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第2話 白麗の章〜ダンジョン攻略〜

ハイエルフ=エルフのなかで5割の確率で産まれてくる特殊個体。

その魔力値はエルフの日ではなく、

魔法だけでなく精霊術にも精通している。

エルフはみな若々しいながらも時間を掛けながら少しづつ老いていき1000年ほどで寿命を迎えるが、

ハイエルフ決して老いることはなく、寿命も存在しない。

生まれた子供がハイエルフかどうかは精霊石と呼ばれる特殊な宝石をかざし、それが光るかどうかで判別している。

また、片親がハイエルフでも、産まれてくる確率は同じである。

ギルドハウスの3階。


そこにある会議室と書かれている看板が貼られている部屋に、ソフィアは入って行った。


部屋の中には男性2人と女性が1人おり、

それぞれが思い思いに過ごしていた。


(メンバーは今のところ4人か。

私以外の3人はゴールド級か・・・うん、戦力としては十分かな。)


そんなふうに考えていると、


「し・・・失礼しまーす・・・。」


背後のドアをゆっくり開けて人影が入ってきた。


年齢は10代後半で長い髪をポニーテールに結っている。

身長は150cm程で、

黒いローブを羽織って黒いとんがり帽子を被っており、

手には先っぽに紫の水晶玉が埋め込まれている杖を持っている。


杖を握っている腕には銀色の腕輪が嵌められていた。


(シルバー級の魔法使いか。

支援役がいてくれるのは有難いな。

・・・でも。)


ガタガタガタガタガタ!


(なんかめちゃくちゃ震えてる・・・。)


目の前の少女は緊張しているのか、小刻みに震えていた。


そんな彼女を放っておくことが出来ず、ソフィアは声をかける。


「ねぇ君、大丈夫?」


「だだだだだだだいじょうばばばばばばばばば!!」


「うん、とりあえずだいじょばないのは分かった。」


「ハァハァ・・・ヒューッヒューッ。」


「過呼吸!?

