視察列車に乗れ!
着工から半年余り、俺は建設現場を視察することにした。
鉄道はまだ開通前だけど、既に線路の敷設が終わった区間では国鉄から乗り入れた汽車が資材や作業員輸送のために走っているので、それに客車を繋げてもらい、現場に向かう。
まずは、国鉄との接続駅であるオジリシ駅へと馬車で行く。これは現状列車がこのオジリシ駅から線路の敷設が終わった区間へと向かって行ってるからだ。
路盤の整備や、駅施設の建設は全線に渡って同時並行で行っているけど、線路の敷設はこのオジリシ駅から、終点のワジフラ駅方面へと向かう形で進められている
これは線路や枕木と言った資材は、国鉄や国鉄の沿線の工場で製造され、国鉄の貨物列車で送られてくるからだ。
そのオジリシ駅では、国鉄から借り入れた機関車と客車で編成された臨時列車が、俺たちを待っていた。
「さあ、アイリ」
「はい、旦那様」
僕は秘書兼側室となったアイリの手を取り、列車に乗り込んだ。
あの夜結ばれた彼女を、最初はそのまま妻にしてもいいと思ったんだけど、本人から断られてしまった。
「私は元魔王で、身分は奴隷です。その様な者が公爵の正室になるなど、あってはいけません。私は、御主人様の御寵愛を受けられれば、それで十分なのです」
という訳で、正室よりも先に側室が出来てしまいました。ちなみに、この世界は一夫多妻が認められているので、アイリ以外の正室を持つことはできる。でも、正直彼女以外身近に女性がいないので、持てる自信がない。
それはともかく、側室になったのでアイリには外に出る時はメイド服から、余所行きのドレスに着替えてもらい、こうして付いて来てもらっている。本人は抵抗したけど、側室と言えど夫人になった以上、それなりの体面は必要だし。
で、乗り込んだ彼女は目を丸くした。
「あの、旦那様。この客車、随分と豪華ではないでしょうか?」
「そりゃそうだよ。この客車は食堂車だからね」
今回の視察列車は機関車と客車の2両編成だけど、その客車は先行して製造させた食堂車だ。
現代日本では、定期列車から消滅してしまった喫食可能な設備を備えた食堂車は、実はまだこっちの国鉄でも運転していない。
こっちの世界の鉄道は対魔王戦争用に突貫で建設されたので、車両も戦後三等車として使用するのを織り込んで作った兵員用客車や、武器や資材を運ぶ各種貨車の製造が優先された。
そして戦争が終わってからは、富裕層の利用が始まることを見込んで、一等と二等の客車が加えられた。
しかし、まだ営業距離が長くなかったことや、要員の教育が追い付いていないので、食堂車はなかった。
でも、今後路線が延伸されていけば必ず食堂車は必要になる。
そこで、試作を兼ねて作らせたのがこの食堂車。10名分の座席と、厨房スペースで車体の半々を使用している。この世界には魔法があるので、火や氷を使わなくても食事や飲み物を提供できるのが本当にありがたい。
その食堂車を、今回貸し切りで利用する。
いや、本当に贅沢だわこれ。
僕たちが席に着いた頃、ホーム上で発車を告げる鐘が鳴らされ、機関車の汽笛も一声をあげた。
「さあ、出発だ!」
列車は、ゆっくりと動き始めた。
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