メイドの疑問に答えろ!
「よっしゃ!敷設免許ゲット!」
開業から一定期間後の国鉄による買収を受け入れるという条件付きで、ついにクラマギ大臣印の敷設免許状をゲットすることができた。
たった10日で免許が降りるとは、こういう時は勇者と侯爵という立場様々だな。
王都の鉄道省から届けられた敷設免許状を広げて、俺はウハウハだった。そんな俺を、アイリが怪訝な表情で見ている。
「しかし良かったのですか?国に買収されることを認めるなんて。25年なんてアッと言う間ですよ」
「そうだな。俺や君からしたら、25年なんてアッと言う間だな」
俺は召喚後に与えられた魔法で、そしてアイリは元からの体質で、お互い不老不死の特典をもらっている。もちろん、事故でケガなんかすれば死ぬ可能性はあるけど、老いで死ぬことは絶対にない。
現に目の前のアイリも、どう見ても人間の10代後半くらいなのに、実際の歳は500越えとか。
「でも、こうでもしなきゃ敷設免許は得られないし、何よりもこの国に鉄道を広めるためには、避けて通れない道だから。何せ、このまま国鉄任せだと、同じ25年の月日があっても、路線はほとんど伸びないだろうし」
「何故?」
「簡単。金がない」
そう、この国には今金がない!何せ魔王国との戦争に多額の戦費を使ったから。だから、国庫はすっからかん。戦争中は魔王国に勝利するための大義名分で、国債の乱発や貴族からの献金と言う名の徴収で建設費を回収したが、もちろん戦争が終わった平時にそんなこと出来る筈もない。
なので、国鉄の延伸も計画だけはあるけど、全くと言っていいほど、前に進んでいない。
西南戦争のせいで、鉄道の延伸が思うに任せなくなった日本そのまんまだよ。
まあ、俺がしようとしているのも、日本鉄道や山陽鉄道がやったこと、ほぼそのままだけど。
「だから嫌でも、民間の資本を入れなきゃ、新線建設は思うに任せない。だから向こうとしても渡りに船だった筈だよ。それに、今回国鉄の協力も得られることになったし」
今回鉄道敷設に関して、国鉄の全面協力も取り付けていた。もちろん、それは国鉄に対価を支払う形でだ。
しかし、アイリはそれも疑問に思っているらしい。
「それこそ、向こうの影響力をより受けるだけじゃないですか?」
国鉄の技術で作られると、実質的に国鉄に吸収されるのを早めるだけ。そう考えているみたいだ。
だけど、国鉄の協力は避けて通れない道だ。
「それはそうだけど、線路を敷くにも、車両を作るにも、国鉄側の支援がなければどうにもならないからね。今鉄道に関する技術を持っているのは、実質的に国鉄だけだから」
この世界の鉄道に関する技術は、俺が元いた世界から持ち込んだ書物に記された技術をベースに、こちらの技術者たちが完成させたものだ。そして今や彼らは、国鉄の技術者として働いている。
俺自身は技術者でも何でもないから、どうしても彼らの協力がないと、鉄道の建設はできない。
さらに言うと、運転やサービス面と言った部分も、教習施設は国鉄にしかないのだから、やっぱり支援を受けるしかない。
とは言え、俺としても早々と国鉄に吸収されるなんて愚を犯す気はない。
「まあ、それに関してはちゃんと考えてあるしね」
「はあ」
アイリはまだ怪訝な顔をしていたが、俺はそれに構わず彼女が淹れた紅茶を口にした。
うん、美味い。
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