41.
アーノルドの娘のキャシーとその婚約者である第二王子レオナルドが、婚約披露及び領地経営の勉強の為にバークレー公爵領を訪れるらしい。
バークレー公爵領と隣接する領地の領主たちを婚約披露宴に招待したい、という。そして、そのついでに領地経営について教えてやって欲しい。
手紙には、そう記されている。
「なんてことなの。四日後じゃない」
執務室内で叫んでしまった。
王都での婚約披露パーティーも、ほんとうに突然だった。
またしても、突然の招待なのである。
「突然だろうと余裕があろうと、バークレー公爵の招待に応じないわけにはいかないわね」
椅子を回転させ、開いたままの窓の向こうにひろがるのどかな景色を眺めた。
「マイケルは、このことを知っているのかしら?」
アーノルド・バークレーは、マイケルにわたしをバークレー公爵領に招待することを伝えたのだろうか。そして、招待してもいいかと許可を得たのだろうか。
「マイケルに許可をとりたいところだけど、彼に手紙を出してもとても間にあわないわね。というか、それ以前に、彼はわたしからの手紙はスルーするわね」
マイケルは、いつもわたしからの手紙は無視する。一度たりとも、彼から返事をもらったことがない。許可を得たかったりお願いがあっても、結局はわたしの判断と良識でもってやらざるを得ない。
わたしからの手紙を読んでいるのかさえ怪しい。
それこそ、手紙をクシャッと丸めてゴミ箱にポイしている可能性だっておおいに考えられる。
とはいえ、わたしは、領地にいるかぎり何でもしていいことになっている。サンドバーグ侯爵家の家名を辱めることさえなければ、金貨を散在しようが不当な利益を得ようが問題ないことになっている。
マイケルに相談する必要はない。彼に許可を得たり頼み込む必要もない。
彼自身が、結婚したときにわたしにそう叩きつけたのだから。
それでもやはり、彼には何をするにも手紙で知らせてしまう。
たとえ手紙を読んでもらえなくても、わたしなりに誠意を見せ、義務を果たしたいからである。
「とりあえず、マイケルにはいつものようにおうかがいをたてておこう」
というわけで、すぐにマイケル宛ての手紙を書いた。
「だけど、これって小説だと罠なのよね」
バークレー公爵領内で行われている不正やその他の悪事について知っているわたしを、領地内に誘いだして亡き者にする。あるいは、誘拐してどうにかする。
こんなタイミングでの招待である。小説でなくてもヤバいと考えていいだろう。
「それに、うなじの辺りがザワザワするのよね」
うなじのザワザワは、嫌な予感やヤバい気がするときの前兆である。
この感覚が外れたことは、いままでに一度もない。
「それでもやはり、招待に応じなくてはならないわよね?」
マイケル宛ての手紙を確認しながら腹をくくった。
それに、招待されているのはわたしだけではない。
バークレー公爵領は、広大である。隣接する領地は、このサンドバーグ侯爵領の他にふたつある。
他にも領主がいれば、そう簡単には手出しはできないはず。
とはいえ、道中狙われる可能性はあるけれど。
「悩んでいても仕方がない。『竜を退治したければ、竜窟に入らなくてはならない』というし、ここはやはり招待に応じるべきよ」
古より伝えられる格言をつぶやいた。
『追伸 バークレー公爵領には、自己責任でまいります。なにがあっても、サンドバーグ侯爵家の家名を穢すことはいたしません』
手紙にそう書き足しておいた。
「殺されたり傷つけられる覚悟はできている。あなたにはいっさい迷惑はかけません」
マイケルなら、わたしがほんとうに伝えたいことを悟るだろう。
おおいなる覚悟をもって、封蝋を施した。




