54.
ライオネルは、城外への抜け道を探している。
わたしはというと、基本的には割り当てられた客間にとじこもっている。
客間から出るのは、料理を作るときと図書室に本を借りたり返却するときだけ。
いつなんどき襲われるかわからない。
とはいえ、それは客間にいても同じこと。
子ども向けのお話しなら、魔術師や聖女が防御や守護の術をかけてくれる。その恩恵を授かれば、殺し屋が襲って来ようとドラゴンが襲って来ようと守ってくれる。
残念ながら、これは現実。
魔術師も聖女も形だけの存在になってしまっている。
というわけで、つねに警戒と注意はしているけれど、客間のクローゼットにこもって息を潜めているということはない。
そんなことをしていたら、殺し屋に殺される前にストレスでどうにかなってしまうだろう。
「ライオネルさんは、まだ調子がよくないのですか?」
厨房へ向かっているとき、ナンシーに尋ねられた。
ライオネルは調子が悪くて寝ている、ということにしているのだ。
「ええ。だけど、それほどひどいわけじゃないの。ほら、どうせやることがないでしょう? 彼は、わたしのくだらない話を聞くのが好きじゃないみたいだし。かといって、ふたりで楽しくおしゃべりということもしないし。それだったら、いっそゆっくり体を休めてもらった方がいいでしょう?」
「そうですよね」
このやりとりは、すでに五度目である。
ナンシーはドジっ子なだけではなく、記憶力もイマイチなようだ。
「おはようございます」
厨房に行くと、料理長をはじめ料理人たちが下準備にとりかかっている。
最初こそ、わたしたちの間は険悪なムードだった。くわえて、料理人なのに料理を作る気がなかった。というか、自分たちの仕事を放棄していた。
しかし、厨房で料理を作っているうちに、手伝ってくれるようになった。
いまでは、一緒に作っている。というか、わたしが手伝っている。そして、教えてもらっている。
今朝もみんなで楽しく朝食を作り、作り終わったタイミングでキャサリンのメイドたちがやって来た。
彼女たちとも、敵対せずになんとなくうまくやっている。




