生徒交流会にて
夏休みに入って早くも一週間が経ち、今日は毎年恒例の生徒会主催学生交流会の日だ。
去年は先生が溺れるし、魔族は出現して途中で中止されるなど波乱続きだったけど、今年は無事成功するように入念な準備を進めてきた。
「さて、これから出発すれば午後には宿泊施設に着くね。」
「みんなと一緒、うれしーっ!」
「みんなあまりはしゃぎすぎちゃあダメだよ。」
「はーい。」
そう、今年の交流会には盛り上げ役としてミントやテンコーたちも参加する。
これは花火や舞踏会照明などのアトラクションを手伝ってもらうためだ。
特に、肝試しに使っていた遊歩道があの事件以降封鎖されてしまったため、彼らの協力が欠かせないのだ。
「みんなでお出掛けって初めてだからね。」
「うん。七不思議で校内を巡っただけだね。」
「ご先祖様もよろしくお願いします。」
「ええ、子孫のダンスの腕前を見させていただきますわ。」
「でも、みんなもうみんなすっかりお馴染みのメンバーになったよね。フラワーさんなんかこないだ新館トイレの掃除してたし。」
「あそこの2番目はよくジェームズが利用してるのよ~。」
「男子トイレかいっ!」
「あら~。トランスはどっちでも問題無いのよ~。」
いや、いろいろ問題あると思う・・・
「じゃあ殿下、準備ができたから出発するぜ。」
ニコラス君が荷馬車の馭者を務め、私とドウェイン君も同乗する。
キャロライン嬢を始めとする他の役員も馬車に分乗し、会場に先乗りする。
「しかし、ちょっと別行動してた間に二人の進路が決まってしまうなんてねビックリだよ。」
「入れ替わっただけなんだけどな。」
「僕たちずっと殿下の側近を続けていいんですよね。」
「こちらからお願いするよ。それでそれぞれの婚約者はどうなの?」
「僕は婚約続行だよ。まあ、まだ政治の道を目指すか学術の水戸を目指すかは決めキレてないんだけどね。」
「俺は先方から婚約破棄されるらしい。まあ、俺の我が儘に付き合わされたジュリア-ナ嬢には申し訳ないんだけどな。」
「じゃあ、また一から出直しだね。」
「だが、馭者でいいっていうご令嬢を探せばいいだけなんだから、選択肢は広いよな。」
すごく狭いような気もするが・・・
「それで、二人はそれぞれの家の養子になるの?」
「いや、ドウェインがタウンゼントの家を継ぐぞ。俺はドウェインの弟だ。」
「どう見ても逆にしか見えない・・・」
「結局、ラトリッジ家は誰が後を継ぐの?」
「俺の甥っ子だよ。会ったこと無いから知らねえけどな。」
「じゃあ、彼とジュリア-ナ嬢が新たに婚約を結ぶってことかな?」
「そこまでは分からねえし、俺にとやかく言う資格は無いからな。」
「それもそうだね。」
そして昼前に湖畔の宿泊施設に到着し、早速荷物を降ろす。
他の役員生徒も次々に到着し、男子はそれぞれグループに分かれてテントを設営していく。
女子はキャロライン嬢が先導して各部屋に分かれていく。
その後、各自設営が終わつ頃にティータイムになり、女子生徒もチラホラ外に出てくる。
その多くはローランド殿下が目当てだが、キャロライン嬢とその仲間達とジェニファー嬢、ブレンダ嬢は私のテントにやって来る。
「あら珍しい。あなたもたまには婚約者の真似ができるのね。」
「婚約者ですから。それとゴールドバーグ嬢、不敬ですよ。」
「まあまあ、コイツの不敬はいつものことだ。」
「ニコラス卿にだけは言われたくありませんわ。」
「今日のドリルは一段と攻撃的だな。」
「二人、いや三人ともせっかくの交流会なんだから、いがみ合うのもその辺まででお願いするよ。」
「そうだな。俺としたことが大人げなかったぜ。」
「あなたに言われると何だかムカつきますね。それでジェニファー様、いつも行事に欠席してた協調性ゼロの方が突然参加したのには、何か理由でもございまして?」
「私は寛容な人間ですので、誠実で真面目な殿下が女性と親しくしたり、側妃候補を探すのは良いことだと思っておりますの。でも最近、私が少し目を離した隙に、殿下に相応しくないご令嬢が集ってきているらしいと聞き、見定めに参りましたのよ。」
「まあ、そのような不躾な者が殿下の周りに・・・それは由々しきことですわ。」
「生徒会副会長には、心当たりがないと。」
「そう言えば、そういう雰囲気を醸し出している者もいたかも知れませんわね。私も気を付けるようにしますわ。」
何か、とても貴族らしいひりついたやり取りが続く。
そう言えば、ミッチェルの記憶の中にもこういうシーンが結構残ってるんだよねえ・・・
「皆さん、そろそろダンスパーティーの支度を始める頃合いでは?」
「俺は料理の最終チェックに行かないとな。」
「僕は会場の設営状況だ。」
私は楽団の皆さんに挨拶しないといけないんだった。
「じゃあ、みんな協力していい夜会にしよう。よろしく頼むよ。」
「ミントも頑張る~。」
こうして腰を上げる頃には、何事も無かったかのような空気に戻っている。
ここは貴族社会なんだなあと、つくづく思う。