#ジャマイカな猫
8.#ジャマイカな猫
幹線道路の抜け道になっているのか、歩道の無い一方通行の道なのに、通り過ぎる車は、結構なスピードを出していた。クリニックや、個人商店も見かけたから、何度かは、誰か、危ない目に遭ったんだろうなって想像する。せめてもの救いは、通学路にはなってなさそうだということぐらいだろうか。
さっきは、猫の私も、あやうくひかれかけた。無我夢中で逃げていて、飛び出してしまったから。
どれくらい走っていたのだろう。
息を切らしながら、後ろを振り返った。もう、白猫の姿は無い。
ホッとして足を止めると、月極駐車場に停めてあるミニバンの下に水たまりを見つけた。エアコンの水なのだろう。
自然と、体がそちらに向かって動き、ペロペロと舐める。
乾いた喉が、潤っていく。地面に溜まった水を舐めることに、全然、抵抗が無い……。なんだか、少しずつ、猫に慣れてきているのかもしれない。
水たまりの水を舐めつくして、そのままミニバンの床下に潜り込んだ。
走り疲れて、足が痛いっていうのもあるけど、時間を潰すことも必要よね。
だって、今、青木君のアパートに帰っても、中に入れないし。
スマートフォンを取り出し、何気なく、『須藤沙羅』と自分の名前を入力して、エゴサーチをかけた。
三日前に起こった、メッタ刺し事件の被害者……そんなタイトルが並ぶ中、つい今しがたアップされたネットニュースを見つける。
心臓をバクバクさせながら、そのニュース記事をタップした。
『須藤沙羅さん(二十五歳)が路上で刺された事件で、犯行に使われたと思われるサバイバルナイフが、現場近くの河原で発見されました。そのサバイバルナイフは、流通量が少なく、事件の二日前、地元の商店街にあるキャンプ用品の専門店で、買われた可能性が高いことも判明しております。現在、サバイバルナイフを購入した人物を特定し、事情聴取をしているとのことです』
えっ?
容疑者が事情聴取されている!?
そんなはず、無いよ。彼は、今、警察なんかに行っていないはず。
別のネット記事を検索すると、『サバイバルナイフを購入した女性を重要参考人として事情聴取中』となっていた。
女性!? 何よ、それ?
誰なのよ?
その人は、私を刺した犯人じゃないわ。何をしてるのよ、警察は!
どんな捜査したら、そうなるのよ。ポンコツかよっ!
誤認逮捕だけは、やめてあげてよね。冤罪に苦しむ人なんか、見たくないから!
どの辺りを歩いてきたのかわからない。青木君のアパートに着いた時には、すっかり日が暮れていた。
「どこ行ってたんですか? 帰ったらどこにもいないんで、心配しましたよ」
ドアが開くなり、青木君が顔を出した。やっぱり、青木君はいた。
まあ、話はあとから……と、私は、青木君の脇を抜けて部屋に入る。
ピーッと、お湯が沸いたことを知らせる甲高い笛の音にビクリとしつつ、ラグの上にスマートフォンを置いて、高速タップした。
『で、記事は完成した? もう、公開した?』
青木君が、カップラーメンにお湯を注ぎながら、流し台のふちに置いたスマートフォンを覗き込む。
「記事は、ほぼ完成しましたね。明日にでもアップされるんじゃないですかね」
『そう。それはよかった。ありがとう。感謝するわ』
「公開されたら、ネットが、荒れると思いますよ。人気絶頂アイドルの大スキャンダルですからね」
青木君は、お皿にご飯をつぎ、私の前に置く。カニかまぼこが三本、ご飯の上にのせられていた。
私の夕食ね。
「そういえば、夕方ごろから、ネットでバズっている話題って知っていますか?」
割り箸が載ったカップラーメンをローテーブルに置いた青木君が、あぐらをかく。
「『#ジャマイカな猫』で、何本か動画が上がってますよ」
#ジャマイカな猫!?
