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Wanderer  作者: 隼龍デーティ
天地神明ヲ否定セシ者
2/5

第二話 〜Last one Week〜

『全てのプレイヤーに通告します。来週の末日24:00をもちまして《Lost of World》のサービスを終了致します。どうぞ最後の時までお楽しみください』


 その告知は、すべてのプレイヤーを現実に引き戻した。


 運営から突如として通達されたサービス終了の話は、何かしらの意図がある様に感じられるものだった。


 しかしながら、運営以外の誰一人とてその真意には辿り着けず、話も有耶無耶になりながら時は過ぎていった。


 そんなプレイヤーの一人である彼「@Ziege_13/02」又の名を「魔神王ツィーゲ」も同様である。


 ゲームプレイヤー達は、残り少ない期間をより多くの時間をかけやり込んでいった。


 そして、長期にわたって人気を博したゲーム《Lost of World》の最終日を迎えることとなる。


「はぁ、今日の24時をもって、サービス終了なのか……」


 天高く、人の身ではたどり着けない場所にある城、『神魔城』の最も奥深く、総てを見下せる場所に座る存在。


 魔王を越すものとして語られる男、ツィーゲは一人呟く。


「明日は確か……あぁ、そうだ、取引先との会談だったな…… 終了時間が24時、それならゆっくりと寝ても大丈夫だな。あれから、もう八年が経ち、九年目に突入する予定だったのにな……」


 ゆっくりと過去の感傷に浸るその姿は、山羊の様な見た目の存在が、何かしらに思いを馳せている異様な光景だ。


 そう、彼の見た目……アバターは、山羊の頭に、人に似た体、そしてそれを覆う体毛にその上から纏うのは、闇より漆黒の衣だった。


「っ……終わるのか、今までの全てが……俺の過去、そのものが」


 その言葉はどこか悲しくも、冷たく聞こえる。

 彼にとって、そう思える程までの時間を過ごした世界が目前で消え去ることを、心の何処かで納得してしまったのだろう。


「…………」


 無言は時に、諦めという感情を作り上げてしまう。

 彼もまた例外ではなかった。



 孤独の翁は一人、虚しく玉座に鎮座する。


 その様は大昔の絵画であるかのような、哀愁を漂わせる表情だ。


 そして、静かに時間は過ぎ去った。


〜23:59〜


〜24:??〜


 終焉の時刻を迎え、強制的に現実に帰るものだと、彼は思っていた……だが、世界は変化した。


 深夜の0時を迎えるはずだった瞬間、世界にヒビが走り、刹那の浮遊感と共に玉座の間から転移させられている。


 一瞬にして場所が変わり、明かりが少ない空間に立っていた。


「ここは……と言うより、ゲームは終わったんじゃ?」


 時間を確認する方法はなく、全てが手探りな状態でのスタート。

 それは言わば、なんらヒントのない知恵の輪と一緒だ。


 ゲームでは存在しなかった、皮膚を通して伝わる冷ややかな空気感が背筋を凍らせる。


 時間にして数十秒程経った頃だろうか、ボフっといった小さな破裂音と共に赤い灯火が、辺りの壁を点々と埋め尽くしていった


 そこでハッキリとした視界に戻り、初めて気づいたのだ。


 ここが、ゲームでのラスボスの一人が鎮座する「女帝の私室」と呼ばれるバトルフィールドであることに。


「なっ!? 女帝の私室だと!? ……まさか」


 ツィーゲの意識がこの場所に反応した瞬間、その存在は姿を見せる。


「!!」


 血を思わせる様な紅きドレスを身に纏い、手元には深海の様な群青の扇が、ハラリハラリと持ち主へ風を動かしていた。


 その者、人に非ず。


 その者、狂気を好む。


 その者、怒レル者。


 その名を「緋色ノ女煌帝」


 ゲーム世界では終わりを飾るためのボス、いわゆるラスボスの座にいた存在だ。


 彼女はツィーゲを見るがいなや、臨戦体制に入った。


 その行動に思わず、愚痴を叫んでしまう。


「初期スポーンがラスボス部屋だと!? 何かの嫌がらせか!!」


 言葉は虚しく消えゆくが、場の雰囲気は何一つ変化していない。


 ツィーゲは自身の身の有り様を、未だに理解出来ていない。


 その気の緩んだ瞬間、彼女を自身の懐までの接近を許してしまう。


 そして腹部を殴られた。



 理解した、把握した、認知した、納得した、そして……


 悟った。





 この場は既にゲームでなく、山羊の身体は、自身の血肉へと返還される。


 意識はあり、魂が自ら変革した。


 そう、ゲームの中だけだったツィーゲは、今この瞬間「俺」になっていた。


「っ……はぁ……知っている、分かっている、理解している。だから、愛している」


 その言葉は他の誰でもない、今まさに懐にいる……いや、涙を流しながら動けなくなっている彼女に対するものだった。


 俺の言葉は彼女にまで届いたのだろうか、そんな疑問を持ちながらも静かに、唯ゆっくりと彼女を抱きしめるのだった。


「……遅い……遅過ぎます、旦那様。」


 涙でぐちゃぐちゃになってしまった顔を、これでもかという程に破顔させ、教えてくれる。


 この子は……いや、この子達は寂しかったのだと。


 俺は少し……ほんの少し前のゲームの内容を思い出していた。


 それはとある女性達の物語である。

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