2.
以降、わたしたちはその言葉通りにすごしている。
それからすでに五年。
憎しみあいは続いている。
おたがいに憎み合いながら日々生活をしている。
とはいえ、表立って口論したりいがみ合っているわけでらない。つねに心や体力をすり減らし、消耗しているわけではない。
それどころか、そんなことをするまでもないのである。
会話を交わすことがない。
会話を交わさなければ、口論にもならないし諍いもない。ということは、いがみ合わずにすむ。
そこは精神的に楽かもしれない。
というのも、マイケルはこのダリス王国の宰相である。当然、王都にいて政務や社交界で活躍している。わたしは、そのマイケルに代わって領地経営を任されている。そのほとんどをサンドバーグ侯爵領ですごしている。というわけで、マイケルとはほとんど顔を合わせる必要がない。
たまに王都の屋敷で食事をしたり、パーティーや舞踏会など出席しなければならない。そういうときには、夫婦のふりをすればいい。もっとも、ふたりの間に会話はなく、目と目を見合わせることさえもないのだけれど。
憎しみあっているが故に、おたがいに好きなことをしている。
マイケルは、仕事と愛人との付き合いに忙しい。
彼は、元軍人。
サンドバーグ侯爵家の当主であり宰相だった父と兄を、相次いで亡くしてしまった。
幼少の頃より歴代のサンドバーグ侯爵家子息の中でも最も優秀と誉高かったマイケルは、兄ネイサンに遠慮してみずから軍の学校に進学し、軍人になった。軍に入ってからも、その優秀さを発揮し、あっという間に将軍にのぼりつめた。その直後に父をなくした。そして、宰相と当主の座を継いだばかりの兄をもまた、亡くしてしまった。
どこの国でも武官と文官の仲はよろしくない。わがダリス王国も例外ではない。しかし、マイケルの優秀さは、多くの人が認めていた。なにより、王家が望んだ。
というわけで、彼は望まれ将軍から宰相へと転身したのである。
将軍から宰相に。それから、サンドバーグ侯爵家当主へと。
以降、彼は「鉄壁の銀狐」と国の内外で怖れられるほどの政治家として活躍している。
一方、わたしは多忙な彼にかわり、サンドバーグ侯爵家の領地や管理を完璧にこなしている。
希望的観測かもしれないけれど、わたし自身はそう信じている。
もちろん、マイケル・サンドバーグ侯爵であり宰相の妻である役目もこなしている。
憎みしみ合っていようと仮面夫婦であろうと、そこはやらなければならないから。
それ以外には、離縁後の自立に備えて料理やスイーツを学んでいる。それ以外には、慈善活動に勤しんでいる。
ちゃんとやることはやり、それでいてマイケルとの夫婦ごっこが終った後のことにも備えておく。
自分自身が困らない為にも、彼のことばかりを考えたり優先したりはできない。
とはいえ、ほとんどが彼のため、サンドバーグ侯爵家のためだけど。