青木君が、スマートフォンでネット検索をして、その動画の一つを見せてくれた。すでに一万回近くまで視聴されている動画には、バスの後部バンパーに座って手を振る猫が映っていた。
ジャマイカ柄の服を着て、爆笑しているようにも見える。ドライブレコーダーの映像らしい。
「そんな目立つ格好して、外に出たら、そりゃ、人目を惹きますよ」
ラーメンをすする青木君は、呆れているようだった。
一旦箸を置いて、さらにスマートフォンを操作して、関連付けされた動画を再生してくれる。
大通りを闊歩するジャマイカな猫。
人目を気にして逃げ出すジャマイカな猫。
極めつけは、木の上のジャマイカな猫……。
『これ、CGだろ?』
『さすがに、これは嘘だわ』
『いや、この猫、本当にメール打ってんじゃね?』
『良く出来てる映像だよなぁ』
『なんで、急に、ジャマイカな猫? 何きっかけ? みんな、同時にCGを作ったわけ?』
動画の中、木の上にいるジャマイカな猫は、スマートフォンをタップして、メールをやり取りしているように見えた。
それを見たネット民が、目の錯覚なのか、はたまた、本当にメールを打っているのか、と、物議をかもしていた。
私は、カニかまぼこがのったご飯を、飢えた猫のようにガツガツ食べた。
あ、私は、猫か。
「もう、外に出ない方が、いいんじゃないですか? 猫として、有名になりたくないんですよね?」
顔を上げると、青木君は、思ったより上品に麺をすすっている。特に意識もせずに、自然と出てきたアドバイスなのだろう。
確かに、そうかな。ちょっぴり、目立ち過ぎちゃったかな……。
「でも、もったいないですよね。今の須藤さんを独占取材出来れば、記事がバズって、すごいお金になりそうなんですけどねぇ……」
青木君は、ラーメンのスープを飲み、カップをテーブルに戻す。
「所在を明かさなければ、有名になっても関係ないんじゃないですか? 須藤さんが迷惑がるようなことには、なりませんよ。謎が謎を呼べば、ブームも引っ張れますし、そしたら、ボク、大金持ちになれるんですけどねぇ」
未練がましいことを言う。その件は、一度、はっきりと断ったのに……。
でも、私の心も、少し揺れていた。
確かに、私に害が及ばなくて、青木君にお金が入るなら、有りかもしれない。そんなことを考えながら、食べ終わった後のお皿を舐めていた。
私は、口の周りを舌で舐め回しながら、暗証番号を打ち込んで、自分のスマートフォンを開く。
『ずっと、家にいていいの? 動画を撮るって言っても、この家の中でしかできないよ。だって、私は、外には出られないから』
「ぜんっぜん、いいですよ。この家の中で、やれることだけでいいですから。スマホを打つところとか、そんなのを撮らせてくださいよ」
青木君の目が、ハートマークになっている。
人間の時の私には、興味が無かったくせに。
青木君は立ち上がり、冷蔵庫からカニかまぼこを持ってきて、私の目の前でブラブラと揺らした。
「おかわり、いります?」
カニ風味のかまぼこは、本物よりも芳醇で、香りが高い。海鮮の王様と言っても過言では無い。そんな風味絶佳なカニかまぼこが、今、目の前で、二本も揺れている。
……ゴクン。思わず喉が鳴った。
「どうですか? 動画を撮らせてもらえますか? 撮影許可をいただけませんか?」
これが買収行為だと分かりつつも、私は食欲を抑えきれず、青木君がつまんでいるカニかまぼこにかぶりついてしまう。
「あ、食べましたね? それって、オーケーってことですか? そうですよね?」
し、しまった。
やっぱり、買収工作だったか。
しくじった。は、早く否定しないと。
『何を言っているの? これっぽっちで、引き受けるわけないじゃない』
「あ、もうちょっと要ります?」
「にゃあぁあ!」(ちがーう!)
