34.
「キース・ブロンソンだ。アンとは、ほんのこのくらいの頃からのかけがえのない友達でね。いまだに支えあっている仲だ」
キースは、そういいながら右の手で膝の辺りを示した。
(いえ、キース。そこまで小さい頃からの知りあいではないわ)
そう言いたかったけれど、言えるような雰囲気ではないので黙っていた。
「アンソニーだ。アンとは、最近知りあったわりには急速に親密度を増していてね。いまも町の宿屋などではなく、サンドバーグ侯爵家の屋敷に泊めてもらている」
アンソニーは、胸を張って堂々言い放った。
(いえ、アンソニー。泊めているのは、あなたが王子であり将軍だからよ。ふつうの貴族や平民だったら、あなたも宿屋泊まりよ)
そう言いたかったけれど、やはり言えるような雰囲気ではないので黙っていた。
「ほう。屋敷に泊まっているからといってただ同じ屋根の下というだけのことじゃないか」
「遠く離れた宿屋よりかはずっといいだろう?」
「物理的より精神的な距離だ」
「ふんっ! 精神的といっても、ダラダラと長いだけだろう?」
「なんだと?」
アンソニーとキースは、つかみあいを始めんばかりである。
距離を置いて立っている護衛の兵士たちを見た。
アンソニーとキースの怒鳴りあいは聞こえているはず。周囲の人たちが足を止め、面白そうに見ているのだから。
が、護衛の兵士たちはニヤニヤ笑っているだけで、ふたりのいがみあいを止めようとする気配がない。
「いいかげんにしてください」
だから叫ぶしかなかった。
「す、すまない」
「悪かった」
アンソニー、それからキースは、シュンとした。
わたしは提案した。
三人で楽しもうと。
そして、実行に移した。
三人で収穫祭をまわったのだ。
アンソニーとキースは、面白くなさそうだった。
だけど、わたしは楽しめた。
だから、いいことにしておく。




