4.
「食事中だぞ」
即座に言われた。
いまでないと、このあと話すタイミングはない。
というか、何か月ぶりかで会って挨拶やご機嫌伺いをしないわたしもわたしだけれど、マイケルもマイケルである。
つまり、どっちもどっちなのだ。
「大切なお話しです。さほど時間はかからないはずです」
「あとで執務室に来い。時間をムダにさせるな」
「わかりました」
マイケルにとっては、せめて居間で就寝前の一杯を飲みながら、というのでさえ時間のムダらしい。
その後の食事は、いつもどおり無言だった。
視線を感じるような気がするので、そのつど上座にいる彼を盗み見る。
が、彼はあいかわらず眉間にシワをよせ、気難しい表情で食べている。
彼にとって、食事は苦行かのように。あるいは、物理的な距離はあっても、わたしとの食事が苦難であるかのように。
サンドバーグ侯爵家領にある屋敷での食事もまた、あまり楽しくはない。というのも、執務室のローテーブルでひとり書類に目を通しながらすることがほとんどだから。たまに食堂で食事することもあるけれど、それもひとりで仕事のことを考えながら食べている。
ここでの食事とかわりはない。
もっとも、精神的にはラクだけど。
とはいえ、だれかと食事するのはけっしてイヤではない。ひとりよりかはずっといい。
たとえその相手がマイケルであっても。
彼がたとえわたしを憎んでいようと、わたしが彼を憎んでいようと、彼との食事はそこまでイヤでも怖くもない。
ただ楽しくないだけ。
ほんのわずかでも会話やアイコンタクトがあれば、彼もわたしも料理が美味しいと思えるかもしれない。食事というものが楽しいと思えるかもしれない。
だったら、そのための努力をすればいい。
領地経営や屋敷の管理や社交界での付き合いと同じように、義務にすればいい。
しかし、わたしにはそうするだけの勇気がない。
彼のことが好きではないし、知らなさすぎる。
それ以上に、彼に全力で拒否され、さらなる憎しみをぶつけられることが怖い。
自分から歩み寄るだけの努力どころか、気力さえ湧かない。
それが現状である。
そんなことを考えているうちに、マイケルは食事を終えた。
「失礼する」
彼は形だけ断ると、席を立ってさっさと食堂を出て行った。
よりいっそう、自分の料理が味気なく感じる。
さっさと残りを平らげると、ごちそうさまをしてから皿をさげた。
メイドたちが慌てて止めるのを笑顔で拒否し、自分の皿を厨房へと持って行った。
そして、マイケルの執務室へ向かった。
執務室に入ると、マイケルは側近であり幼馴染のモーリス・バートンと打ち合わせ中だった。