魔力で切り抜けろ!
その日の夜、俺はメイドのアイリを自室に呼び出した。
「参りました。御主人様」
「うん、入ってくれ」
「失礼します」
「ああ、御苦労・・・て、何だその格好は?」
俺は驚いた。だって、アイリの服装が普段着ているメイド服じゃなくて、ピンク色をした薄手の生地に体のラインがハッキリと浮き出た寝間着だったから。
少なくとも、アイリがこんな格好で俺の前に出てきたのは初めてだ。
男としては中々そそるものがあるけど、今はそう言うのを必要としている時じゃない。というか、絶対にこれ誤解してるよね?
「何をって、当然御主人様の夜の「ああ、アイリ。悪いが、今夜呼んだのはそう言う件じゃない。確かに君の力を必要としているけど、それは君の美貌じゃなくて、魔力の方なんだ」
「魔力ですか?・・・もしや!この力を利して、この国の王座を奪うとか?」
うん、できるだろうな。元魔王で、この世界最強クラスの魔力持ちの、アイリなら。もちろん、そんなことやらせんけど。
「物騒な発言止めて。本当に謀反疑われちゃうから。君の魔力を必要とするのは・・・ここだ!」
俺は手元の机に広げている書類。厳密には、地図の1点を指さした。
そこに書かれているのは、スウイという名の峠だった。
「この峠がどうかしたのですか?まさか、私の魔力で峠を平にしろとかですか?」
「正解じゃないけど、まあまあの答えだね。君にはそこに通すトンネルの建設に力を貸してもらう」
初歩的な建設技術しか持たないこの世界で、鉄道の建設工事で大きな足かせになるのは、川に橋を架ける橋梁工事と、トンネルを掘る掘削工事だ。
今回のヤマシタ鉄道の建設で、橋は問題ない。建設に支障のある様な大河も急流もないから。
問題はトンネルだ。中間であるトセ中央駅から、終点で石灰石鉱山建設予定のワジフラ駅の中間にあるミズシ峠だった。
この峠自体は、それほどの急峻でも標高が高いわけでもない。ただ現状の非力な蒸気機関車では、そのそれほどではない峠であっても、大きな障壁となる。
さて、勾配を非力な蒸気機関車でパスするにはいくつかの方法がある。
一つは車体下部とレールの間に歯車を設けて、急こう配に対応するアプト式だ。日本だと廃止された碓氷峠が有名だし、静岡県に現役のものがある。
しかし、この方法だと車両と線路にそれぞれ特殊な設備が必要となる。
次に考え出されるのは、坂の途中に折り返し線を設けて前進とバックを繰り返して勾配を緩和するスイッチ・バック式。日本全国に現在でも現役のものがあり、特殊な設備を必要としない。
ただし、どちらにしても速度が遅いという欠点があり、何より今回のスウイ峠の勾配に対しては過剰だ。作ったとしても、将来の負債になる。
となると、勾配を緩やかにして山を突き抜けるトンネルが最適となる。そして、穴を掘るのが最大の問題だけど、アイリの魔法でならどんな硬い岩盤も貫通するし、凄まじい出水にも障壁で跳ね返せる筈。
という訳で、彼女を呼んだのだけど、正直こんなことに魔法を使うことに彼女が同意するのか・・・
「御主人様。私はあなたの命令に逆らうことができないように、呪いを掛けられています。だから、回りくどいことをせず、そのまま命令していただければ結構です」
「それはそうなんだけど、何だかおもちゃにするようなのは、悪いし」
こちとら人権意識が向上しまくった世界から来たから、どうしてもそう言うのは苦手なの。
「そうですか。なら・・・」
すると、アイリは俺に迫り。
「私の方から、おもちゃになってあげます」
「へ?」
彼女は積極的だった。そして、ベッドの上ではもっと積極的だった。
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