建設現場を見ろ!
「うんうん、工事は順調のようだね」
視察列車から降りた俺とアイリは、早速建設現場を見て回る。
現在国鉄との接続駅であるオジリシ駅からトセ中央駅までの区間は、オジリシ側から見て3分の2ほどの区間がほぼ完成している。俺たちが立っているのは、その完成区間の末端で、ここからは徒歩と馬車を使って、トセ中央駅まで向かう。
鉄道の建設は、まず測量を行い、その後必要な土地を用地買収という流れだが、これについては俺の領地なので、ほぼ無問題だった。もちろん、立ち退きが必要になった住民に充分な補償をしている。
抵抗されて建設に支障が出ても困るし、強権を使っての立ち退きだと、今後鉄道への破壊活動に繋がらないとも限らない。まあ、金に糸目を付けなかったから、抵抗はなかったらしいけど。
で、そうして土地の準備を終えたら、次に線路が敷けるように整地と路盤の整備に入る。トセ中央までは緩い勾配しかないから、この工事もスムーズに進んだ。
そして最後に、枕木をと線路を敷いて完了。
言うだけなら簡単だけど、例えば線路を敷く路盤部分がしっかりと固まっていないと、線路を敷いたら陥没ていう、冗談でも笑えないことになりかねない。特に、勾配の緩和や橋を架けるために必要な築堤部分では、念入りに路盤を固める必要があった。
このために、労働者に加えて魔法使いの魔法まで動員して、基礎固めを行ってもらっている。
さらに路盤の上の枕木と線路も、ほんの少し間隔が狂うだけで、脱線の原因になりかねない。
だから、これまで完成した区間は線路の敷設完了後に、まず手動のトロッコを走らせて、さらにその後に蒸気機関車を入れて、何度も試運転を行っている。
現代日本では、技術の進歩で脱線事故は珍しくなったけど、万が一脱線事故が発生すれば大変だ。特にこの世界の列車は、まだ客車が木造だから、下手をすれば粉砕大破となってしまう。
という訳で、工事関係者には念入りに作業を行う様に指示してある。
そのためには、作業員に高い士気を保ってもらう必要がある。
俺は作業監督の一人に声を掛けた。
「監督、作業員の士気はどうだい?」
「御安心ください社長。どの工区も、作業員の士気は旺盛です。そのために、高い給料に色々と配給していますから」
金に糸目を付けなくても良いから、工事関係者の給金も相場より高めに設定しておいたし、充分な休憩やたばこや菓子と言った嗜好品の配給も指示してある。金で全てを解決できるわけでもないけど、金で出来ることなら、手を打って置いて損はない筈だ。
「それから、事故はどうだい?今のところ死者は出てないと聞いているが」
作業現場の安全も、士気に直結するからね。
「はい。口を酸っぱくして、安全には気を配るよう申し伝えてありますし、治療師を手配していただいたおかげで、ケガや病気になっても大丈夫と、皆安心して作業に励んでいます」
「そいつは、結構。スケジュールは厳しいが、よろしく頼むよ」
「はは!」
トセ中央までの工事は、無事に行けそうだな・・・やっぱり、厄介なのはその向こう側か。
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