いろんな転生
「お嬢様、そろそろ朝食の時間でございます。」
朝を知らせる声に、私は急速に意識を取り戻す。
仕事に行かなきゃ。
目を開けて身体を起こすと、そこにはいつものメアリーがいた。
部屋は私のアパートとは全く違う豪華なものだが、見覚えがあり、違和感なくすんなり受け入れられた。
「すぐに支度の準備をさせていただきます。」
「分かったわ。お願いするわね。」
「お、お嬢様・・・はい。お願い・・・」
あら、何でしょう。まあいいわ。確か、こういうしゃべり方だったわよね。
そう思いながら立ち上がり、着替えを手伝ってもらうわ。
手伝ってもらうといっても、私はほとんど何もしない。
言われたとおりに体勢を少し変えただけで、スルスルと今日の装いになっていく。
そしてドレッサーの前に座る。そこには金髪の美少女が。
ああ、今日はこの設定なのね。
そこで私の名前がふと浮かんだ。
ジェニファー・フレミング、ここウィンスロット王国で最も力を持つフレミング公爵家の長女。
そして、メイクをしてくれているメアリーとドロシーは私の専属ね。
でも、ここで少し違和感を感じたの。何故かしら・・・
こうして、いつもの一日が始まる。いつもの・・・
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「なにっ!いきなり何なのよっ!」
驚きと戸惑い、そして、それが自分に降りかかった事への腹立たしさに思わず叫ぶ。
「どうして髪がピンクなの。これじゃ男子に何を言われるか分かんないじゃ無い!」
アタシの大声にメイドが部屋に駆け込んで来る。
「お嬢様、いかがなさいましたか?」
「あれ?外人。」
「あの、お嬢様?」
この人知ってる。仲良しメイドのアニー。うちは貧乏だからメイド兼従者・・・
待って?・・・そんな人いた?
頭の中がこんがらがっている。知ってるけど知らない人がいて、頭がピンク。
よく見ると、顔も100倍増しの美少女になってる。
「ねえアニー、どうして私はピンクなの?」
ようやく出た言葉がこれだ。情けない・・・
「お嬢様は生まれつき、とても見事なピンクブロンドの髪をお持ちです。旦那様と奥方様がいつも自慢する、ウォルフォード家の宝ですよ。」
「これって地毛なの?って、アニーも髪、青いわね。」
「はい。生まれつきとても地味で。本当はもっと明るい色になりたかったです。」
「ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないの。」
「大丈夫ですよ、お嬢様。さあ、そろそろ朝食のお時間になります。急いで支度を整えましょう。」
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「うわぁっ!!」
バイクで通勤中だった私は、いきなり右から幅寄せしてきたトラックに視界をふさがれた。
もちろん、とっさに左にハンドルを切ったが間に合わない。
目の前にはトラックの車体とコンクリートの側壁。
そして、大きな衝撃音と身体が激しく浮き上がる感覚が来たと同時に、私の視界は暗闇に包まれた・・・
・・・はずだったが、次に目を開けると、場面は変わり、映画の世界に紛れ込んでいた。
しかも殿下と呼ばれていて、確かに王子としての記憶も持っている。
「差し詰め、バイクに乗ってたら王子になってましたってタイトルかな。」
「殿下、何か気になることでもございましたか?」
「いや、いろいろツッコミどころ満載なのだが、大したことではないよ。」
確か、ここではこんな口調で正解なんだよな。
映画の世界だから、標準語で喋るべき・・・
いや、日本語字幕がどこかに出てるんだよな、これ。
急な設定変更で戸惑うことしきりであるが、真摯に役をこなそう。
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「珠里亜!寿機亜!和子お~っ!」
高架橋を突き破り、遙か下の道路に転落していく俺が最後に発した言葉、のはずが、どうやらそうでは無かったみたいだ。
ドアを開けると、そこは道路ではなく、金持ちの屋敷の廊下だった。
俺はこの場所を知っている。
ウィンスロット王国ラトリッジ侯爵邸。そして宰相の息子である私の名はニコラス・ラトリッジ。
おそらく、この世で最も出世したトラック運転手である。
しかし、何でこんなことになったんだろう。早く帰宅して家族に会いたいんだが。
状況がよく掴めないまま、朝食を取るため食堂に向かう。
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「こりゃあいいね。」
鏡で自分の顔を見たときに出た言葉だ。
「前のより全然いいよ。これなら女も選び放題だ。」
目の前には銀髪の超絶イケメン。ちょっと出来過ぎな造形だし、背も高い。
身体も良い感じの細マッチョだし、これ、理想じゃね?
「しかも夢の中ならモラル無視でも警察に捕まらないでしょ。王子様だし。」
そう、俺はバレッタ王国の王子様である。
現実のしがない会社員からしばし離れ、この世界を堪能してやる。
しかも今、俺は留学のため隣のウィンスロット王国に来ている。
誰も俺を止める者などいない。
「全盛期は突然来るものなんだな。」
過去最高の朝が来た。
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「いつまで寝ているっ!早く起きて支度せんかっ!」
怒鳴り声で目が覚める。うん?目が覚める?
「サッサとしろ!朝メシにありつきたかったら、まずは鍛錬だ!」
そう言われて布団から引きずり出される。いきなりのことで驚いたが、この声は父だ。
そして、急いで支度し、当たり前のように訓練場に走る。
なんで?
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うん?何だ?この臭い・・・
覚えがあるような無いような臭いがする。何だろう・・・
しばらく考えて見て、それが何かの焦げる臭いだと気付いたが、周りを見回しても燃えている物などない。
「おかしいなあ。何だろう・・・」
そう思っていると、ふっと意識が切り替わるような感覚がある。
ああ、起きるんだな。
そして目を開けると、そこは異世界だった・・・
いや、確信は無いが、これに一番近いシチュはな○う系異世界モノだ。
僕は飛び起きて辺りを見回す。そこは豪華な調度が並ぶファンタジーな世界。
「よし、ついに来たぞ!」
僕の長年の夢が叶う。
もう、ワクワクしかない!