青木君に飛びつく。
立ち上がりかけた青木君の動きを止めることには、成功した。
本当はもうちょっと食べたかったんだけどと思いつつ、青木君を見上げる。
青木君は、微笑みながら少し顔を傾けただけだった。
きっと、撮影を了解しないかぎり、追加をくれる気は無いのだろう。
私は、背中のポケットからビニル袋を出し、あたりめを一本、引っ掻き出す。そのあたりめを咥え、ガシガシと牙でしごきながら、高速タップした。
『やっぱり、ちょっと、考えさせて。まずは、私の望みを叶える方が先。動画を撮るのはそのあとだよ』
「え? 望みって何でしたっけ? 例の、スキャンダル記事を公開して、三橋に刑罰を課すってヤツですか?」
『そうよ。それに決まってるじゃない』
私は、殺される三週間前、青木君と最期の食事をして、青木君がトイレに立った隙に、置いてあった彼のジャケットのポケットに、手紙を入れた。
あなたは、あの手紙を読んだの?
それとも、読んでいないの?
「そうっすか! じゃあ、もうすぐですね。明日には、記事は公開されますから」
読んだのなら、その記事の公開が、私にとってどれだけ大きな意味を持つことなのか、わかっているでしょ?
「でも、須藤さん、なんで、その記事にこだわってるんですか? 前に聞いた正義感だけじゃないっすよね? 今は、猫になって、ジャーナリストじゃないんですから。三橋コウジのフアンだってりして? もしかして、三橋にリアコ? 好きすぎて、憎んじゃってるとかですか?」
「にゃにゃにゃにゃあぁぁあ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい。嘘です。言ってみただけですよ。ハハハ」
こ、こいつは、本当に知らないんだ。
青木君は、手紙を読んでいない……。
な、なぜ?
手紙は、どこにいったの?
落としたりしていないよね?
青木君以外の人に読まれると、恥ずかしいんですけど……。
「でも、楽しみだなぁ、ジャマイカ猫の動画。きっと、間違いなく、バズりますよ。アフェリエイトで、収入、ガッポガッポ入ってきちゃいますよ。どうしましょうかね、ヤバいっすね」
能天気だね、相変わらず。
「そしたら、高級なキャットフード、いっぱい買ってあげますね」
キャットフードなんて食べたくない……と、あたりめを嚙みながら、青木君を睨んだ。
高級なブランド牛肉を食わせろよ、アオキ!
次の日の朝、出社する青木君を玄関まで見送ると、あくびをしながら、部屋に戻る。
昨日と変わらないはずなんだけど、なんとなく、部屋の眺めに、違和感を覚えた。
部屋の中を見回す。
ペラペラの布団がのるベッド、バカでかいテレビ、豪華な装飾がされた、青木君が毎朝拝んでいるツボ。
あれ?
壁にあるフックには、見たことがない肩掛けポーチが掛かっていた。グレーのような、ダークグリーンのような、おじさんが好きそうな地味な色合いのそれは、新品のように見える。
このポーチ、買ったのかしら?
おっさんくさい趣味よね、青木君……。
でも、私が気になっちゃったのは、これじゃない。
私は、カラーボックスの上で、視線を止めた。
写真立てが無い。
伏せられてはいたけど、確か、カラーボックスの上に、佐原すずと一緒に写っている写真立てがあったはず。
飛び乗って確認してみたけど、やっぱり写真立ては無かった。
どこかに隠したのかな。それとも……。
いや、きっと、それだけのことよね。
私は、カラーボックスから飛び降りて、日の当たる窓際に寝そべった。
ぐぃーんと反り返るほど背筋を伸ばすと、昨夜の疑問が再び、頭をよぎる。
青木君、あなたは、あの手紙を読んでないの?
最後の食事の時、椅子に置いてあった青木君のジャケットに、そっと入れた手紙の下書きは、スマートフォンに保存してある。
私はスマートフォンをいじり、そのメモ書きを開いた。
『青木君、突然のお手紙で、ゴメンね。驚いた?
