さすがは未来の勇者パーティー
さて、馬車は国境を越えウィンスロット王国に入る。
馬車は夏の日差しを受けてとても暑いが、旅は順調だ。
「もうすぐ王都だね。」
「帰ったらみんなの自由研究も手伝うよ。」
「それにしても、ニコラス君は馭者しなくて良かったの?」
「やりたいのは事実だが、他人の仕事を取っちゃいけねえからな。」
「御者台に座らないのなら、一杯どうだい?」
「おおっ、いいねえ。」
「二人とも、朝っぱらから飲むのかい?」
「こんな暑い日には、キツいヤツを呷らないとやってられねえぜ。」
「すごい、すごすぎる・・・」
「全く、大人として節度を持って飲んで下さい。」
「全くルシアちゃんは・・・」
「どうせなら聖女様も一杯どうだい?」
「結構です。」
「別に、聖女様だからって飲んでいけない決まりはないんだろう?」
「アルハラです。」
「まあまあ、無理に勧めちゃあいけないよ。」
「二人が酔ったら、光魔法で回復させてやって下さい。」
「さすがドウェイン、気が利くな。」
「それなら半永久的に飲めるな。」
「永眠させてあげますわ。」
「相変わらずお顔に似合いの殺傷力が高い口だな。」
こうしてローランド殿下とニコラス君の酒盛りが始まり、残る三人が生暖かい顔でそれを見守っていると。
ゴゴッ!
馬車の制動機が作動し、ローランド殿下がニコラス君の方に飛んでいく。
「何があった!」
「はい、前方に魔物がおります。」
5人はすぐに馬車から飛び出すと、かなり前方に巨大な魔物が確認できる。
「どうやらオオムカデだな。」
「フォレストセンティピードってやつだね。」
「しかしでけえな。」
「行こう!人が襲われてる。」
100mほど走って散開する。前衛3人、後衛2人だ。
ムカデは10mくらいある大物で、人が襲われてさえいなければ追い払って後はスルーしてしまうべき強敵である。
相手はこちらを確認すると頭を持ち上げ、攻撃態勢を取る。
しかし、ここにローランド殿下の火属性魔法が炸裂する。
「よし、殿下はヤツの後ろ、ドウェインは左に回れ。」
「分かった。」
ローランド殿下は右に回り、ムカデを囲んでそれぞれ攻撃を開始するが、動きが早いために主に攻撃を加えているのは後ろに回ったミッチェルと遠隔攻撃を行うローランドである。
そして、ムカデの首がローランド殿下の方を向いた隙にドウェインが反対側から攻撃を加えるが、咄嗟に頭を旋回させたムカデにはね飛ばされてしまう。
しかし、すかさずルシア嬢が回復魔法をドウェインにかけ、ミッチェルが尻尾を切り落とすと徐々にムカデの動きは小さくなり、やがて四人の集中攻撃により、ムカデは沈黙する。
その後は、ルシア嬢が周囲に倒れている人たちの治療に当たり、男性陣は街道を通行する馬車の交通整理に当たった。
「最後のとどめはミッチェル殿下が刺したらどうだ?」
「じゃあ、頭を落とすけど、それじゃまだ死なないんじゃないかな。」
「ひっくり返ってくれれば、腹部は柔らかそうだけどな。」
「ドウェインは怪我ないか?」
「治療してもらったから痛みは無いよ。ルシア様、ありがとうございます。」
「いいえ、皆さん素晴らしい手際でした。」
「ハッキリ言って、魔王より強かったな。」
「あれは魔王じゃなかったと思うぞ。」
「そう言えば、去年の交流会の時に魔王と戦ったそうですね。」
「あれは相手が魔王を名乗っただけで、魔王じゃ無かったと思ってるよ。」
「それでこれ、どうする?」
「素材は売れるそうだけど、正直言って解体はしたくないなあ。」
「グロいよな。」
「汚れるしね。」
「でも、来年のダンジョン攻略研修では実際に解体までやるんだよね。」
「一匹も倒さないって手もあるぜ。」
「卒業できないよ・・・」
そうは言ってもこのまま炎天下に放置しておく訳にもいかず、その辺にいた一般の人たちとともに解体を始める。
「結局、怪我人は何人だったの。」
「残念ながら、お二方は命を落とされました。怪我人は8名ほどおられましたが、重篤な一名を除いてみなさん、すでに解体に加わってくれております。」
「毒とかはね飛ばされた人までは助からなかったか。」
「これだけの大物ですからね。一般の方ではひとたまりもありません。」
そうこうしているうちに、警備兵が到着したので、解体作業ごとお願いして、王都に帰ることにした。
「素材などはどうされるのですか?」
「亡くなった方にあげることにしたよ。せめて何かの足しになればと思ってね。」
「大変良いことをされました。」
「それにしても、あんなのが普通にいるんだな。」
「さすがにあのクラスは滅多に出ないとは思うけど・・・」
「それを瞬く間に退治してしまう皆さんの強さに驚きました。」
「かなり苦戦したけどね。」
「いいえ、かなり手際が良かったように思います。」
「モンハンみたいだったな。」
「美味しいとこだけ横取りするようなヤツがいなくて良かったぜ。」
「そこがこのパーティーの良い所だな。」
モンハン、どこにあるんだろう・・・
「でも、虫系はもうごめんだな。」
「まだ爬虫類の方がマシなことは同意だな。」
「まあ、無事に帰ってきたことに感謝しよう。」
「そうですね。」
こうして城門をくぐり、王都に帰還した。