ちょっと本当に大丈夫!?」


ソフィアは一旦少女を会議室の椅子に座らせると、

深呼吸をさせて落ち着かせる。


「落ち着いた?」


「す・・・すいません・・・ご迷惑をおかけして。」


「気にしないで。」


ソフィアは少女の隣の椅子を少女と対面するように動かして座る。


「君、名前は?」


「ル・・・ルチルなのです。」


「私はソフィア。

それでルチル、何をそんなに緊張してるの?」


ソフィアが問いかけると、ルチルはボソボソと話し出した。


「じ・・・実は、ルチルは昨日シルバーになったばかりなのですけど、

その時掲示板でこのクエストを見つけて自分を試す意味で受注したのです。」


「へぇ、度胸があるんだね。」


「でも・・・。」


ルチルは顔を青くして体を小刻みに震わす。


「よく考えたらルチル、レイドクエストなんて初めてだし、

ていうかパーティーすら組んだことないし、

それなのにその場のテンションに身を任せて身の程知らずなことしちゃったかなって少し後悔してて、

それでも覚悟を決めてここまで来たのですけど、

メンバーでシルバーはルチルしか居ないし、

もし先輩方に迷惑をかけたらって思ったら、

・・・つい持病の過呼吸が!」


「過呼吸は持病じゃないと思うけど。」


ルチルはよほど緊張しているのか、膝の上で拳を強く握っていた。


ソフィアはその手の上に自分の手を重ねると優しく微笑んで語りかける。


「ルチル、私の目を見て。」


ルチルは顔を上げてソフィアと目を合わせる。


「ルチル、君は冒険者にとって一番大事なものって分かる?」


「1番大事なもの?」


ルチルはソフィアの問いかけに首を傾げる。


「それはね、勇気だよ。」


「勇気・・・なのです?」


ソフィアはうなづいて続ける。


「君はさっき、覚悟を決めてここに来たって言ったね。

不安で仕方がないなら、クエストを破棄だって出来たはずだ。

それでも君はここに来た。

それって、とても勇気のいることだと思うよ?」


「でも・・・それでも上手くできるか不安なのです。」


「自分に自信を持つんだルチル。

君が冒険者としてここまで積み上げてきた経験と努力は、その銀色の腕輪と・・・。」


ソフィアはルチルの胸の真ん中を指さす。


「ここがよく知ってるはずだ、そうだろ?」


ソフィアの言葉にルチルは何かを噛み締めるように胸の前でこぶしを握る。


「それでもまだ不安なら、せめて私には頼って欲しいな。」


「で・・・でも!ご迷惑じゃないのです?」


「迷惑だと思ってるならこんなこと言わないよ。

それに・・・。」


ソフィアは優しく微笑んで、


「私も先輩面したいしね。」


そう言った。


「・・・ソフィアさんって、実は女神様なのです?」


「ごめんね、人間はやめてないんだ、私。」


そんな会話をしていると。


「お二人さん、ちょっといいかな。」


集まっていた冒険者の1人、女性が声をかけてきた。


「作戦会議が始まる前に、集まって自己紹介だけ済ませたいんだけど大丈夫?」


「はい、構いませんよ。」


「る・・・ルチルも問題ないのです!」


「そう、じゃあこっちに来て。」


ソフィアがルチルと共に女性について行くと。


そこには残りの男性2人もいた。


先程の女性から自己紹介を始める。


身長と見た目の若さはソフィアとあまり変わらない。

しかしセリカやシーナと同じく耳がとがっており、髪は金髪で瞳は気の強そうなつり目で、瞳は綺麗な青色をしていた。

腰につけたふたつのホルスターには、2丁の拳銃が収まっている。


「まず私からね、名前はアリサ。

冒険者歴は5年で、種族はハイエルフ

よろしくね!」


続いてその隣、大剣を背負い重厚な鎧をつけたいかにも歴戦の戦士と、槍を背負っている若い細身の男が続けて自己紹介をする。


「レオンだ。

よろしくな。」


「俺はクロウ、よろしくねお嬢さん方。」


3人に続いてソフィアが自己紹介を始める。


「ソフィアです。

若輩者ですが剣には多少自信がありますので、

精一杯働かせていただきます。

よろしくお願いします。」


続いてルチルの番・・・のはずなのだが、

緊張しているのか杖を両手で大事そうに握りしめていた。


「る・・・ルチルは・・・。」


そんな彼女の肩に、ソフィアは優しく手を乗せる。


ルチルが顔を上げると、ソフィアはただ優しげに微笑んでいた。


その笑顔にルチルはうなづいて答えると、

意を決したように口を開く。


「ルチルはルチルなのです!

昨日シルバーになったばかりの未熟者ですが、

一生懸命がんばるのです!

よ・・・よろしくお願いしますなのです!」


そう言って頭を思い切り下げる。


「ほう・・・。」


先程レオンと名乗った男がずんずんとルチルの傍に歩みよってくる。


「・・・嬢ちゃん。」


「は・・・はいぃ!」


声をかけられたルチルは怯えて甲高い声を出す。


「シルバーになりたてでレイドに参加たぁ、

肝が据わってんじゃねぇか。」


「・・・え?」


怒鳴られると思っていたルチルはキョトンとした顔をする。


「お・・・怒らないのです?

