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筋肉を付ける

 夏休みも残り僅かとなったが、この時間を体作りのために有効活用しないといけない。


 俺自身、前世ではかなり鍛えられた肉体を持っていたが、ここに来たときの体がモヤシっ子だった影響からまだ抜け出せていない。


 先日のオオムカデとの戦いでも、軽さと持続力の無さを実感した。

という訳で、まだ暑い最中ではあるが、走り込みと筋トレだ。


 今は騎士団訓練場の外周を走り込んでいる。


「さすがはニコラス君、鍛錬に余念が無いねえ。」

「ええ、団長に追いつけ追い越せですよ。」

「本当は、ドウェインにその意気を持ってもらいたかったものだが・・・」

「しかし、アイツのガタイは確かな努力の結果だと思うが。」

「そうなんだよ。以前は熱心に鍛えていたから期待していたんだが。」

「アイツに何があったんだろう。」

「まあ、思春期にはいろいろ考えることもあるだろうし、儂としては残念でならないが、ドウェインの決意は変わらなそうだしな。」

「確かに、アイツは屈強な騎士というより、勉強家だな。」

「まあ、儂はニコラス君が養子に入ってくれるから、それで満足だよ。」

「そう言っていただけると後衛ですよ、団長。」

 こうしてたっぷり3時間走り込み、昼食を挟んで筋トレに移る。


「ニコラス君、相変わらず熱心だねえ。」

「今日は早いじゃないか。」

「うん。一応夏休みだからね。仕事は少なめにしてもらってるよ。」

「あの陰険メガネにもそういう配慮ができるんだな。」


「お父様をそんな悪く言ってはダメだよ。」

「もう父親じゃないけどな。」

「血のつながりは消えないよ。」

「血も繋がってないかも知れねえぞ。」

「良く似てると思うんだけどなあ。」

「ドウェインも久しぶりにどうだ?」

「うん、ニコラス君ばかりつらい思をさせる訳にはいかないから、付き合うよ。」

「いや、俺は別に辛くは無いんだが・・・」


 二人でバーベルを上げる。俺もかなり筋肉が付いてきたが、それでもドウェインに比べるとまだ線が細い。以前はスピード重視の剣道を目指していた俺だが、この世界では体格に勝る敵が多いこと、そして戦い方そのものが剣が重さを利用した斬撃であることを考えると、パワー重視が正解だと考えている。


「何回上げるの?」

「裁定百回だな。」

「普通は無理だよね。」

「騎士団長を目指すなら、普通ではダメさ。」

「僕でも50回は難しいよ。」

「それでも大したもんだな。」

「ヴィクター様の所で働くには必要ないけどね。」

「アイツは俺のことを脳筋とか抜かしやがるが、俺の筋肉は語るんだぜ。」

「心配しなくても、ニコラス君の口は相当語ってるよ。」

「俺の天敵はあの陰険メガネと縦ロールだからな。アイツらにだけは負けたくねえな。」


 喋りながらだと集中して力を込めることが難しいが、それでも3時間かけて100回上げてやった。

 さすがに背中と腕がパンパンだ。


「もう夕方だよ。そろそろ休んだら。」

「ドウェイン、たまには剣術の稽古に付き合えよ。」

「うん、いいよ。」

 今日の最後を飾るのは剣術の模擬戦だ。


「ニコラス君と打ち合うのは、剣術大会以来かな。」

「あれは出来レースだったからな。本気の打ち合いは久しぶりだな。」

 早速、俺とドウェインは打ち合いを始めるが、さすがに最近サボり気味のドウェインは分が悪い。

 しかし、剣戟の音を聞きつけて周りに他の騎士団員たちが集まってくる。


「ほう、今度の新人はドウェイン様と互角以上にやれるのか。」

「今年入団したのよりはよほど強いな。」

 などと、俺たちを品定めする声があちこちから聞こえる。


「では、次はそれがしと一勝負お願いできないかな。」

「いいですよ。やりましょう。」


 こうして俺は第四分隊長殿と試合をすることになった。

 正確に言えば、第二大隊第五中隊第一小隊第四分隊長だ。

 こうして聞くと、いかにこの騎士団が大きな組織か、そして分隊長がそれほどでもないかが分かる。

 こんなのに苦戦しているようでは、騎士団長など夢のまた夢だ。

 まあ、防具は着込んでいるんで、多少本気で打ち込んでも平気だろう。


「両者構えて・・・・始めっ!」

 開始と同時に俺は一歩下がって間合いを取る。

 どうやら分隊長は受けて立つようで、その場から動く気配はない。

 俺は前後にステップしながら機を窺い、剣を上段に振り上げて前に踏み込む。


 分隊長は剣を受け止める構えを見せたので、一瞬だけ剣を下げてフェイントを掛け、そのまま突くと見せかけもう一度剣を振り上げ、やや前のめり気味に面を打ち込んだ。

ガンッ!と激しい音がして、分隊長がぐらつく。俺は勢いそのままに後ろに回り、背中側から肩口を目がけて袈裟懸けする。


 勝負は一瞬だった。

「そこまで!勝者、ニコラス!」


「いやはや、素質はかなり高いと見込んでいたが、入団前に分隊長に勝てるほどとは。」

「これは団長、いや、父上。」

「全くもって頼もしい。スピードとパワー、共に申し分無い。」

「最近、増えた筋肉がおしゃべりなもので。」

「あのガッと出てピュッと剣を出し、スババッと突き出すところは歴戦の強者を彷彿とさせる。」

「踏み込む瞬間のギュワッというのが長年の鍛錬の成果です。」

「確かに、あのタイミングを予測するのは分隊長クラスでも至難の技だ。」

「剣術大会は是非、期待してて下さい。」

「ああ、ドウェインもニコラス君に負けないよう、修練に励め。」

「はい・・・」


「さあて、晩飯までにもう少し背筋を鍛えるか。本当に勉強なんてしてる暇ねえな。」

「本当に喜ばしいことだ。その調子で頼むぞ。」

「ああ、腕であれ腹筋であれ、鍛錬すればその分、筋肉は答えてくれるからな。」


 腹筋や背筋が語るのは脳筋とは言わねえだろ?

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