表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かめは蝶の夢を見る~影武者女中は365日後、公爵令嬢に変身したいのです!~  作者: ゆきんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/41

#32 嫉妬の灯

 日中は大蒼に付いて方々に連れ回され、夜は局のしきたりと格闘する日々をなんとかやり過ごしていると、いつのまにか八月になっていた。


 最近はお上のお身体がすぐれないこともあり、皇太子である大蒼が式典に参加したり宮中儀式を代行することが多々あって、目まぐるしい日程に追われているの。


 気忙しいと、時の流れって早いのね。

 もし過去に戻れるなら、去年までの自分に『今のうちに、もっと勉強しろ』って言ってやりたいわ・・・。


 ※


 七月中旬から辺りがうす暗くなってくると、女官と侍従官が御所の真ん中に位置するお池庭やご内庭にある燈ろうに火を点けて回る。

 そして八月のお盆には皇族及び関係者から献上された提灯を縁側にズラリとかけ連ねて吊るすので、電気の灯りとは比べ物にならない情緒ある景色になるのよ。


 その日、あたしは局には帰らず、大蒼の部屋の側で宿直をする当番だった。


 東宮の寝所に続く長廊下から、あわれにも美しい燈ろうの灯を眺めながら歩いていると、横を向いていたあたしは前から来た誰かにぶつかってしまった。


「ごめんなさい、よそ見をしていました・・・。」

 その人の顔も見ずに会釈して通り過ぎようとすると、後ろから羽交い絞めにされてしまったの。


 ヒィィッ、捕獲されたわ!


 すぐに楽しそうな笑い声が頭の上から聞こえなかったら、あたしは御所中に聞こえる悲鳴を上げていたかもしれない。


「た、大蒼?」


「私に気がつかないなんて、酷いな。そんなに庭の灯りに見惚れていたの?

 それとも誰かのことでも考えていた?」


 大蒼は腕をあたしの肩に回すと、後ろからゆるやかに抱きしめた。


 はわわ。

 肌の触れあいが多すぎるわ。

 清さと穢れにうるさい菫が見たら、癇癪を起こして倒れるかも。


「こ、こういうこと、お盆に公爵家ではしていなかったから珍しくて。」 


「下方の家庭ではしない風習なのかな。

 私は物心つく前から見慣れているけど、やはり綺麗だよね。」


 話している間、大蒼の胸の音が後頭部を伝わって聞こえてくるようで、あたしはドキドキしながらもジッとしていた。


 こんな風景を、前にも大蒼と見た記憶がある。

 確か公爵家の舞踏会で、大蒼とチークダンスを踊った時ね。


 あの時、新一ともダンスをしたのだけど、型破りな新一に振り回されて大変だったわよね・・・。


 たった半年前のことなのにとても懐かしく、胸がチクリとしたのはどうして?


「そういえば君が新一と文通をしていると、風の噂で聞いたのだけど。」


 おもむろに紡がれた大蒼の言葉に、少し不穏な色が入っているのが気になった。


「本当なの?」


「本当よ。

 家来の富がね、髪の結い方を習いたいと言ったのだけど、新一が忙しくて会って指導ができないというので、手紙のやりとりで指南を受けているの。」

「・・・それは富の問題だよ。かめが間に入るべきことなのかな?」


 カエルの鳴き声がひときわ高く響いて、耳鳴りのように聞こえる。

 それがスッと消えた瞬間、辺りの静けさが際だって気まずい時間が訪れた。


 大蒼ったら、怒っているの? 


 大蒼の表情を確かめたくて振り向いたあたしに・・・。


 突然の接吻(キス)


 それは前よりも荒々しくて、別人のようだった。

 あたしを後ろから抱える腕にも強い力がこもっている。


「こんなところで・・・。」


 局から東宮の寝所に続く長廊下は、いつ誰が通ってもおかしくない。

 あたしは恥ずかしさに狼狽えた。


 一瞬、唇が離れた時に身体をひねって逃れようとしたけれど、また捕らえられると壁ぎわに追い詰められて接吻される。


 おでこ・まぶた・鼻・あご・首筋まで・・・と、順に厚ぼったい唇を這わせていく大蒼に愛撫され、あたしは完全に腰が抜けて崩れ落ちてしまった。


「ゆ・許してください。」


 崩れ落ちたあたしに膝立ちで近づくと、大蒼が甘く囁いた。


「私は幼い頃から禁欲を躾けられているから我慢できるけど、普通の男ならきっと無理だ。本当は今すぐにでも、かめの頭の中を私のことでいっぱいにしたいんだよ。

 他の男のことなんて、考える余地がないくらいにね。」


 な、な、な、なんてこと!


 あたしの中の【おとなしくて優しいウサギ】みたいな大蒼の印象が、ガラガラと崩れ落ちた。

 ウサギも本気出したら、血が出るくらい噛むかもしれないわ。

 いつか新一が言っていた【人間も動物】って、こういうことだったのね⁉


「新一と文通したことを怒っているのなら、もうしないわ。

 ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」


 あたしが素直に謝ると、大蒼は立ち上がってあたしをお姫様抱っこした。


 きゃあ!

 あたしは重いわよ‼


 あたしは息をフウフウたくさん吐いて体を軽くしようとしたけど、大蒼は軽々とあたしを運びながら廊下を歩いた。


「今日はかめが宿直だよね?」

「そそそ、そうよ。」


「お仕置きとして、今夜は私の寝台で添い寝をしてもらうよ。」


 お仕置き・・・!

 嫌だ、まだ怒っているの⁉


「初夜までは手を出さないから安心して。

 でも、それまでに私のことしか考えられないように、この身体に教えないとね。」


 可愛い顔をして、言ってることが過激だわ!

 大蒼って、ウサギの皮を被ったオオカミだったのね・・・。


 それにしても、何でそんなに新一を目の敵にするんだろう?


 あたしは大蒼に抱えられながら、恐る恐る聞いた。


「あたしにとってはただの教育係だけど、大蒼はなぜそんなに新一のことが嫌いなの?

 二人には深い因縁でもあるの?」


「・・・かめにだけは教えておくね。」


 大蒼はあたしを寝台に優しく降ろすと、前髪をクシャッと撥ねた。


「新一は、母親(はら)違いの兄弟なんだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