ご迷惑おかけするかもしれないのですよ。」


「怒りゃしねぇよ、

後輩ってなぁ先輩に迷惑かけながら成長するんもんだろ。」


「そうそう、だから遠慮しないでどんどん頼ってくれてもいいよ。」


「・・・」


「ルチル」


レオンとアリサの言葉に驚いて無言になるルチルに、ソフィアは笑顔を向ける。


「よかったね。」


「・・・はい。」


安心したのか、ルチルから笑みがこぼれた。


「まぁ、俺からしたらかわいい女の子に迷惑かけられるのはご褒美以外の何物でもないけどね?」


「ご褒美・・・なのです?」


首を傾げるルチルを他所に、

クロウはソフィアの手を両手で握り、キメ顔で彼女を見つめる。


「安心してくれソフィアちゃん。

このクロウ、身命を賭して君のことを守ってみせるから。」


「フフ、ありがとうございます。

とても頼もしいです。」


その様子を見ていたレオンが呆れたように言う。


「プラチナ相手に何言ってんだ坊主、むしろお前が守られる側だろう。」


「へ?プラチナ?」


クロウはソフィアの装着している腕輪を見る。


「・・・まじかよ。」


「今気づいたのかよ。」


「うん、正直顔と体しか見てなかった。」


「最低だこいつ!」


アリサはそう言いながら庇うようにルチルの前に立つ。


「最低とはなんだ!

こちとら嫁探しのために冒険者やってんだぞ!

エルフ、ロリっ子、清楚系の3人が揃ってるこの状況でなりふり構ってられるか!」


そう叫んだクロウを見て、ルチルはアリサに尋ねる


「ロリ系ってルチルの事なのです?」


「みたいだね。」


「そう言えばルチルっていくつなの。」


「14歳なのです、登録の時の推薦状は師匠に書いてもらったのです。」


「ロリ系って言うかガチのロリじゃん!」


ルチルの年齢を聞いたソフィアはクロウの方を向くと、


「手を出したらダメですよ?」


笑顔でそう言った。


「肝に銘じます!」


クロウは何故か凄まじい威圧感のあるその笑顔にピンと背筋を伸ばして敬礼しながら返事をした。


「くそ!でもまだ望みは残ってる!

アリサさん、どうか俺t」


「あぁ、ごめん。

私老け専だから。」


「取り付く島もねぇ!」


地面に膝を着いて項垂れるクロウをソフィアはルチルと一緒に眺めていた。


「面白い人なのです。」


「フフ、そうだね。」


そんな会話をしていると、ドアを開けて1人の中年男性が入ってきた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。

