建築限界を測定しろ!
季節は巡って、あっと言う間に開業予定日2カ月前になった。
この日俺は、アイリと共に建設が進むトセ中央駅のプラットホームに立っていた。
既に線路の敷設や信号設備の設置が終わり、プラットホームも完成している。残すはホームの屋根や駅舎の内装と言った具合に、最後の詰めの段階に入っている。
そんなトセ中央駅に、ゆっくりと列車が入って来た。蒸気機関車に1両のまるで針鼠のようなトゲがたくさんついた客車、そして後ろに貨物列車用の車掌車を連結した3両編成だ。
この列車こそ、記念すべきオジリシ駅からこのトセ中央駅までを初めて直行して来た列車だ。
完成した短い区間ごとの試運転列車は走っていたけど、通しで走ったのはこれが初めてだ。
ちなみに、今回の試運転列車はただの列車ではない。中央に連結されたトゲ付き客車は、国鉄から借りた限界測定車だ。
今回国鉄から借りた限界測定車は、建築限界から飛び出した異物がないか測定する車両で、日本の国鉄では俗に花魁車とも呼ばれていた特殊車両だ。
建築限界て言うのは、車体周囲の安全確保のために必要とする隙間のことで、この隙間に入る形でホームや信号機などの建築物があってはならない。
この限界測定車は、万が一建築限界から飛び出している異物があると、車両に取り付けたトゲのような突起が、パタンと倒れるシンプルかつ確実な仕組みになっている。
この限界測定車自体は、国鉄線の建設が始まると同時に、向こうから取り寄せた資料に従って、既に製造されていた。今回はその車両をレンタルして、こうして試運転列車に使っているわけだ。
ここまで走って来た試運転列車は、いったんここで停車して石炭と水の補給、乗務員の休憩を行う。
「どうだ?何か異常はあったか?」
「あ、社長。大丈夫です。ここまで大きなトラブルはありませんでした。羽根は一度も倒れていませんよ」
俺が列車に乗って来た監督官に尋ねると、彼は笑顔で返してくれた。どうやら、今のところ限界に抵触する建築物はなかったようだ。
機関車の周囲では、駅員が群がって給水と給炭が行われている。本来はこのトセ中央駅で補給するまでもないのだが、今回は給水や給炭設備のチェックと、駅員の訓練も兼ねて行わせている。
やはりと言おうか、これが初めてだからか、駅員たちの動きはあまり良くない。慣れてないから、当然と言えば当然だけど。
そして、予定より数分遅れて、試運転列車は発車していった。
「上手く行って良かったですね、旦那様」
アイリの言葉に、俺は苦笑いする。
「まだ半分だよ。あの列車が全線走りとおして問題なければ、本当に上手くいったということだよ」
この言葉がフラグになったか知らないけど、数時間後試運転列車から路盤不良で運転を中止したという連絡がきた。
幸い脱線はしなかったようだけど、すぐに応急対策班を向かわせる羽目になった。
試運転はこういうトラブルを洗い出すのが役目だし、ケガ人も出なかったけど、やれやれだよ。
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