難民受け入れを準備せよ!
そもそも、どうして戦争が終結してから大分時間が経過した今になって、アイリのもとに難民受け入れ依頼の手紙が届いたのか?
アイリの説明を要約すると、こうだ。
旧魔王国の南部、ルーレ王国との旧国境に近いガーナノ地方。この付近は国境線近くとあって、戦闘が激しく行われた地域で、そのために多くの街や村が被災した。ただし、それは致命的な打撃ではなく、その地に住む魔族たちは、総督府の管理下に置かれながらも、復興を順調に進めていたそうだ。
ところが、去年の冬の積雪量が例年より遥かに多く、直接的な雪害も然ることながら、それが春の雪解けによって大規模な土石流を引き起こした。
その結果、人的な被害に加えて、せっかく復興が進んでいたガーナノ地方に大打撃を与えたという。特に食料を生産する畑や、工芸品を生産する工房の多くは土石流に飲まれ、復旧の目処が立たないという。
この被害に、総督府は当座の食料などの支援は行ったそうだが、本格的な生活再建の面倒まではみなかった。まあ、この世界では災害発生時の民間への救援策は、基本的に為政者の胸三寸で決まる。
そんな世界で、旧敵国民の生活再建など、思いもよらないことだろう。そして、ガーナノの住民たちも、総督府が宛にならないことぐらいわかっていた。
「で、かつての魔王であるアイリの元に、助けを求めたというわけか」
「そうなのです。私が旦那様と結婚したという情報は、旧魔王国領にも伝わったようでして」
アイリが単なる元魔王の奴隷身分だったら、こんな手紙は来なかったはずだ。しかし、今の彼女は俺の嫁。つまりはルーレ王国公爵夫人だ。頼れる存在と言える。
「アイリとしてはどうしたい?損得抜きで、君の本音を聞きたい」
「もちろん、同胞ですから助けて欲しいです」
「だろうね。で、難民の総数は?」
「1000人ほどとの、ことです」
「1000か・・・」
その程度ならうちの領地に受け入れても問題ない数だな。現在の住民との軋轢防止を考えると、未開拓地のどこかを割り当てる必要があるし、その分の予算も出さなきゃいけない。
一方で話を聞く限りだと職人なんかも含まれているわけだから、彼ら含めた1000人ほどの住民の増加は、長期的に見れば領地の運営面にプラスの筈だ。
ただまあ、どっちにしろ根回しは必要だな。
「アイリ、すぐに王都に行くよ。国王陛下と内務省に話をつけないとね」
「はい、畏まりました旦那様」
それから、俺は言わせた文官のトップである行政長に命令した。
「行政長。すぐに1000名分の当座の食料と、衣類、それから彼らが住むために必要な住居用の資材を手配してくれ。受け入れ地については、彼らの移動スケジュールが固まり次第、改めて命令する。それと、俺が王都に行ってる間の代理指揮もね」
「畏まりました。公爵閣下」
俺は指示を終えると、急いで旅装を整える。
「アイリ、行けるか?」
「はい!」
アイリも手早く旅装束に着替えていた。
彼女を伴い、俺は馬車を中央駅に走らせた。今ならまだ、午後の列車に間に合う筈だ。
とにかく、王都に急がねば。
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