#32
#1
「すいません」
工場の音の中、入り口から声が聞こえた気がする。
タケさんは今いない。
入り口に向かうと、そこにはコバヤシさんが立っていた。
「やぁやぁ、ミヤモトさん」
「こんにちは、コバヤシさん。どうかされましたか?」
「ええ。タケゾウの爺様は外出されているのですか?」
「そうですね。今は仕事で外出してますよ」
「そうですか。そうですか。仕事を依頼したいと思ったのですが。。。」
「ああ、それなら、俺が聞きますよ。こちらへどうぞ」
コバヤシさんを接客用の和室に案内した。
お客用のお茶を湯のみに入れて、コバヤシさんの前に置いた。
「ありがとうございます」
コバヤシさんは湯のみを手に取り、お茶をすすった。
「それでどんな依頼でしょうか?」
コバヤシさんは丁寧に湯のみを置いた。
「以前、コンドウの爺様の時計を直したとお聞きしたので、我が家の古時計も直していただけないかと思いまして」
「なるほど。。。それじゃあ、一回時計の様子を見に行かせてください」
「わかりました」
「日付はいつ頃が良いですか?」
「今週であればいつでも大丈夫なのですが、いかがですか?」
「わかりました。金曜日の午後2時にお伺いしても大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないですよ」
「ありがとうございます」
予定をメモしておこう。
「コバヤシさんのご自宅はタケさんが知っていますかね?」
「ええ。何回か来てもらったこともあるので」
「それじゃ、後で聞いて後日お伺いしますね」
「はい。よろしくお願いします」
コバヤシさんはお茶を飲み切った。
「では、失礼しますね。金曜日よろしくお願いします」
「はい」
コバヤシさんを見送って、工場の中に入った。
下駄の音が遠くで鳴っていたが、ふと消えた。
#2
立派な門構えだ。
表札を見ると、コバヤシさんの家で間違えないみたいだ。
でも、呼び鈴はどこにもないみたい。
中に入って、声を出そうかな。
「やぁ、ミヤモトさん」
「うわっ?!」
見えない角度から急に声をかけられたので、焦った。
「時間通りですね」
「は、はい。コバヤシさん、びっくりしましたよ」
「おや、驚かせてすいません。でも、驚かせるのは嫌いではありません」
コバヤシさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「では、こちらへ」
---
「そういえば、呼び鈴がないみたいですが、設置されないんですか?」
「ええ、特に必要もないので」
「こんな大きな屋敷だと、俺だったら誰か来ても気づかないですよ」
「ははは。そうかもしれませんね」
監視カメラでもどっか付いていたのかな?
---
屋敷の奥の部屋に着いた。
その部屋には壁沿いにある古時計がおいてあった。
大きさは俺の背丈ぐらいあるので、そこそこ大きい。
「これですか?」
「そうですね」
「それじゃあちょっと確認しますね」
針の動きは見たところ、問題なさそう。
「コバヤシさん、この時計、見たところ問題なく動いているように思うんですけど、どこがおかしいですか?」
「この時計は今は問題ないようですが、時間がたまに早くなったり、遅くなったりするみたいなんですよ。中の何かが悪さをしているのかと思いまして」
「そうなんですね...」
時計の中に耳を澄ましても特に変わった様子はない。
「工場に持って行って、解体しようと思います」
ゴーンといきなり大きな音がした。
後ろを向くと、どうやら古時計の鐘がなったようだ。
思ったよりも大きな音だったので、かなり焦った。
でも、別に鐘のなるような時間ではない。
「ははは。解体すると聞いて驚いたのかな」
「確かに、壊れているようですね」
「この時計はそれなりに重いですし、ここの部屋で解体するのはどうですか?その方がこの時計も安心するでしょうし」
「そうですね。部屋も広いですし、コバヤシさんが問題なければ、ここで診させてもらえればと思います」
「では、家の者にも伝えておきます。作業はいつ来ていただいても構いません」
「わかりました」
#3
畳の匂いと古時計の懐かしい香りがする。
時計を解体していくが、特に異常がなかった。
タケさんも確認した時、問題なさそうだなとも言っていたし。
時計の中の部品は全てあったが、埃がたまっていたり、塗装が少しはげている部分があったので、丁寧に掃除して、塗装をして、油を注していく。
時計の中は思ったよりも綺麗だったので、作業自体は早く終わった。
時計を再度動かしてみると、特に問題なく動いている。
---
シュウゴは隣で静かに寝ている。
夜中に起きるのはあんまりないのになぁ。
台所で水を飲もう。
コップに水を入れようと蛇口をひねろうとしたら、手からコップが落ちた。
...落ちた音がしない。
コップを見ると、コップは割れもせず、ただ落ちていた。
...寝ぼけているのかな。
落ちたコップを拾って、洗い、水を入れて飲んだ。
美味しそうな匂いと包丁の音が聞こえる。
どうやらシュウゴが朝ご飯を作っているようだ。
夜の出来事は夢だったのかな?
#4
「様子を見ても問題なさそうですし、これで終わりですね」
「ありがとうございます。時間はずれることは無くなりましたし、音もなりませんでした」
「それは良かった。何かあればまた言ってください」
「この時計についてはもう大丈夫でしょう」
「へ?」
玄関で靴を履く。
「では、私はこれで。また、修理等が必要なものがあれば、工場にいらしてください」
「ええ、また。ありがとうございました」
コバヤシさんへ会釈し、工場に戻ることにした。
「あの悪戯っ子があの人についていくとは思いませんでしたよ。よっぽど、ミヤモトさんの気に入ったのでしょうね」
「それはなぜなのでしょうか」
「さぁ。私は人とは話せるけど、動物とは話せないからね」
「坊っちゃま。本当ですか?」
「ああ、そうさ。この家の当主だって、分からない事は分からないよ。分からない事が世の常さ。全てが分かってしまうなんて、死んでいることと変わらない。分からないが故に世界は魅力的なんだから」
レイヤ様は笑いながら、家の中に入っていった。
相変わらずこの家のご当主は不思議な人です。