この町のギルド長をしておりますアルフと申します。」


男性はソフィア達に深々と頭を下げる。


「早速ですがクエストの概要を説明したいと思っております。

どうぞ、席におすわりください。」


ソフィア達はアルフに促されるがまま、席に着いた。


#####



アルフは、ソフィア達の座るテーブルの前に立ち説明を始める。


「それでは、本日のクエストの説明をさせて頂きたいと思いますが・・・ルチル様。」


「は・・・はい!」


「失礼ながら腕輪のデータを参照したところによりますと先日シルバーに昇格したばかりのようですが・

・・ダンジョンがどのようなものがご存知でしょうか。」


「す・・・すいません、よく分かっていないのです。」


「そうですか・・・。」


アルフがどう説明したものかと悩んでいると、

代わりにソフィアが口を開く。


「ルチル、魔物がどうやって生まれるかは知ってるかな?」


「えっと・・・確か地脈が関係しているのです。」


「うん、そうだね。

この世界には地脈と呼ばれる血管の様なものが張り巡らされている。

じゃあ地脈が血管ならその中を通る血液は? 」


「はいはーい!」


と、ルチルではなくアリサが元気に手を挙げる。


「いや、学校かよ」


「ソフィアちゃんが女教師・・・アリだな。」


「クロウ、悪いことは言わねぇからこれ以上女性陣の評価落としたくなかったら黙っとけ。」


妄想が捗っている様子のクロウにレオンがツッコむ。


その様子を見て少し笑ってから、ソフィアは手を挙げているアリサを指名する。


「はい、アリサさん。」


「魔力だよね!」


「うん、正解。」


「やったぁ!」


ガッツポーズをするアリサに軽く微笑んでから、

再びルチルに向き直る。


「地脈の中に流れる魔力は地上に漏れだし、漂っている。

そして、その魔力を地上の微生物が取り込むことで魔物が生まれるんだ。

ここまではいいね? 」


「はい!」


ルチルが頷くとソフィアは説明を続ける。


「世界中に張り巡らされ枝分かれした地脈は稀に一点で交わることがある。

地脈が交わると、その場所の魔力量が上昇して通常よりたくさんの魔物が生まれる。

オマケに地脈の影響を多く受けたボスと呼ばれる強い魔物もいたりするんだよ。」


「ボス?」


首を傾げるルチルに、ソフィアは説明を続ける。


「ボスは言わば地脈が魔物の形を成したような存在でね。

下級ならほかの魔物と変わりないけど、強い個体になると存在するだけで他の魔物を強化したり、進化させたりするんだ。

ボスモンスターを倒せば、根源である地脈が休止状態になってダンジョンは数日の間沈静化するんだ。」


「つまり・・・ダンジョン攻略の目的はボスを倒すことなのです?」


「そういうことだね。

ダンジョンの説明はだいたいこんなところだね。

分かったかな?」


「はい!ありがとうございますなのです!」


「で?

そのダンジョンがどうしたってんだ?」


ソフィアが説明を終えると、レオンはアルフに話を促す。


「この町の近くにある山の中腹に、洞窟型のダンジョンがあるんですが。

下級のダンジョンで、出現する魔物もゴブリンくらいなのでギルドの職員達だけで沈静化させてきたんですが・・・この間その職員が怪我をして帰ってきまして・・・。」


「えぇ?」


アルフの言葉に、クロウが驚いて口を出す。


「ギルドの職員なら、最低でもゴールド並みの実力があるはずでしょ?

そんな人達が下級のダンジョンで苦戦するかね。」


「そうなんです、それでこちらも写真機を持たせた斥候をそのダンジョンに向かわせたんですが・・・ご覧下さい。」


アルフはテーブルの上に数枚の白黒写真を置いた。


そこには全身に鎧のような筋肉を持ち、

身長はゆうに2メートルを超え、頭に角の生えた魔物の群れが写っていた。


それを見てまず声を上げたのは、レオンだった。


「おいおい、どういうこった・・・なんで下級ダンジョンにオーガがいやがるんだ?」


「オーガって確か中級の魔物だよね・・・そんなのが下級のダンジョンに出るなんて・・・。」


「多分だけど、一時的に地脈が活性化したんだと思うよ?」


そう答えたのはアリサだった。


「地脈が活性化?」


「たまにあるんだよねぇ、下級ダンジョンの真下を通ってる地脈が急に一時的に活性化して、強いボスモンスターが生まれて、それに影響されて他の雑魚魔物も進化しちゃう事がね。

まぁ、ボス倒しちゃえば沈静化して元の状態に戻るから心配ないよ」


「なんだよ詳しいじゃねぇか、アリサ嬢。

さすが精霊や魔力に精通するハイエルフってところか。」


「あたぼうよー。

伊達に長生きしてないもんねー。」


「なるほど、亀の甲より年のk」


チャキ。


「なんか言った?」


レオンが何か言い終える前に、アリサは彼に向けて一瞬で銃口を向けていた。


「すまん、歳のことは言わねぇから銃下ろしてくれ。」


レオンが冷や汗をかきながら言うと、アリサはふんっと鼻を鳴らして銃をホルスターに収めた。


続いてソフィアがアルフに問いかける。


「オーガを使役するということは、ボスはオーガキングと見て間違いはなさそうですね。」


「ちょい待ち。

オーガナイツってことは無いの?