事故の真相を追っている件、色々と手伝ってくれてありがとう。
言ってなかったけど、あの事件、バイクの単独事故とされて死んだのは、実は、私の彼氏なんです。だから、彼の仇討ちをするのが、私に課せられた使命なんです。
この事件、絶対に白日の下に晒して、なんとしても、真犯人に罪を償わせたいんです。
あと少しで、記事にできると思っています。そして、ネットで公開すれば、きっと警察は動いてくれます。そして、いずれ真犯人は逮捕されるでしょう。その時、私の望みは、ついに叶うということになります。
私は、この日が来ることだけを希望の光にして、今まで生きてきました。だから、真犯人が逮捕されるのを見届けられることができれば、もう、思い残すことは、何もありません。
私も、彼、園田マキトの後を追おうと、ずっと前から決めていました。私の人生は、マキト無しでは、考えられなかったからです』
かつて、青木君のジャケットに忍ばせた手紙は、今読んでも、重い内容で始まっていた。
青木君に書いた手紙の下書きをスワイプして、続きを読む。
『それで、いいと、ずっと思ってたんです。本当なんです。
でも、実は、最近、考えが変わりました。また、新しい恋が出来るような、気がしてきたんです。きっかけは、近くに、気になる人が出来たことです。でも、その人には、どうやら、彼女がいるようです。
ある時、私は、その人が彼女と別れて、私と付き合ってくれないかなぁ、なんて淡い期待をしていることに気付いて、自分がイヤになりました。
これは、遺言ではありません。また、ラブレターでもありません。ただ、自分がこれから生きて行くためには、これを書いて、渡さないと再出発できないと思ったんです。
青木君に、感謝の気持ちを伝えたかったんです。これからも、生きていこう、新しい恋をしよう。そういう、きっかけをもらっただけで、とても、ありがたいんです。
これからも、よろしくね。彼女を大切にしてね』
私は、未練がましかった。これで手紙を終われば良かったのに、追伸を書いてしまっていた。
『P.S.もし、彼女と別れたら、私と付き合ってね。別れなくても、しばらくは、青木君を追いかけて、ストーカーになっちゃうかも……なんてね』
日の当たる窓際で、手紙の下書きを閉じる。
読み返してみると、やっぱり、青木君は、この手紙を読んでいないのだと確信した。
だって、もし、読んでいたなら、三橋のスキャンダル記事に賭ける私の思いを知っているはず。
そして、事件が公開されることをそっちのけで、自分が金儲けできることに対して、あんなにはしゃいだりは出来ないよね、ふつう……。いくら、能天気な青木君でもさ。
そういえば、今日、記事が公開されるって言ってたっけ。
私は、スマートフォンを何度もタップして、ネットニュースを検索した。でも、三橋の記事はヒットしなかった。
アップはまだかなぁ……なんて思っていると、ガチャガチャと部屋の外で物音がした。
私は、虚を衝かれて、ビビーンと、全身の毛が逆立ち、背筋が伸びる。
恐る恐る、玄関の方を見た。
ガチャリと、鍵が回る。
何?
青木君が早退してきた!?
いや、それだったら、チャットしてくれるはず……。
第一、さっき出て行ったばっかだし、そんなはずないよね。
ドアノブが回り、重そうなドアがガクンと揺れる。
だ、誰?
ひょっとして、空き巣?
や、ヤバくない!?
ホラー映画のワンシーンのように、ゆっくりとドアが開く。
ちょっ、ちょっと!
無理、無理、無理無理無理無理。
や、やだ、やめて!
やめてーっ!
私は、急いでカーテンの裏に隠れて、気配を消した。
「もう、ほんとに、ひどい目にあったんだから。ぜんっぜん、信じてくれないし、帰してくれないし」
どこかで聴いたことがあるような、若い女の声。
恐る恐る、カーテンと床の隙間から、部屋の先を覗く。
す、すず!?
