第三話 〜Lady or Woman〜
私たちは、討伐される為だけの存在だった。
それは過剰な表現でも、歪曲的な意味でもない。
唯、其レダケノ為ノ命ニ過ギナイ。
光亡き世界の果てにて、闇を束ねた王国の最終地。
其の城、最奥に住む者を《魔王》と呼ぶ。
彼の者ら、六つの魂に成りて、個々を修羅と化す。
其の様、正に暴虐タル者。
紅纏し者《怒れる者》
藍纏し者《哀しき者》
翠纏し者《楽たる者》
白纏し者《愛しき者》
銀纏し者《憎しむ者》
金纏し者《喜べる者》
これらは全て彼女達を表現した、人間達の言葉に過ぎない。
人々は彼女達を余りにも恐れ過ぎた。
そうなってしまったが故に、誰一人とて彼女達の気持ちを汲み取れなかったのだ。
過ぎゆく時の無常さに、歪み行く認識と壊れ行く感情。
ありもしない強さを求め、縋るための存在を欲し続けた。
だから……彼はあまりにも都合が良かった。
それは一時の事でしか無いことを理解しながらも、彼に惹かれてしまっていた。
彼の名はツィーゲ。
彼女たちを自らの手で薙ぎ倒しながらも、慈愛と高揚に満ちた眼差しで愛してくれる、たった一人の存在だ。
幾多の人々が彼女たちを討伐する為に足を運び、その度に羽虫の如く地に這いつくばっていった。
だからこそ初めての感情でもあった。
誰一人とて土を付けたことのない彼女たちに対して、ただ平然と己の強さのみで打ち伏せたのだから。
愛おしい
手放したくない
側にいて欲しい
誰にも渡したくない
そんなあまりにも我儘な感情に、神々は応えた。
彼を、ただ一人《魔王》を打ち破った英雄を、世界は一神として、神たる力を授けたのだ。
それは彼女たちの望みでもある《上位種》
《魔王》六種を贄として、初めて成立する、神格化の秘技。
《魔神王》
彼は、神々の期待を、彼女たちの願いを、人々の望みをその手にし、初めて世界を取得したのだった。
それからというもの、彼女たちはただ一人である彼に、己が身を、更には魂すらも捧げることを誓う。
忘失されないように
手放されないように
失望されないように
想いを込めて、尽くした……はずだった。
あの日が来るまでは。
世界の終焉はいつの日も唐突に訪れる。
崩れ行く世界と、消えゆく人々、そして光に包まれる彼。
今まで、何が起ころうとも、どんな日が来ようとも玉座に鎮座していた彼だが、その日だけは異常だった。
世界の理を逸脱した状況。
彼女たちは理解が及ばなかった。
誰一人その場を動けず、震える体を抑えるように、壊れる感情を守るようにして、足が動かなかったのだ。
そして終焉を迎えた。
それからどれ程までの時間が過ぎただろうか。
間抜けの城に、いるはずの無い主人を求めて二百年、彼女たちは働き続けたのだった。
来るはずの無い未来を求めて……