表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かめは蝶の夢を見る~影武者女中は365日後、公爵令嬢に変身したいのです!~  作者: ゆきんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/41

#14 天国と地獄は紙一重

 天国って肌触りがいいものなのね。


 あたしは自分がフカフカの雲みたいなものに包まれていることに安心した。

 さっきまでは喉が焼けそうに痛かったら、余計にそう思う。


 目も煙が沁みて開けられなかったし身体がとっても寒くて震えが止まらなかったのだけど、今は何も感じられず安らかな寝息と鼾を立てている自分がいる。


 ん?

 鼾ですって⁇


 死んでも鼾ってかけるものなのかしら。

 あたしはポリポリとお尻をかきながら思った。


 お尻の痒みも掻いた後の爽快感もあるなんて、死後の世界も生々しいのねえ。

 

「おい、いい加減に起きろ。」


 おまけに新一の声まで聞かせてくれるなんて、ありがたいやら迷惑やら。

 死ぬ直前(まえ)になぜか新一のことを考えていたから、神様がサービスしてくれたのかもね。


 でも、もうあたしには関係のないこと。

 だって死んだら皇妃教育も反古に(キャンセル)するしかないもんね。


 さよなら、新一。

 さよなら、公爵令嬢になるはずだったあたし。


 せめて生まれ変わったら、最初から公爵令嬢になれますように!


「すぐに起きないと、朝餉は抜きだぞ。」


 その一言であたしは布団をガバッと跳ね飛ばした。


「食べるわ!

 死んでも、朝餉だけはお腹いっぱい食べたいわ‼」


「・・・安心しろ。お前は生きている。」


 定まらない焦点に目をこすって見てみると、新一が長い脚を組んで目の前の椅子に座っていたの。

 新一はまだ死んでないはずよね?


 ということは・・・。


「ここは天国じゃないの?」


「お前が行くなら地獄だろう。」


 フン、と鼻でせせら笑うと、新一は自分の額に片手をつき目を閉じた。

「お前が旧公爵邸の居間で煙に巻かれて倒れているのを発見した時は、心臓が破裂するかと思った・・・。」


 心臓が・・・?

 ということは、新一があたしを助けてくれたのね。


 あたしは感動で胸が熱くなった。


 ありがとねッ! 今まで生意気でごめんなさい。

 握手をして仲良くしましょ♡


 喜んで寝台を降り、お礼を言おうとしたあたしに、新一は研ぎ澄まされた刃物のような目線をギラリとあたしに向けた。


「あれほど近づくなと釘を刺したのに、お前は学習できない低知能動物(カス)なのか?

 しかも厨房で焚かれたゴミのせいで【有毒ガス】が発生していた現場になぜお前が居たんだ。」


 ギクッ。


「おまけにあの居間には何者かに荒された跡と共に、床には一発の銃弾が撃ち込まれていた。

 使用人たちと執事の証言では、どこぞの改装業者が一時間だけ屋敷を開けてくれと事前に申し込んでいたそうだ。

 もちろん改装なんていうのはデタラメで、その偽業者の行方は調べている最中だがな。」


 ギクギクッ!


「さあ昨日、あの場でお前が何を見てどんなことをしていたのか言ってみろ。

 包み隠さず言わないと、朝餉だけではなく舞踏会のごちそうもひとつ残らず俺が食べてやるからな。」


 わーん。

 天国から地獄に来た気分!


 新一が地獄の閻魔大王に見えるのは、あたしだけなのかしら?


 ※


 仕方なくあたしはエドを探しに旧公爵邸に行ったこと、そこで物騒な会話をしている覆面(ふくめん)の男たちに遭遇して、その陰謀を阻止するために厨房で火事騒ぎを起こして追い出したことを話した。


 (これは嘘じゃなくて事実だものね。)


 大蒼のことは言っちゃいけない気がしてあえて伏せたまま話したけど、うまく辻褄が合わせられたかしら。


 新一って、細かな嘘とかちょっとした挙動にも気づいてしまうのよ。

 多分、器が小さいんだと思うわ。人間としての。


 小首を傾げたまま考え事をしている新一は、頭のパズルを組み立てることに集中しすぎて身じろぎはおろか瞬きすらしない。


 ああ、憎らしいほど美しい。

 彫刻のような佇まいに、絵が一枚描けそうよ。

 

 でも、この美しさを表現するのが難しくて、ついでに被写体と中身とのギャップの酷さに画家は心が折れるかもしれないわね。

 

 動かない新一を前にあれこれ妄想していると、あたしはしっかりと右手に握りしめていた紙の存在に気がついた。


 なによ、これ。


 クシャクシャに丸まった紙を広げてみると、三行ほどの字が殴り書きされている。

 漢字ばかりの文字に眩暈がして、あたしはそいつを捨てようとした。


「待て、その紙は何だ?」

 いつのまにか息を吹き返した新一があたしの手を掴んで止めた。


 めざとい男ねえ。

 ゴミまで気にする?


「倒れた時に、あの居間で拾ったの。」


「俺に見せてみろ。」


 それを見た瞬間、みるみるうちに新一の顔色が変わって、あたしは驚いた。


「確かにあの居間で拾った紙片なんだな?」


 念を押されたあたしは、おずおずと頷いた。

「そんなに大変なことが書いてあるの?」


「如月日が脇の下よりも低く落つ 東より宮に山風吹かば 小さき肉が川に流るる」


 新一はひとつひとつの言葉を丁寧に読み上げてくれたのだけど、あたしにはさっぱり意味がわからないわ。


「和歌のようだけど、どういう意味なのかしら。

 如月が2月なのは分かるけど、何が脇の下より低いって?

 肉は川に流したら勿体ないじゃないの。泳いで拾って食べるべきよ。」


「これは和歌じゃない。」

 新一は無意識に親指の爪を噛みながら宙の一点を睨んだ。


「【隠し言葉】を引用した【暗号】だ。」


 暗号ですって?


 あたしは背中がうすら寒い気がして身震いした。

「新一はこれがどういう暗号か分かるの?」


「お前が言う通り、如月は【2月】で、今の季節を表している。

 如月の『月』という漢字はもう1度使う。

 次に出てくる『日』という漢字と組み合わせたら『明』、つまり【明日】。

(わき)の下よりも低く落つ』は【夜】を表す。

『東より宮』は東宮、つまり【皇太子】さまのこと。

『山風』は嵐。【波乱とか内乱】の意味。

 そして『小さき肉が川に流るる』は・・・。」


 新一の切れ長の目が、挑戦的にキラリと光った。


「【消す】という意味。

 全てをつなぎ合わせると、

『明日の夜、皇太子様を消せ』という暗号文になる。」


 こ、皇太子さまを消す?

 あの覆面の男たちは皇太子様の暗殺隊だったということ⁉

 

「今夜の仮面舞踏会は、秘密裏に皇太子様をお招きするという企画があったんだ。

 皇妃候補が一堂に会するからな。

 ただ、このことはごく一部の人間しか知らない話だ。」


 それってつまり・・・。


「華族内部に裏切者がいるのかもしれない。」


 裏切者、と聞いて、なぜかあたしは着物の男とともに大蒼の顔が浮かんでしまい、すぐにかき消した。


 ううん、違うわ。

 違うって信じたい!


 だって、あの大蒼が悪いことなんて・・・と思って、あたしは彼のことを名前以外、何も知らないことに気がついた。


 もっとあの時、引き留めてでも色々と聞けば良かったわ。

 苗字とか職業とか住所とか、趣味とか女性の好みだとかをね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