#45
#1
海に来る事なんてなかったな。
潮の香りは少し辛く感じる。
「こんな時期に海に来る人なんていないから静かだね」
「でも、静か過ぎますね」
「ははは、そうかも」
カナさんは海の方を向いた。
俺も海の方を向いた。
海が荒れて、砂浜も黒い。
こんな所で良かったのかな?
「海荒れてますね」
「ですね。風も少し強くて寒いですね。寒くないですか?」
「ふふふ、優しいですね」
「何処かお店に入りましょう」
天ぷらとそばの定食がやって来た。
「頂きます」
湯気が立つ蕎麦を箸で取る。
温かいな。
カナさんも蕎麦をすすった。
「温かくて、美味しい」
「ですね」
店の景囲気も古風でお客は俺とカナさんだけだから静かだ。
「シュウゴくんは今日何してるのかな?」
「確か、今日は図書館行ってるよ」
「相変わらず、勉強熱心だね。何かお土産買って行こうよ」
「そうですね。美味しいものでも買っていきましょう」
#2
「シュウゴ、あたしが片付けるから置いておきな」
「いや、皿ぐらい洗わせてください」
「あたしも手伝う~」
ユウコも一緒に皿を洗面台に運んできた。
「アサコ、ちょっと外出てくるから宜しくね。シュウちゃん、いつもありがとうね」
「こちらこそありがとうございます」
ケイコさんは片手を上げて、店に出た。
「さてと、ヨーちゃん、机拭くの手伝って」
「...うん」
アサコとヨウコは机を拭き始めた。
「リュウゴさん、カナさんと今頃一緒に何してるかな?」
「お昼でも食べてるんじゃないか、ほい」
「シュウちゃんはこの後どうするの?」
「図書館に行くよ」
「そうなんだ」
「ユウコは?」
「あたしは特に用もないから家で掃除でもするよ」
「そうか」
「ん?」
後ろから気配がする。
「どうした。ヨウコ?」
「...あたしも図書館行く」
「そうか。んじゃ、終わったら一緒に行くぞ」
「...うん」
「えー!何それー?!」
「だって、ユウコは掃除するんだろ?」
「そうだけど〜」
---
「ユーちゃん、抱きつかないの」
「だって〜」
「はいはい」
ユーちゃんも行けば良かったのに。
不器用だなー。
#3
「ふぅー」
時計を見ると、結構遅くなったな。
ヨウコを探しに行くか。
「ヨウコ」
ヨウコは顔を上げた。
「そろそろ帰るぞ。本、借りてくるか?」
ヨウコは頷いた。
「んじゃ、受付に行くぞ」
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「今日は何を借りたんだ?」
「...昔の人の小説」
「そっか。面白いのか?」
「...面白いよ。シュウちゃんも今度読んで見て」
「そうするよ」
もう暗い時間になったな。
「...ショウちゃん」
「うん?」
「...卒業したら、あんまり会えない?」
「まぁ、今よりは会う頻度は減るだろうな。ヨウコは大学行くからな」
「...そうだよね」
「アサコもいるから寂しくないだろう?」
「...でも、皆いないから不安」
ヨウコは少し俯いていた。
「とうっ!」
目の前にマモ姉が現れた。
「マモ姉、危ないでしょ」
「大丈夫大丈夫!」
「ヨウコ、大丈夫か?」
咄嗟に俺の後ろに引き寄せたからヨウコは目を丸くしてた。
ヨウコは状況を理解すると、俺の横に出てきた。
「お!ヨウコちゃんではないか!」
マモ姉は間髪入れずにヨウコを抱き締めた。
ヨウコは赤ん坊みたいにされるがままだ。
「...マモ姉も会えなくなるよね?」
「お?ヨウコちゃん、お姉さんに会いたいのかい?」
ヨウコは顔を上げた。
「...うん」
「愛い奴め〜。安心しなさい!すぐに会いに行くさ」
「...本当?」
「シュウちゃんも、ユウコちゃんも連れていくよ!!」
「...嬉しい」
ヨウコはマモ姉を強く抱きしめた。
「可愛い女子じゃの〜」
マモ姉はヨウコの頭を撫でていた。
「分かった?シュウちゃん?」
マモ姉は満面の笑みで俺を見てる。
「本当にできるのか?嘘だと、ヨウコは悲しむぞ?」
ヨウコの悲しむ顔は見たくないからな。
「...マモ姉?」
「お姉さんに任せなさいな!」
#4
家に明かりが点いてる。
「ただいま」
「おかえり」
「早かったね」
「ああ、特にやる事もなくてな。向こうに送って帰ってきたところだよ」
「そうか。楽しかった?」
「ああ。ありがとうな」
「兄さんはいつでも出掛けていいって言ってるんだから気にしないでよ」
食卓を見ると紙袋が置いてある。
「それはお土産。鯣とか海苔買ってきた」
「ありがとう。お茶飲む?」
「飲む」
「んじゃ、淹れるから待っててね」




