複線で作れ!
「ついに建設開始・・・感無量だ」
この日、終に俺の悲願であるヤマシタ鉄道の建設が始まった。
路線の起点は、国鉄との接続駅であるオジリシ駅で、終端は石灰石の有望な鉱脈が見つかっているワジフラ岳の麓までだ。
ただ開業式はほぼ中間にあって、俺の領地の領都であるトセの街で行った。俺の故郷の神事と言うことで、鍬入れを行ったあとは、こちらの宗教に則って街の神官に、建設の安全を祈る儀式を任せた。
それが終わると、俺も含めた出席者による立食形式のパーティーとなった。こういう場はあまり得意ではないけど、出席者には国のお偉いさんや周囲の領地の貴族もいるから、無下にはできない。
数時間掛けて接待を終えた俺は、建設の始まった駅予定地を見やる。今は更地だが、将来的にはここに機関庫や貨物駅も併設したトセ中央駅ができる。
1年後の完成が待ち遠しい。
とは言え、その間にもやることは多い。
建設工事の技術面は国鉄に任せるにしても、その工事を実際に行う労働者はうちの会社で手配しないといけないし、それから開業に備えて必要な機関士や駅員も、教育は国鉄に委託するが、採用と雇用(つまりは給料だ)はうち持ちになる。
本当、侯爵と勇者と言う立場で、金に糸目を付けなくていいのは助かる。
大規模な公共工事である鉄道建設は、とにかく初期投資に金が掛かる。この資金がなかったゆえに、建設がとん挫して未成線になったり、当初計画のとおりに路線が出来ず、経営面で苦戦を強いられた鉄道は枚挙に暇がない。
そして金に困らないおかげで、全線を三線式軌条の複線として敷設できる。
三線式軌条とは、本来2本のレールに1本を付け加える方式のことだ。こうすれば、軌間の違う列車同士でも乗り入れが可能になるっていう寸法だ。
ただし、デメリットとしては保守の手間が増えるし、分岐器が複雑になる。もちろん、建設費も上乗せされる。
さらに言うと、この三線式軌条になっている区間は、うちの鉄道だけだ。だから、国鉄の車両がうちの路線に乗り入れることは出来ても、逆はできないことになり、所謂片乗り入れ状態になる。
そうなれば、国鉄に対して車両の使用料支払いも生じる。
それでもって、俺は全線を複線で建設するように命じた。複線は文字通り、線路をもう2本増やして二つの列車がすれ違えるようにした線路だ。だから、必要になる土地も資材も倍になる。
もし輸送量が少なければ、明らかに過剰投資になりかねない。現にそれで複線を単線にしたなんて例もある。
でも、複線にすれば正面衝突の危険性はグッと減る。
色灯式信号機がなく、見難い腕木式信号機とタブレットのやり取りと言う、初歩的な安全策しか取れないこの世界では、これだけで安全性が格段に増す。
例え無用の長物になっても構わない。とにかく、安全運行。それが俺の結論だった。
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