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魔王さま世紀末を征く!  作者: 鳴雷堂 哲夫
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魔王さま帰れなくなる

 「……へー、じゃあなにか?あんたたちはその『魔界』ってとこからきたのか。」

ニックはモノバイクの座席にもたれ、隣を歩くマオに向かってそう問いかけた。

「ふふっ、そうよ!そして何を隠そう、わたしは魔界を支配する魔王なのよ!」

マオは腕組みをし、自慢げにそう答える。


 「ははっ、そりゃすげぇや。」

「あー!ちょっとなにその反応?あなた、わたしが魔王だって信じてないでしょ?」

「そりゃそうよ。魔王なんてファンタジーゲームじゃあるまいし。」

「むっきーー!あったまきた!」

ムキになって地団駄を踏むマオ。

そんな彼女を見やって、ニックは意地悪く笑う。


 雲一つない青空の下、砂塵に塗れた廃都市を歩くマオとリル。

モノバイクに乗ったニックが少し先を行き、緩やかな速度で二人を先導する。

彼女たちが向かう先は、転移門が展示されていた廃美術館だ。


 人間界の視察を終えたマオたちは、転移門を通り一旦魔界へと帰ることにした。

ニックは命を救ってくれたせめてもの礼として、モノバイクに搭載されたGPS機能を使い、目的地までの最短ルートで美術館までの道のりを案内することにしたのだ。


 「それじゃあさ、あんたが魔王だっていう証拠を見せてくれよ?そしたら信じてやるよ。」

「証拠もなにも、あなた見たでしょ?わたしがあのオーガを倒したところ。」

「あぁ、あの電気ビリビリのチョップな?確かにすごかったけど、あれがどうかしたのか?」


 「ふふ、聞いて驚きなさい!あれこそが我が七星王家に伝わる秘伝の拳法、その名も『魔皇神拳』!王位を継いだ者だけが使うことを許される、一子相伝の格闘技よ!」

「王様にだけ使える秘密の拳法ねぇ?でもそれだけで信じろって……うわぁ!」

ガシャァァァァァァァァァン!

少女たちの会話を阻むかのように、突如巨大看板が目の前に落下する!

慌ててブレーキを踏むニック。間一髪のところで衝突を免れる。


 「……ったく、危ねえなあ!」

ニックは舌打ちをし、廃看板に蹴りを入れた。

「あー、気にすんな。たまにあるんだ。」

ニックは罰が悪そうにボリボリと頭を掻く。


 「しかしこの辺りはずいぶん荒れていますね。過去に何かあったのでしょうか?」

リルが怪訝な顔をして問うた。

周囲の建物には様々な大きさの錆びついた看板が垂れ下がっており、風が吹くたびにギシギシと軋んだ音を立てる。

少し強い風が吹けば、今にも落ちてきそうだ。


 「そう!それよそれ!わたしもそれが知りたかったの!ねぇニック、昔ここでいったい何があったの?」

「昔でけえ国同士の戦争があったのよ。それでこんなになっちまったってわけ。ま、アタイが生まれる数百年も前のことだから、あんま詳しいことは知らねーけどよ。」

「戦争……。」

マオは辺りを見渡し、呆然と呟く。


 なるほど、それで合点がいったとマオはうなづいた。

この街の荒れようはそういうことだったのか。

マオが人間の世界に遊びに行く遥か以前に、人間たちの国家は滅び去っていたわけだ。

マオは少し寂しく思い、ため息をついた。


 「ニックさま、他の場所もこの様な有り様なのでしょうか?どこかに戦禍を免れた国や都市はないのですか?」

「アタイは仕事柄、大陸中あちこちを周ってるが、どこも似たようなもんだな。みんな旧世紀のインフラを頼りに小さな集落を作って、そこで細々と暮らしてる。まぁ、流石に海の向こうのことは知らんがな。あー、あと様はつけんでいいぞ?ニックでいい。様付けなんぞされると、ケツがかゆくなるからな。」

「了解しました、ニック。」

リルが慇懃無礼にお辞儀をした。


 『ザ……目的地まで、あと200メートルです。次の角を、右折してください。』

車載GPSの合成音声が、目的地が近いことを告げる。

「あと少しだな。そこの角を曲がればすぐだぜ。」

「ありがとね、ニック。いろいろお世話になったわね。」

「ハハ、そりゃこっちのセリフさ。アンタらが助けてくれなきゃ、アタイは今ごろヘンタイどものオモチャだ。ほんとに感謝してるよ。」

ニックは照れくさそうに頬をポリポリとかいた。


 「ふふっ、どういたしまして……って、うわぁ!」

マオはリルの足にぶつかって尻もちをついた。

痛たた……と尻をさすりながら見上げると、先に角を曲がったリルが呆然と立ち尽くしている。

「ちょっとリル!あんたどこ見てるのよ!」

マオは尻についた砂がはたきながら立ち上がり、己が従者を叱責した。

しかしリルはそれには応えず、ただ唖然とした表情で何かをじっと見ていた。


 「……リル?いったいどうしたの?」

不審に思ったマオがそう尋ねた。

「マオさま……アレを……。」

リルは硬直した表情で、視線の先にある何かを指し示す。

マオとニックは急いで角を曲がり、彼女の指差す先にあるものを見た。

そして理解したのだ。彼女のその奇妙な反応の理由を。


 そこにあったのは、無惨に倒壊した巨大建築物だった。

ほんの数十分前までは、確かにそこに美術館があったはずなのに、今ではただ瓦礫の山が積み上がり、ブスブスと黒い煙が立ち昇っている。

「美術館が……なくなってる⁈ 」

マオは立ち尽くし、呆然とそう呟いた。





_____つづく



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