アイツらもオーガを使役できたよね。」


クロウの言葉に、ソフィアは首を横に振る。


「話を聞く限り、ダンジョンのオーガはゴブリンが進化したものだと思います。

ゴブリンがオーガになるまでには、まずホブゴブリンに進化しなくてはなりません。

ところが、今回はその過程を飛ばして一気にオーガに進化している。

つまり、それだけの力を持ったボスがいるということです。」


「つまりはオーガキングがボスってことか。

・・・やっかいだね。」


全員がどうしたものかと考えていると、

レオンが口を開く。


「ソフィア嬢。」


「ソフィーで結構です。」


「じゃあソフィー嬢、

俺達もタダ働きするつもりは無いが、オーガキングはアンタに任せてもいいか。」


「構いません、お任せ下さい。」


レオンの申し出にソフィアは即答する。


「すまねぇな、こっちもできる限りサポートはするからよ。」


「はい、よろしくお願いします。」


「ちょ・・・ちょっと待ちなよレオンさん!」


と、ここでクロウが身を乗り出して異議を唱える。


「確かにソフィアちゃんはプラチナだよ?

それでも特級の魔物を1人でって言うのは酷じゃない?」


「確かにな、オーガキングは特級の中じゃ弱い部類だがそれでも一般的にはプラチナ2人がかりで相手するもんだ。」


「だったら!」


「まぁ聞け小僧、俺が言ってるのはあくまで一般的(・・・)にはってことだ。

そのプラチナが規格外なら話は別だ。」


「どういうこと? 」


アリサが聞くと、レオンはソフィアの方を見て続ける。


「俺もそれなり経験を積んできたからなぁ。

強ぇ奴は見ればわかる。

アンタ・・・相当の手練だな。

たぶん、ここにいる3人が束になっても勝てねぇほだろうよ。」


「さぁ、どうでしょうね。

ですが、ご期待に添える活躍はさせて頂きますよ。」


「おう、心強いぜ。」


ソフィアは続いてルチルの方を向く。


「ルチル、君は今回援護に徹してほしい。

今回のダンジョンは洞窟だから、あまり高威力の魔法を撃つと崩れるかもしれないからね。」


「は・・・はい!

任せて欲しいのです!」


「おう、その代わりルチル嬢のことはしっかり守ってやるから安心しな。」


そこまで話すと、ソフィアはアルフに言う。


「というわけで、私達は問題ありません。」


「分かりました。

それでは地図をお渡しします。

皆様、どうかご武運を。」


こうしてソフィア達一行は目的のダンジョンに向かった。


#####


「ハイエルフの双子ねぇ・・・。」


「はい・・・。」


ソフィア達5人は目的のダンジョンに向かっていた。


その途中でソフィアは前を歩く3人から少し離れた場所で、アリサに娘たちのことを相談していた。


「で、その子達がどうしたって?」


「あの・・・アリサさんは自分の・・・ハイエルフの寿命のことって何歳の時に教わりました?」


「うーん、あんまり覚えてないなぁ。

今その子たち歳いくつ?」


「12歳です。」


「あぁ、多感な時期だねぇ。

・・・私もそれぐらいの歳に母さんから教わったかなぁ。」


「あの・・・やっぱり早めの方がいいんでしょうか。」


「そうだねぇ、大人になってから教えられるよりいいかもね。」


「そう・・・ですよね。

分かってはいるんですけどその・・・:傷付いてしまわないか心配で。」


「わかる!

