夢か、前世か
王道な勇者様とか書きたくてー。
マリオとピーチ姫みたいな。
この夢が、前世のものなのか、ただの夢なのかわからない。
夢の中で、私は一人の魔法使いに恋をしていた。
柔らかな栗色の髪に優しい翡翠の瞳の、ちょっと照れ屋でおっとりした、けれど戦うときはキリッとした横顔の彼に。
私はそんな彼の横で、防御壁や回復魔法、補助魔法を使う神官だった。
魔王に攫われたお姫様を助けるために、聖剣を抜いた勇者と、弓使いの女の子と魔法使いの彼、神官の私の四人で旅をしていた。
初めて顔を合わせたときは、頼りないなぁと思っていたけれど。
なれない旅に気遣ってくれた優しさと。
作った食事に毎回必ず、ありがとうと言ってくれるその微笑みに、私の心は囚われていった。
けれど、彼の心にはもう、既に大切な女性がいた。
おっちょこちょいで、底抜けに明るい、ひまわりみたいな弓使いの女の子。
彼が背中を預ける事のできる、唯一の人。
夜番でうたた寝する彼女にそっと毛布をかける優しくも熱のある瞳に、私は彼の恋を知った。
彼女を憎めたら、どんなに楽だっただろう。
けれど、彼女は明るくて、優しくて。
人付き合いの苦手な私にも、たくさん話しかけて笑わせてくれて。
嫌いになんて、なれなかった。
二人を見れば、こんなにも胸が苦しいのに。
気持ちのやり場なんて何処にもなくて。
私は、誤魔化すように、ただひたすらに旅を進めた。
そして、いよいよ魔王との決戦。
長い死闘を繰り広げ、ボロボロになりながらも勇者が魔王を倒したその後。
駆け寄る姫を、勇者が抱きしめる感動の再会に誰もが気を緩めていた、その時。
魔王が最後の力を振り絞って勇者に放った一撃に、彼の近くにいた彼女だけが気づいた。
咄嗟に前に出る、小柄で細い身体。
危ないと叫んだ時には、既に手遅れで。
彼女の身体が、貫かれた。
慌てて彼が駆け寄る。
早く回復を!と叫ばれて、ハッとして駆けつける。
けれど、彼女はもう虫の息で...。
彼の慟哭だけが、頭に響く。
大好きな彼が、後を追いかねないほどの絶望に囚われている。
彼女は、こんなところで死んでいい人ではない。
息のある今なら、まだ間に合う。
私は覚悟を決めて、印を結んだ。
決して使ってはならないと、そうきつく言い含められながらも伝えられた、禁術転換。
名前の通り、そっくりそのまま、身体の状態を交換するのだ。
彼女は私の状態を。私は彼女の状態を。
最後の1音を唱えた瞬間、私の身体を強い衝撃が貫いた。
耐えきれず、横たわる彼女の上に倒れ込んでしまう。
急に痛みが消えた彼女は目を白黒させて、私を見る。
私は小さく笑って、囁いた。
彼を、必ず幸せにしてね...。
「あー、もう。なんであそこで恋敵を助けたかなぁ」
手遅れならば、彼女の代わりに自分が彼の心の傷を癒やせば、まだ恋が実る事もあったかもしれないのに。
「まぁでも小心者の私には、そんなこと出来ないか」
そんなことしようもんなら、罪悪感で自殺でもしてしまいそうだ、あの私なら。
時計を確認すれば、まだ朝の6時半。
いつもより早いが、このまま2度寝する気にもなれず、起き上がる。
びっしょり寝汗をかいて気持ち悪いので、シャワーを浴びて、夢と変わらない黒髪を乾かす。
ご飯を食べて、制服を着て、腕時計を付けているとき、チャイムが鳴る。
そう、あれはきっと、ただの夢だ。
前世なんかじゃ、ない。
「おはよう紗凪。今日は珍しくちゃんと起きてるね」
お隣さんの彼が、魔法使いの彼に似ているなんて、ただの偶然だ。
偶然の、はず.........。
結局、どっちなんでしょうね。