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百鬼夜行  ~魔女たちの節分〜

作者: ラス

グル企画作品

テーマは魔法使い×節分

「おにはそと~」

「ふくはうち~」


 令和の世も変わらず、人々は節分に豆をまき、巻寿司をほおばる。

 世界を裏から操る迷惑集団である魔女達もまた、季節の行事やイベントなどは好んで参加していた。魔力により長寿となった彼女達は、その長すぎる生をだいたい持て余していた。今は概ね平和な時代で、一部要職に就く者以外は特に仕事もせず、ニートみたいなもんであった。

 つまり、魔女達は暇なのだ。


 魔女協会日本支部でも、その日は皆集まり、ささやかな節分を楽しんでいた。

 久兵衛で特注した巻寿司をささやかと言うかは人それぞれだが、彼女らは紙製の鬼に豆を投げ、酒を呑み、巻寿司をほおばりながら、悪だくみの相談なぞに花を咲かせていた。そんな中の事。


「つってあたしら魔女なわけじゃん?紙で出来た鬼におにはそと~って豆投げるのもどうなのさ」

「ほんとの鬼に投げるとかもう仕事じゃん」

「的役やってくれてたツッチー来なくなっちゃったもんね」

「しかりしかり」

「まあそうだけどさー、よわっちいのでいいから召喚して的にしようよ~。風情大事にしてこ?」

「一人おっさん混じってない?」


 そんな話を酔った頭でやっていた魔女達は、ノリで鬼を召喚し始めた。あくまで雑魚鬼をちょっとイジメてやろうと言った程度のノリだった。だが、元々迷惑な頭をしているのが魔女であり、彼女達は酔っていた。


 そして、千を超える鬼が天より降って来た。




「……方円陣!」


 防衛隊長が叫び、皆が一瞬で陣を組む。

 一瞬で酔いを飛ばし臨戦態勢に入ったのは見事であった。だが鬼の数と質、共に過去経験した事のないレベル。まさに百鬼夜行であった。


「……この屋敷を中心に十二門を降ろします!」

「「ハッ!」」


 防衛隊の長である藤原奏美ふじわらかなみは即座に最高硬度を誇る防衛結界、十二門の構築にかかった。準備など全くしていないため、簡易結界になってしまうが、それでも破格の硬度を誇る結界である。

 数名が補佐に回り、他は鬼の侵入を防ぐべく飛び出していく。


「茨木を確認!」

「やばすぎでしょクソがぁっ!!」


 ちらほらと地獄の奥に棲む凶悪な鬼の姿も見える。何を間違えたらこうなるのか分からないが、自分達が死地に立っている事は分かった。地獄が顕現したに等しいのだ。

 だが魔女の名は伊達ではない。突発した事態にも即座に対応し、鬼の群れを封滅していく。だがその数は尋常ではなく、徐々に押し込まれていった。


「開門!皆入って!」


 合図と共に、鬼を防いでいた魔女達が一斉に屋敷に飛び込む。

 十二陣は反則気味な結界で、許可のないものは通る事は出来ないが、許可を与えた物はなんでも通る。攻撃魔術であっても。


「よし、魔滅陣を敷け!終局術式『天泣瀑布』を撃つ!」


 終局術式は強力である代わりに、準備が複雑で調整も難しい。一般的には補助魔法陣を敷いてから行う魔術である。それでもそれを行使できる魔女は数えるほどしかいない。

 日本で撃てる者はただ一人、奏美の姉である奏華かなかだけである。


 皆が陣と式に回って完成を急ぐが、その間も鬼達は結界を破壊しようとガンガン殴りつけている。魔を纏った拳やこん棒は結界の強度を急激に削っていき、最強の陣であろうとも簡易に組まれた物では長くはもちそうになかった。


「藻壁門、崩壊しました!」

「談天門も限界間近!」


 次々と崩壊する門に、焦りが募る。

 半数が魔滅陣を維持し、残り全員で奏華を支える。術式が間に合わなければ全滅するという恐怖に震えながらも、強靭な精神力で詠唱を続けていた。


「五蓋童子、来ます!」

「あーもう!奏華!急いで!」


 歪な模様の五色に彩られた大鬼が、朱雀門に金棒を叩き込んでいる。

 このままでは間に合わない。応戦するしかない。

 補佐に回った魔女達がそう判断したと同時、それは成った。



「……地獄の底まで流れ逝け!『天泣瀑布』!!」


 発動と同時、辺り一帯が異界と化した。

 同時に天から、とんでもない量の光が落ちて来た。よく見ればその一つ一つは、大豆ほどの大きさの光の粒だった。神の涙と言われる光の瀑布は殆どの鬼を飲み込み、地獄の底へと洗い流した。


「残ったか……」


 殆どの鬼は地獄に押し流された。

 だが数名の高位鬼はそれでも飲み込まれず、こちらを見ていた。

 そして魔女達は戦慄した。そこに立っていた一柱の鬼に。


「大嶽丸殿!貴方がなぜここにいる!条約を忘れたか!」

「忘れてはおらぬ!だが友人が不憫でな。ちょっと貴様らを懲らしめてやろうと参らせてもらった」


 笑う鬼は、こん棒をふるった。

 それだけでぎりぎり残っていた十二門は粉々に砕け散った。


「カトヤンガはやりすぎだろうが!!」


 シヴァ神が所有している筈の神器を手に、鬼は襲い掛かって来た。

 その日、世界魔女協会日本支部の面々は全滅した。













 ーーー


「はーあたしらこんなんばっかだよねー」

「うるせえ働け」


 日本支部の面々は全滅したが、死んだ者はいなかった。入院した者はいたが。

 条約を破ってはいないという大嶽丸の言葉は本当だったようで、殺意もなく、本当にただ懲らしめられただけだった。今はボロボロの体をひきずって後片付けの最中だ。


 発端は、ツッチーこと、土牛童子であった。

 魔女達は彼を節分の度に呼び出し、酒をつがせたり、笑いながら豆を投げつけていた。本来は鬼を払う権能を持つありがたい童子を魔女達はおもちゃにしてしまった。ありていにいってカスの所業だった。

 そして土牛童子は姿を現さなくなり、ゆえに魔女達は紙の鬼に向けて豆を投げていたのだ。


 引きこもりぎみになっていた土牛童子を訪ねた大嶽丸は憤り、魔女の雑に描いた召喚を細工して乗り込んだという顛末であった。


 大嶽丸にいいようにボコられた後、魔女たちはめちゃくちゃ怒られた。

 現代のふぬけた魔女では、準備も無しに三大妖怪にかなうはずも無く、全員正座で説教された。


 だが魔女達は年に数度はこんな事件を起こしている。土牛童子にはちゃんと謝ったが、彼女達が懲りる事はなかった。きっとまた、ちょっとした事がきっかけで大事件を起こす事になるだろう。


 だってしょうがない。悠久を生きる彼女達は、暇なのだ。



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