私も初めて聞かされた時はショックだったなぁ。

自分はいつか一人ぼっちになるって言われてるみたいでさぁ。」


「やっぱりそうですか・・・。」


「でもさ、例え傷つけることになってもいつかは言わなきゃだよ。

優しいだけが母親じゃないからね?」


「そう・・・ですね。」


「あとは・・・そうだなぁ。

私の場合、人間の友達が死んじゃった時とかは母親がいてくれたから何とかなったかなぁ。

私達にとって、悲しい別れってのは避けられないからね。

だからソフィーちゃんも自分がいなくなったあとのことを考えて、友達にエルフとかいればその人に後見人を任せたりした方がいいと思うよ。。」


「後見人・・・それなら心当たりがあります。」


「そう、それは何より」


アリサは「それにしても」と言って話を続ける。


「ハイエルフの母親代わりなんてねぇ。

まぁ、何があったか詳しくは聞かないけど。

なに?親をなくした子供達に同情しちゃった?」


「・・・確かに最初はそうでした、あのまま施設に預けたらあの二人は別々の里親に引き取られてバラバラになってたかもしれないんです。

両親をなくしたのに、唯一の家族とも引き離されるなんて、とても辛いって思ったから。」


「だからつい、引き取っちゃったと。

お人好しだねぇ。」


「でも・・・。」


ソフィアは少し照れくさそうに微笑みながら語る。


「いつの間にか情が湧いちゃって、2人といる時間が大切になっちゃったんです。

今じゃ私の事を親だって慕ってくれて・・・だから私も2人の気持ちに答えたいって思うんです。

あの子たちの・・・母親として。」


2人のことを思って話しているのか、

愛おしそうに語るソフィアの顔は優しさで充ちていた。


(ふーん、いい顔するじゃん。)


その顔を見ていたアリサの顔にも自然に笑みが浮かぶ。


「でもやっぱり難しいですね。

何とか上手くこなそうとしても、後から『これで良かったのかなぁ』って後悔ばかりしちゃって、

完璧にできた試しがないですよ。」


「ははは、そりゃそうだよ。

完璧な母親なんていやしないもん。」


アリサは楽しそうに笑いながら話す。


「私もこの数千年、何回か結婚して子供も孫も曾孫もそれなりに看取ってきたけどやっぱり後悔ばかりだったもん。」


「数千年・・・ですか。

私なんか遠く及ばないですね。」


「でも私は、精一杯理想の母親になろうって頑張った。

あの子達を看取る時に、幸せだったて言って貰えるような、そんな母親に。」


「理想の母親・・・ですか。」


「ねぇ、ソフィーちゃん。

君はどんな母親になりたい?」


「私は・・・。」


ソフィアは少し考えて答える。


「私も・・・アリサさんと同じです。

私が母親でよかったって、幸せだったって、

そう言って・・・見送ってもらえるような母親になりたいです。」


その答えに、アリサは満足したような笑顔を向ける。


そしてソフィアの頭を優しく撫でる。


「頑張りなよ、お母さん。」


「は・・・はい。」


ソフィアは少し照れながら笑った。


「お二人さん、話は済んだか?