記憶の中や、写真で見たよりも、げっそりとして、やつれているけど、間違いない。前髪を眉毛の上で揃えたショートヘアの佐原すずが、スマートフォンを耳に当ててしゃべりながら、部屋に入ってきた。
すずは、この部屋の勝手を知っているようで、何の迷いもなく、冷蔵庫のドアを開ける。
ど、どういうこと?
合鍵を持っていたってこと?
同棲しているの?
いやいや、そんなはずないよね。ここ二日間は、いなかったし……。
同棲はしていなくても、すずは青木君の部屋に、自由に出入りできるってことか。そんな関係だったんだ……。
すずは、スマートフォンを耳にあてたまま、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
「そうよ、そうなのよ。じゃあ、あれはやっぱり、マチがアリバイを証言してくれたんだね。だから、事情聴取から解放されたんだ」
アリバイを証言?
事情聴取?
な、なんだか……ちょっと、恐ろしい話をしてるんじゃ……あ。
ひょっ、ひょっとして……!?
私は、雷に打たれたような衝撃を受け、わなわなと全身が震える。
昨日読んだニュースの記事が、フラッシュバックする。
『事件に使われたサバイバルナイフを購入した女性を特定し、事情聴取中――』
そ、それって、すずだったってこと!?
事前に、すずが購入していたっていうことなの!?
ど、どういうことだろう……。
私は、何か、大きな勘違いをしているのかもしれない。
私はカーテンの裏で、低く伏せていたけど、平静さを失って、左右の前足で交互に顔を拭った。
すずは、片手で、リングプルを開け、ベッドを背にして座る。
「それは、ありがとう。そのおかげで、自由になれたんだから、マチには、感謝してるよ。本当よ」
マチ?
千林万知?
すずと万知は、今でも繋がってたんだ。
「アリバイの証言をしてくれたことは、感謝してるけど、そもそものきっかけを作ったのは、万知だからね。そこは、忘れないでね」
万知が、すずのアリバイを証言したって、警察に嘘をついたのかしら……。いや、違う。きっと、万知とすずは、本当に一緒にいたんだわ。
私が刺されたとき、二人は、現場にいなかったんだ。
だって、私を刺したのは、すずでも、万知でもないんだから……。
「万知のせいだからね。万知が変な情報を入れてくるから、こうなったんだから。万知は共犯よ」
〝変な情報〟ってなんだろうって考えていたら、急に、ある光景が蘇った。
泥酔してしまって終電を逃し、青木君とホテルに泊まった次の日の朝だ。青木君とぶつかりかけて、転倒した自転車に乗っていた女性は、やっぱり万知だったのだ。
心臓が、バクバクと大きく脈打った。
もっと、話が聞きたい。
私は、そんなことを願いながら、カーテンの隙間から覗いていた。
「じゃあね。私は、青ちゃんの家に着いたから。青ちゃんが帰ってくるまで、少し寝るわ」
すずは、スマートフォンをテーブルに置き、代わりに飲みかけの缶ビールを手に取った。
願いは実らず、二人の会話が終ってしまった……。
すずは、缶ビールに口につけたまま逆さにして振る。最後の一滴まで飲み干すと、両手で缶を潰して、ゴミ箱に放り込んだ。
「はぁ、疲れた……もう、いや」
そんな独り言を言って、すずは、背中からベッドに倒れた。疲れ切ったように、「はぁーあー」と、ため息とも、深呼吸ともとれる長い息を吐き出す。
しばらくして、すずのいびきが聴こえてきたけど、私は、カーテンの裏で伏せたまま、動けなかった。
私が殺された経緯は、きっと、私が想像していたのとは違う。
猫になってから、考えないようにしていたけど、やっぱり、そうはいかないらしい。
どうして私が、刺されて殺されたのか、ちゃんと正しく認識しないとダメなんだよ、きっと。
じゃないと、猫になったのに、また、殺されるかもしれないし。
私は目を閉じ、これまで封印してきた、心がすさんだ時期の記憶を手繰った。