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白貝  作者: 黄金天狗
32/55

#32

#1



「すいません」

工場の音の中、入り口から声が聞こえた気がする。

タケさんは今いない。

入り口に向かうと、そこにはコバヤシさんが立っていた。

「やぁやぁ、ミヤモトさん」

「こんにちは、コバヤシさん。どうかされましたか?」

「ええ。タケゾウの爺様は外出されているのですか?」

「そうですね。今は仕事で外出してますよ」

「そうですか。そうですか。仕事を依頼したいと思ったのですが。。。」

「ああ、それなら、俺が聞きますよ。こちらへどうぞ」

コバヤシさんを接客用の和室に案内した。

お客用のお茶を湯のみに入れて、コバヤシさんの前に置いた。

「ありがとうございます」

コバヤシさんは湯のみを手に取り、お茶をすすった。

「それでどんな依頼でしょうか?」

コバヤシさんは丁寧に湯のみを置いた。

「以前、コンドウの爺様の時計を直したとお聞きしたので、我が家の古時計も直していただけないかと思いまして」

「なるほど。。。それじゃあ、一回時計の様子を見に行かせてください」

「わかりました」

「日付はいつ頃が良いですか?」

「今週であればいつでも大丈夫なのですが、いかがですか?」

「わかりました。金曜日の午後2時にお伺いしても大丈夫ですか?」

「ええ、問題ないですよ」

「ありがとうございます」

予定をメモしておこう。

「コバヤシさんのご自宅はタケさんが知っていますかね?」

「ええ。何回か来てもらったこともあるので」

「それじゃ、後で聞いて後日お伺いしますね」

「はい。よろしくお願いします」

コバヤシさんはお茶を飲み切った。

「では、失礼しますね。金曜日よろしくお願いします」

「はい」

コバヤシさんを見送って、工場の中に入った。

下駄の音が遠くで鳴っていたが、ふと消えた。



#2



立派な門構えだ。

表札を見ると、コバヤシさんの家で間違えないみたいだ。

でも、呼び鈴はどこにもないみたい。

中に入って、声を出そうかな。

「やぁ、ミヤモトさん」

「うわっ?!」

見えない角度から急に声をかけられたので、焦った。

「時間通りですね」

「は、はい。コバヤシさん、びっくりしましたよ」

「おや、驚かせてすいません。でも、驚かせるのは嫌いではありません」

コバヤシさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。

「では、こちらへ」


---


「そういえば、呼び鈴がないみたいですが、設置されないんですか?」

「ええ、特に必要もないので」

「こんな大きな屋敷だと、俺だったら誰か来ても気づかないですよ」

「ははは。そうかもしれませんね」

監視カメラでもどっか付いていたのかな?


---


屋敷の奥の部屋に着いた。

その部屋には壁沿いにある古時計がおいてあった。

大きさは俺の背丈ぐらいあるので、そこそこ大きい。

「これですか?」

「そうですね」

「それじゃあちょっと確認しますね」

針の動きは見たところ、問題なさそう。

「コバヤシさん、この時計、見たところ問題なく動いているように思うんですけど、どこがおかしいですか?」

「この時計は今は問題ないようですが、時間がたまに早くなったり、遅くなったりするみたいなんですよ。中の何かが悪さをしているのかと思いまして」

「そうなんですね...」

時計の中に耳を澄ましても特に変わった様子はない。

「工場に持って行って、解体しようと思います」

ゴーンといきなり大きな音がした。

後ろを向くと、どうやら古時計の鐘がなったようだ。

思ったよりも大きな音だったので、かなり焦った。

でも、別に鐘のなるような時間ではない。

「ははは。解体すると聞いて驚いたのかな」

「確かに、壊れているようですね」

「この時計はそれなりに重いですし、ここの部屋で解体するのはどうですか?その方がこの時計も安心するでしょうし」

「そうですね。部屋も広いですし、コバヤシさんが問題なければ、ここで診させてもらえればと思います」

「では、家の者にも伝えておきます。作業はいつ来ていただいても構いません」

「わかりました」



#3



畳の匂いと古時計の懐かしい香りがする。

時計を解体していくが、特に異常がなかった。

タケさんも確認した時、問題なさそうだなとも言っていたし。

時計の中の部品は全てあったが、埃がたまっていたり、塗装が少しはげている部分があったので、丁寧に掃除して、塗装をして、油を注していく。

時計の中は思ったよりも綺麗だったので、作業自体は早く終わった。

時計を再度動かしてみると、特に問題なく動いている。


---


シュウゴは隣で静かに寝ている。

夜中に起きるのはあんまりないのになぁ。

台所で水を飲もう。


コップに水を入れようと蛇口をひねろうとしたら、手からコップが落ちた。

...落ちた音がしない。

コップを見ると、コップは割れもせず、ただ落ちていた。

...寝ぼけているのかな。

落ちたコップを拾って、洗い、水を入れて飲んだ。


美味しそうな匂いと包丁の音が聞こえる。

どうやらシュウゴが朝ご飯を作っているようだ。

夜の出来事は夢だったのかな?



#4



「様子を見ても問題なさそうですし、これで終わりですね」

「ありがとうございます。時間はずれることは無くなりましたし、音もなりませんでした」

「それは良かった。何かあればまた言ってください」

「この時計についてはもう大丈夫でしょう」

「へ?」


玄関で靴を履く。

「では、私はこれで。また、修理等が必要なものがあれば、工場にいらしてください」

「ええ、また。ありがとうございました」

コバヤシさんへ会釈し、工場に戻ることにした。


「あの悪戯っ子があの人についていくとは思いませんでしたよ。よっぽど、ミヤモトさんの気に入ったのでしょうね」

「それはなぜなのでしょうか」

「さぁ。私は人とは話せるけど、動物とは話せないからね」

「坊っちゃま。本当ですか?」

「ああ、そうさ。この家の当主だって、分からない事は分からないよ。分からない事が世の常さ。全てが分かってしまうなんて、死んでいることと変わらない。分からないが故に世界は魅力的なんだから」

レイヤ様は笑いながら、家の中に入っていった。

相変わらずこの家のご当主は不思議な人です。

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