着いたぜ。」


そう言ったレオンの目の前には、大きな洞窟の入口があった。


5人は洞窟の前に集合する。


「スキャン。」


入口の正面で、ルチルが魔法を発動する。


ルチルの足元に魔法陣が展開されしばらくすると消えた。


「どう、ルチル。」


「入ってすぐの坂を下った先に大きな空洞があるのです。

そこにオーガの群れが待機してるのです。

想定、50体」


「おうおう、随分なお出迎えだな。」


「俺らが来るのはお見通しってか。」


クロウの言葉に、ソフィアが口を開く。


「オーガは耳がいいからこちらが近づけばすぐにわかるんです。

それ故に、群れを成している時は奇襲し辛い敵なんですよ。」


「つまり、正面突破しかねぇってことか・・・はっ!上等じゃねぇか。」


レオンは闘志を漲らせる。


「張り切るのはいいけどあっさり死んじゃわないでよ。」


「キツいっすねぇアリサさん。」


アリサの言葉にクロウは苦笑いをうかべる。


「私はルチルを傍で守ります。

前線はお任せしますね。」


ソフィアがそう言うと、今度はルチルが前に出る。


「じゃあルチルは皆さんに暗視の魔法をかけるのです。」


そう言ってルチルが杖を構えると、

再び彼女の足元に魔法陣が展開される。。


しばらくすると、頭上から光のカーテンが降り注ぎ、5人の体をおおった。


「これで準備完了なのです。」


「ありがとよ。

ルチル嬢はソフィー嬢の傍から離れねぇようにな。」


「了解なのです!」


レオンは今一度全員を見渡す。


「よし、行くぞ。」


一同はレオンを戦闘にダンジョンの内部へと進んで行った。


#####


ダンジョンは入口から緩い下り坂のようになっており、ソフィア達はあまり物音を立てないように進んでいく。


しばらく進むと大きく開けた場所が見え、

ソフィア達は物陰に隠れて様子を伺う。


そこにはオーガたちが群れを生しており、

そのうちの一部の個体は剣や槍などの武器を持っていた。


レオンは背中の大剣の柄を握り、アリサは腰のホルスターから銃を取り出した。


「クロウ、一番槍はお前に任せる。

突っ込んで派手に暴れろ。」


「そう来なくっちゃ。」


「お嬢さん方も準備はいいな。」


「もちろん、いつでもOKだよ。」


「問題ありません。」


「る・・・ルチルも大丈夫なのです!」


「よし・・・いくぞ!」


レオンの言葉と共にクロウが先陣を切ってオーガの群れに突撃する。


オーガ達は攻撃態勢を摂るが、クロウは巧みな槍裁きで次から次へと倒していく。


「オラオラどうしたー!

その筋肉は飾りかぁ!?」


そう叫んだクロウの背後から襲いかかろうとしたオーガの胴体がレオンの大剣によって両断される。


「あんまはしゃぎすぎんなよ、クロウ。」


「分かってるって!レオンの旦那!」


一方アリサは軽やかな動きで敵を翻弄しながら攻撃していく。


「よっ。」


バンッ!


「ほっ!」


バンッ!


「あらよっと。」


アリサは2つの銃を合体させ、ライフルの形にすると正面の横一列に並んでいる敵群に乱射して蹴散らす。


「ふーっ、気持ちぃー!」


「グアーっ!」


その背後からオーガが襲いかかる。


「げっ!ヤバっ!」


しかしアリサの前に障壁が現れ、オーガの攻撃を防ぐ。


「助かったー・・・ありがとうルチルちゃん!」


「アリサさん!油断は大敵なのです!」


「りょうかーい!」


その様子を、ソフィアはルチルの傍で眺めていた。


(うん、やっぱりいいチームだ。

流石にゴールド急なだけあるな。

それに、ルチルもシルバーとは思えないほどサポートが上手い。

サポートでこれなら普段の戦闘はさらに期待できそうだね。

これなら、そう遠くないうちにゴールドに昇格できるだろう。)


ソフィアは再び視線を戦っている3人に向ける。


「ええい!しゃらくせぇ!」


レオンが構えると、剣がの周りを赤く光る煙のようなものが包む。


「おらおらおらあああああ!!」


そうして振るった大剣はオーガ達の鎧のような筋肉を容易く切り裂いていく。


「おぉ・・・!」


その様子を、ルチルは目を見開いて驚きながらみていた。


「ルチル、間近で気を使った戦い方を見るのは初めてかな?」


「は・・・はい!」


「ならよく見ておくといい、これからの冒険でサポートをするなら色々な戦い方を見た方がいい。」


そう言ってソフィアはレオンを指さす。


「魔力はエルフや魔族は必ず宿して産まれてくるけど、人間はそうじゃない。

魔力を持たない人間が鍛錬で身につけ、魔力の代わりに使う力、それが気だ。

気は体内で練れば身体能力をあげることができるけど、レオンさんのように武器に纏わせることで武器の強度や攻撃力を上げることとも出来る

それともうひとつ、あれを見てごらん。」


ソフィアが指を指した方向ではレオンが高く飛び上がり、地面に使って剣を振りかぶっていた。


「オラァ!」


剣が叩きつけられ地面が大きくひびわれると共に、前方に巨大な斬撃が衝撃波となって地面を抉りながら進んでいき、敵を斬り裂き、吹き飛ばす。


「鍛錬次第ではああやって遠距離攻撃もすることが出来るんだ。」


「なるほど・・・遠近両方に対応を可能ということですか。」


「そのとうり、でも気をつけないと。」


レオンの放った斬撃は地面から壁へ向かい、

壁を下から縦に割るように走っていき、


「あ!まずい!」


天井に直撃し、その衝撃で天井の一部が崩れ巨大な岩がアリサの頭上に落ちてきた。


「アリサさん!」


「危ない!」


クロウとルチルが声をあげるより早く、

アリサは銃口を頭上の岩に向けるが、


スパァン!


