【短編版】俺の好きな子には他に好きな奴がいる
昔からそうだった。
家が近所のしーちゃんも、同じ幼稚園だったちーちゃんも。小学校の頃のなほ子ちゃんも、転校生の真由美も。
中学の頃同じ委員会だった木ノ下さんも、クラスの係活動が一緒だった池田も。
高校に入ってから意外と可愛いなと思っていたあの子も。
俺が気になりかけたり、好きだと自覚した頃に相手は何故か俺の友達を好きになる。
いつも一緒に連んで、たまにバカをやったりするぐらいで、俺とソイツでそう違いがあるのか?と疑問に思いながらも好きな子の恋心を否定できない。
そして、その大体が両思いになる。時には俺を挟んで、あるいは俺の知らないところで少しずつその恋心を育んでいく奴らを見て、互いに好意の視線を向けるその姿を見て、俺が嫌気を指すのはもっともだろう。
どうせなら俺が好きになる前に、気がつく前にお互いが恋に落ちていれば、俺が友達の好きなやつを好きになることはなかったのに。
そう思わずにはいられない。
高校二年の秋、俺は同じクラスの女子に呼び出された。
それは何とも下手な校舎裏。こんなベッタベタは本当に起こることなのかと、疑わずにはいられない。
今目の前にいる相手は俺を呼び出した張本人。顔を真っ赤に染め上げて、緊張が極限にまで高まっているようだった。
こんな場面はこの短い人生では一度として体験したことはなく、俺が少し居心地の悪さを感じるのも必然のことだった。
「ぁ、っあのっ!!」
「……はい」
相手が大きく息を吸うのがわかる。俺もそれに釣られ息を呑む。
クるっ。
「あのっ、私のことっ好きになってください!!!!」
「…………………………は?」
………………これは、つまり、遠回しな付き合ってくださいってこと?
いや、告白する時に「私のこと好きになって」って変じゃないか?
告白未満な言葉のように思うんだけど……。
「ぁ、あの、私好きな人がいて」
ん?
「それで、あなたが気に入った女性が毎回好きな人と結ばれるってジンクスがあって」
「……なにそれ初耳なんだけど」
「っひぅ!」
めっちゃクソビビってるし。
あれ、これもしかして……。
「あ、あなたに私のことを好きになってもらえれば、その……」
「自分の好きなやつと両思いになれるかも、って?」
「っヒャい!」
めっちゃ噛むし。
「…………ふーん」
要は俺のことを利用したい、ってそういう訳?
……マジフザケんなよ。
「へぇ、俺に好きになって貰えば? 好きなやつと両思い? 確証もないのに良くもそんな大胆なお願いできるね」
「ヒグっ」
もはや豚の鳴き真似みたいなんだけど。
つか考えれば考えるほどマジイラつく。
「勝手すぎない?」
「ヒゥッ」
「ただの自己中の自己満じゃん」
「ヒグゥ!」
「俺の事なんだと思ってるわけ?」
「ヒャウッ!!」
相手がどんどん縮こまって、ガタガタブルブルと音を立て始めた。
人間から聞かなさそうな音なのだが?
「ぁあの、本当にごめんなさい! そんなつもり、いや、あのっ……うぅ〜」
ついには泣き出しそうになった。
マジ勝手なんだけど。俺振り回されてるだけなんだけど。
これ放って帰っても文句言われないよね?
「ゔぅ〜〜〜〜っ」
「………………」
…………ホント、最悪。
「……人としてどうな訳? そんなお願い」
「あぅ」
「そんで用が済んだらポイなんでしょ?」
「ヒィャ! ブワッ」
……あ、やべ。
ついには本当に泣き出してしまった相手を見て、自分が認識していた以上に苛立っていたことに気がつく。
ヒグヒグと豚のように泣く相手を見て、流石に言いすぎたと反省する。何故なら俺には人の心があるから。
「……つーか、それ本気で言ってるわけ?」
「…………へぁ?」
俺は未だにその小さな鼻を啜る彼女に改めて問いかける。
「他に好きな奴がいるくせに、俺に『好きになれ』って」
「…………」
「もしそれで、本当に俺がアンタのこと好きになったら、どうするわけ?」
理解ができていないのか、相手の女子はポカンとその汚い顔面を晒してくる。
ちょっと女子としてどうなんだ、コレ?
