舟運の代替策を確保せよ!
鉄道が開通する以前、陸上における輸送手段として大きなウェイを占めたのが、舟運だった。
これは近代的な動力発明以前、陸上において荷物を輸送する手段が人力か畜力しかなく、それらで運べる輸送量は微々たるものでしかなかったのに対して、舟運は川の流れに任せるしかないにせよ、水上に浮かぶ舟というアドバンテージ故に、遙かに大きな輸送力を発揮できた。
日本でも利根川とか淀川の舟運は有名だし、マニアックなところだと山間部の伐採した巨木自体を船にして下流に流すという方法も行われた。
魔法があるにせよ、それが普遍的な力ではなかったゆえに、この世界でも、ついこの間まで運輸分野も含めた様々な場面で自然の力に頼らざるを得なかった。すなわち、この世界でも舟運が内陸部の輸送に大きな力を発揮していたわけだ。
キエシャ辺境伯の領都セイは、海岸から河で15kmほど遡上した平地に設けられているけど、この地に設けられた理由の一つに、交通の要衝であったというのがある。それは街道が交わると同時に、領地奥地の森林地帯から海までの河川航路の中継点でもあったこと意味している。
そしてこの河川航路は現在も現役で、多数の舟が活動している。
キエシャ辺境伯から言われた領民の配慮のうち、大きな問題となるのがこの舟運に従事している人々の雇用と生活の保証だ。
これが馬車だったら、以前のうちの領内みたいに鉄道との並行区間を、駅からのフィーダー交通に転換することで、これまでと同じように雇用を確保できる。
しかし、川の上を走る舟では、そうはいかない。陸に上がって走れと言っても無理なのは、子供でもわかることだ。
となると、彼らには別の仕事を用意する必要がある。
そこで、俺は舟運組合に向かって、まずは組合長と相談することにした。
「うちの鉄道が延びることで失職することになるだろう、舟運関係者の再雇用については、全力でサポートするつもりだ。転職やそれに伴う職業訓練、訓練中の生活費も出していい。必要なら、証文を作るのだって構わない」
しかし、組合長は渋い顔。
「勇者様。まあ、若いやつはそれでもいいでしょうがね、今更新しい仕事を覚えるのも難しいベテランや中堅は一筋縄ではいきませんよ」
「転職が嫌なら、解雇後の生活費を補償するとしてもか?」
「7割8割は、まあそれでなんとかなるでしょうがね、職人気質の奴らは、それでも反対するでしょうね。仕事が生きがいの連中ですから」
「じゃあ、どこか別の舟運組合への転職の斡旋は?領外への移動は、うちから辺境伯に話すが」
「慣れた地元から離れるっていうのもですね」
う~む。これは思ったよりやっかいになりそうだ。
とにかく、現地の状況を調べないとダメだな。
俺はとりあえず、舟運の現状を直接見て回ることにした。
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