第一話 〜Lost of Warld〜
私たち六人は遥か昔から孤独だった。
世界に生を得て間もなく、魔王の称号を手にした。
何も知らない世界の中で、魔王として讃えられ傘下だと名乗る者たちを統治しなければいけなかった。
私たちだって……導いてほしかったのに。
されど世界は変化しなかった。
どれほど強く願おうと、どれほど酷く望もうと、私たちの導き手は姿すら見せはしない。
故に、私たちの感情は酷く歪に壊れてしまったのだった……
『魔王様、万歳!! 我らが始祖に、栄光を!!』
地平線のかなたまで埋め尽くす魔族の群れはそう叫んだ。たった一つの望みの為に。
「何度も聞いた言葉、よね……」
深紅のマーメイドドレスを身に纏う彼女は、退屈そうにそう呟く。
「それが彼らの望みなのでしょう?」
群青のローブを着る淑女は静かに、呟いた。
「いいさ、いいさー!! 元気があるだけましってことだろ?」
翡翠のビキニアーマーを着用した跳ね返り娘は、砕けた口調で快活に笑う。
「本当にいつもご機嫌なのですね、貴女は」
乳白の巫女服を着飾る早乙女は、ゆったりとした言葉で笑った。
「聞き飽きた、訳ではないが……やはり、捻りが必要ではあるな」
白銀の装飾が施された高位軍服を整える女君は、無愛想に嘆く。
「……如何にあれども、全てにおいて我らの考えを上回る事は起こり得なかった。今はただ、我らが為すべき天命を全うするとしようか!!」
金色のマントをはためかせ、踵を返す女性は口角を上げながら、城の奥へと去っていった。
またそれに並ぶようにして、六種の魔王たちはその存在を見せつけるのだった。
六種の魔王たちは城の最奥、円卓の間へと足を運ばせていた。
そこは彼女たちにとって、唯一気が休まる場所だ。
故に、その部屋には居るのは魔王たち六人だけだった。
臣下曰く、その部屋にはどのような存在も立ち入ることを禁じられているという。
誰も部屋の中を知ることはなく、また誰一人とて近づこうとは思っていないほどだった。
「さて、ここにいる魔王たちに問うとしよう。我らの天命とはいったい何を成すことだと思うか?」
最も尊大な態度を取る女帝が問いかける。
「ふむ、天命というのならば一つしか無かろう? かつて私たちを御し、深く深く愛してくれた尊き御方、魔神王ツィーゲ様……彼の御方の復活だ、違うか?」
無感情に近い女君のような存在は、当然であるように答える。
「そうでしょうけど、現在まで行ってきた内容と、その成果に変わりはあったかしら?」
退屈そうな女王は皮肉気味に呟く。
「何も行わないよりマシだとは思いませんか? 結果とは過程を抜かしては起こり得ないものなのですよ?」
冷徹な淑女は優しげに諭した。
「あはは、何にしても天命だとか、運命だとか、あまり気にし過ぎちゃダメってことだね!! したいと思った時に体が動けば、必ず成せるだろうし」
快活なおてんば娘は、楽しそうに喋る。
「皆さんも飽きませんよね〜、この話は今日だけで三回しましたからね〜?」
のんびりとした雰囲気の乙女は、まったりと返した。
「ふっ、それでは決まりだな!! 我々の天命は何一つ変わる事なく、皆の意見にも変化はなし。これで堅苦しい話は終いだな、ハッハッハッハ!!」
魔王城最奥から響く笑い声は、愉快そうでありながら何処か虚しく掻き消えていくのだった。
「~Lost of World~」通称「LoW<ロウ>」と呼ばれるゲームは、初めてのジャンルを確立しそれを世の中に知らしめたとされる、色々な方面で有名なゲームだ。
そして、そのジャンルと言われるものが「Reality World Diving Massively Multiplayer Online Role-Playing Game<RWD MMO RPG>」世界初のリアル体験型、バーチャルゲームであり、国内のみでの生産と販売を許された特殊なゲームだった。
人々は数多くの反応を示した。時には陰謀論を説いたり、時には時代の変革点だと騒いだり、純粋に遊ぶ者たちの中にはビジネスを考える者もいたとされる。
しかし、どの様なゲームであっても、世界には流行り廃りが存在する。
世界そのものが、どれだけ注目したゲームであってもそれは例外には至れなかった。
「LoW」そのゲームは約九年の月日を持ってサービスを終了することが告知される。
多くのプレイヤーたちに激震が走り、また涙するものも少なくはなかった。
そんなプレイヤーの中の一人である彼、ゲームアバター名「@Ziege_13/02」も青春全てかけた男だった。
彼の武勇伝は数多くのプレイヤーが耳にしたことがあるだろう。
いや、せざるを得なく、またその存在そのものが異質極まりないのだから。
ゲーム中最強の存在にして、六種の魔王たちを配下とし、その存在は神をも平伏させると呼ばれている。
ゲームを運営する会社が認めた、チートや改造なしの純粋なプレイヤー。
その異端さからくる二つ名は「魔王を超越せし者」「大魔王」「魔神王」などと、唯ひたすらに常軌を逸脱した物ばかりだ。
彼の強さを端的に表すのなら、まず語られるのがゲーム五周年記念で行われた「六種の魔王、同時討伐祭」が有名どころだろう。
それはとても簡単な話だった。
運営は記念とつけば何をやっても良いという暴論に達し、結果ゲーム内で最強格に当たる六種を魔王へと進化させ同時討伐を行わせた。
もちろん単騎ではなく、この際に追加要素として用いられたギルドどうしの連盟、レイドでの戦闘システムが用意されていた。
しかしながら、トップギルド四組でのレイドを持ってしても、六種存在する魔王の、二人を倒して全滅してしまった。
故にこのイベントは無茶イベと呼ばれ、技術を磨くために挑む物たちが増えていった。
しかしながら、この六種をたった一人で討伐した者がいた。
それが第一の武勇伝「魔神王、降臨!!」だ。
そんな不条理の存在であるプレイヤー「@Ziege_13/02」は当たり前のように、サービス終了時までゲームにログインしていた……
そして世界は生まれ変わり、伝説が生まれるのだった。