「……そ、れは」
「まぁ、聞いてやってもいいよ」
「…………え?」
迷うように声を窄める彼女に俺はボソリと呟く。
よく聞こえなかったのか、素直に聞き返してくる彼女のその表情に、俺はニンマリと笑って答えてやる。
「お願い、聞いてやってもいいよ」
出来得る限り、甘い空気を含ませて、その耳元に囁いてやる。
「…………っほ、本当ですか?!」
「その代わり、」
相手が俺の言葉に理解し、満面に喜びの感情を輝かせた時、俺はそんな彼女を崖の上に立たせて落とすように語りかける。
「俺がアンタのことを好きになれるように協力してほしい」
「協力……?」
「そう」
まるで銃でも突きつけるかのような感覚で、俺は彼女を脅す。
「俺がちゃんとアンタのことが好きになれるよう、アンタが俺にアプローチして欲しい」
コレが条件だ。と俺は彼女に言い聞かせる。
好きな奴がいるのに、他の奴に気があるように振る舞え。
その好きな奴は誰かは知らないが、わざわざ俺を間に挟もうとするんだ。俺の数多い友達のうちの誰かだろう。
俺に近づけば必然的にダチ連中の認識に入る。でも俺に気があるように振る舞えば、その好きな奴本人に誤解されるかもしれない。
恋をする相手にはこれ以上ない屈辱だろう。
コレは脅しだ。好きな奴に勘違いされその機会を失うか、奇跡にも近い確率に賭けるか。
そもそも、俺が好きになった女子が必ず好きなやつと両思いで結ばれるなんて確証はない。その場では良くてもすぐ別れるかもしれない。すぐではなくても、もし本当に俺にそんな効果が付与できるんだったら俺がいなくなれば全部オジャンだ。
諦めろ。俺はそう言ってる。
俺に賭けるぐらいなら直接勝負してこい。
そんな密かな想いを込めて。
「……した」
「ん?」
何かを呟いた彼女の声が聞き取れず、俺は聞き返す。
「……わかりました!」
「…………は?」
急に顔を上げこちらをまっすぐと見上げてくる。
「絶対に、あなたを惚れさせて見せます!!」
そんな気合に満ちた声と共に、彼女は拳を握ってそれを天高くまで突き上げる。
「ファイト〜」とどこか気が緩んでしまいそうな掛け声をかけてから、彼女は「作戦を練るためここで失礼します!」と意気込んでどこかに行ってしまった。
急な展開についていけず、先ほどバカにした彼女のようにポカンとアホヅラを晒す俺だけを置いて。
「……ウソだろ?」
そこまでの意気込みがあるのなら、直接好きな奴にアタックすればいいじゃん。
俺を巻き込む必要性皆無じゃん。
怒涛の疑問と不満が溢れ出てくる俺は天を仰ぐ。
そしてそれを吐き出すように、全ての感情をないまぜにしたため息をついた。
……やっぱり、俺の好きな子には他に好きな奴がいた。
吐き出しきれなかった想いに苦笑して、俺はもう一度天を仰いだ。
空は憎々しいほど晴れていた。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
とりあえずここまでで完結です。でも一応続きは考えてます。(じゃあ書けよって話である)
失恋回、先に期待。
少しでもこの二人に『面白い』『続いてほしい』『どうなるか気になる』『ハッピーエンドを期待』と感じて下されば、ブックマーク評価コメントしていただけると嬉しいです。
恋に悩む少年少女に幸あれ。
(相変わらずキーワドがわからない……誰か教えてほしいです)