16.
サンドバーグ侯爵領に戻ることにした。
いつまでも領地をあけるわけにはいかない。
バークレー公爵家のパーティー以来、マイケルとまともに話をしていない。それどころか、彼は屋敷に戻ってくることがない。
宰相としての仕事も忙しいからだけど、夜はアンジェラ・オールブライト伯爵令嬢といっしょにいるのだろう。
もしかすると、東屋で目撃してしまったことがバレていたのかもしれない。
マイケルは、そもそもわたしに対して密会とか隠れるとかする必要はない。
なにせ彼は、わたしのことを憎みまくっている。
そして、わたしもまた彼を憎んでいる。
おたがいに憎しみ合っているのだから。
マイケルに話したかったことがふたつある。
ひとつめは、バークレー公爵領で行われている、というかバークレー公爵が行っているであろう不正や不当な扱いについて。
そして、もうひとつは超プライベートのこと。
しかし、もうひとつの話は出来そうにない。なにせマイケルがいないのだ。
話しようもない。
というわけで、サンドバーグ侯爵領に帰ることにしたのである。
そんなとき、お茶の招待状が届いた。
王家からの、である。
具体的には、アンソニー・ウインザー第三王子から。
面識どころか、見かけたことさえない相手からの招待状。
困惑してしまったのはいうまでもない。
マイケルに相談したくても彼はいない。
お茶をいっしょに、との内容である。
応じないわけにはいかない。
というわけで、王宮に行くことにした。
ドレスは、王都の屋敷に置いている中で一番まともなものにした。
とはいえ、すでに流行遅れだけど。
それでも、先日のパーティーで着用した斬新奇抜なドレスよりかは無難だろう。
(それにしても急すぎない? いくらお茶を飲むってだけでも、ふつうは数日の猶予をくれるわよね?)
その日の午後に王宮の庭園で、とのこと。
(第三王子アンソニー・ウィンザーって、どんな人なの?)
身分の低い側妃を母に持ってはいるが、かなり優秀だとしか知らない。
(っていうか、どうしてわたしなの?)
わたしが噂通りの悪女なのか?
興味を抱いたとか?
(先日のパーティーには参加していなかったのかしら?)
マイケルは、みずから進んでわたしを誰にも紹介しなかった。だれかを紹介してくれるということもなかった。
(まぁ、わたしも面倒くさくて自分から売り込むようなことをしなかったのは悪いんだけど)
マイケルだけが悪いのではない。
いずれにせよ、いまさらアンソニーの出席の有無を考えても仕方がない。
サンドバーグ侯爵家のメイドたちにお願いして準備を整え、アンソニー王子の招待に応じるべく出かけた。




