電車の時代を目指して! 上
現代日本で走る鉄道車両を思い浮かべろと問われれば、おそらく多くの人が電気で走る電車を思い浮かべるだろう。かく言う俺自身、地球にいた頃圧倒的に乗車する鉄道車両は、地元を走る電車だった。
言うまでも無く、日本の鉄道の最初の車輌はイギリスから輸入され、その動力は唯一無二と言うべき蒸気機関だった。
「汽笛一声新橋の~」と、蒸気機関車の汽笛から始まる鉄道唱歌冒頭の歌詞は有名すぎる。
ところで、この蒸気機関は地球では産業革命の原点であり、急速な科学文明の進化を推し進める端緒となった発明だが、そのエネルギー効率自体はそれほど良くない。
確かに蒸気機関は、偉大な発明だ。それによって成し遂げられた産業革命以後の人類の技術的な進歩は著しい。
しかし、そもそも蒸気機関は簡単に言ってしまうと、お湯が沸いたやかんの蓋が、カタカタと音を立てる現象の延長に過ぎない。
石炭を燃やして水を沸かし、そこから得られる蒸気の圧力で、ピストンやクランクを動かし、最終的に車輪に動力を伝えて走らせるのが蒸気機関車だ。その過程で膨大なエネルギーが喪われ、動力として取り出せるエネルギーは数パーセントと言われている。
しかも石炭を燃やす蒸気動力の場合、仕組みとしては単純だが、重くて扱うのに人手を要するのも欠点だ。煤煙も出るし、石炭殻も出る。固体だから輸送するのにも貯蓄するのにも不便な面がある。
だから人類は、次なる動力機関を求めた。それが石油を使ったガソリンやディーゼルエンジンだ。石炭よりも圧倒的に少量で、より大きなエネルギーを取り出せる。煤煙も石炭より少ないし、石炭殻ほどゴミも出ない。
ただし、石炭以上に掘り出すのが大変なのと、さらに石炭のそれに比べるとより緻密なメカとなる。
日本でも鉄道用の石油機関は試行錯誤で、戦前は技術が一歩進んでいたガソリンエンジンが主流だったが、ガソリンは万が一の事故の際に燃えやすいという欠点がある。1940年に大阪の城東線で起きた脱線事故では、脱線車輌のガソリンタンクが炎上して車体が全焼し、多くの犠牲者を出してしまった。
そして戦後はディーゼル動車が幅を効かせたけど、こちらは中々大馬力エンジンを作れず、苦労している。キハ91系の悲劇なんてものもあったし。
そんな直接燃やすエンジンでは無く、一度そうした動力で発電した電力を架線(或いはサードレール)経由で受け取り、モーターに流して動かすのが電車だ。
日本では京都で日本初めての電気鉄道開通が有名だけど、そもそも電車の運行は琵琶湖からの疎水を使って得た電力の有効活用から始まっている。
戦前の日本において、電気を使用するのは工場か鉄道とか産業関係が大口で、電化製品がほとんどないから家庭での利用は灯とラジオくらいだった。
明治期に至っては、せっかく発電しても売り先に困るくらいだった。だから、電力会社が次々に鉄道の運営に参画した。元を辿れば電力会社から始まっている鉄道会社は、大手にもあるくらいだ。
我がヤマシタ公爵領でも、来たる電化鉄道時代を見据えて火力発電所を稼働させている。
とはいえ、現状では電気による鉄道は明治の日本同様、せいぜい路面鉄道に使えるくらいだ。
そちらについては、領都トセで開業に向けて着々と計画を進めている。だけど、それも数年後。
今はと言えば。
「パパ、走った走った!」
「おう、早いだろ!」
「早い早い!」
我が息子と娘たちが、屋敷の一室に設けた鉄道模型のジオラマを走る電車の模型に喜んでいる。
街の手先の器用な職人に作らせた、この国初の鉄道模型を楽しむだけである。
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