしてから出直して来なさい。」

「ス、スキンヘッドは立派な髪型だ!」


「庶民と貴族の違いすら理解してないとは嘆かわしい。貴族でそのような髪型が認められるのは純粋な軍人か天然の場合のみですわ。あなたたちのような者が真似たところで半人前の背伸びにしか見えませんわ。」

「おい殿下、高校球児は全員アウトなのか?」

「しっ!ニコラス君、聞こえるよ。」

「とにかく、風紀を乱す出来損ないども、今すぐ立ち去りなさい!」

 キャロライン嬢の圧倒的な迫力に押され、彼らはすごすごと立ち去る。


「初日から強烈だったね。」

「私に刃向かうとこうなりますのよ。オーホッホッホ!」

「しかし、最後は気の毒なくらい圧倒されてたね。」

「あの軽い頭で私を何とかしようなどとは片腹痛いですわ。」

「だからお前はそんな重いオプションを取り付けてるのか。」

「ニコラス卿、頭に加えて口まで軽いのは、更に重傷ですわよ。」

「今日のお前、切れ味抜群だな。」

「まあまあ、そろそろ始業時間だから。」

「そうだな。これから教室で持ち物検査だったな。」

「去年は違反者続出だったからなあ。今年はあんなことになってないことを祈るよ。」


 のっけから大騒ぎで始まった風紀強化週間だったが、今年は不適切図書の摘発などは無かったようで、安堵しているところである。


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