彼女が銃口を引くより前に、岩が真っ二つに割れてアリサの両側に轟音を立てて落ち、そこにいたオーガたちを押しつぶす。


「・・・え?」


「あんな風に事故が起きる時もある。」


ルチルが唖然としている自分の横で話し続けるソフィーに目をやると、腰の鞘に刀を納める瞬間だった。


カチンと刀が小気味よい音を立てて鞘に納まると、

ソフィアはルチルに向かって優しく微笑む。


「魔法と同じように、気をつけて使わないとね。」


「そ・・・そうですね。

(すぐ横に居たのに気づかなかった。

・・・抜いてから納めるまでをあの一瞬で?)」


「ソフィーちゃんナイスー!

助かったよー!」


ぴょんぴょんと跳ねながら手を振るアリサに笑顔で手を振り返すソフィアを見て、ルチルは静かに驚愕していた。


#####


最後の一体の亡骸が黒い塵になって消えていくのを確認し、レオンは大剣を背中に背負った。


「やっと片付いたか。」


「数は多かったけど大したことなくてよかったよ。」


「だね。」


そう話す3人の傍にルチルを連れてソフィアが近づく。


「お疲れ様です皆さん。

お見事でした。」


「皆さん凄かったのです!」


「ルチルちゃんも支援ありがとね。

助かったよ!」


ルチルはアリサに頭を撫でられて照れくさそうに笑った。


「あー・・・ソフィー嬢。

さっき面倒かけてすまなかったな。」


「いいえ、お気になさらないでください。

でも気をつけてくださいね。

運良く(・・・)あの程度で済みましたが、最悪全員生き埋めということを有り得ますから。」


「あぁ・・・肝に銘じておく。」


優しく微笑みながらも注意するソフィアに、レオンは申し訳なさそうに頭を下げる。


「さてルチル、索敵をお願いしてもいいかな。」


「はい!」


ルチルは先に続く通路の先にスキャンをかける。


「先程よりは少ないですが、オーガと思われる反応が多数・・・それと中央に大きな魔力の反応があるのです。」


「それが多分オーガキングだろうね。」


「よしソフィー嬢、周りの雑魚は俺達に任せてアンタはオーガキングを頼む。」


「了解しました。」


「ならルチルちゃんは私が守るよ。」


「は・・・はい!おねがいします!アリサさん!」


「そんじゃあ俺もレオンの旦那に負けないように女性陣にかっこいいとこ見せないとね。」


「もう手遅れだと思うよ。」


「そりゃないっすよー、アリサさん!」


辛辣なアリサの言葉に項垂れるクロウにソフィー声をかける。


「いえいえ、先程も充分かっこよかったですよ。

次も期待してますね、クロウさん。」


「よっしゃああああああ!やってやらあああああ!」


「ほんとわかりやすいなお前。」


レオンに呆れられながらも先頭を歩くクロウに続いて、一行は進んで行った。


通路を進んでいくと大きく開けた場所に出た。


そこには多数のオーガたちがおりその群れをぬけた中央にはほかのオーガとは比べ物にならない大きさで両手に巨大な剣を両手に携えたオーガの王、オーガキングが仁王立ちしていた。


「さあ総仕上げだ!

行くぞみんな!」


レオンの言葉と共に全員が臨戦態勢をとる。


ソフィーも腰から刀を鞘ごと抜いて眼の前の群れを睨む。


「ウガアアアアアアアアアアアアアア!」


オーガキングの地鳴りの様な咆哮が響き渡ると共にオーガ達が一斉にソフィア達に襲いかかる。


それに対抗するようにレオンとクロウも敵に切り掛る。


アリサは守るようにルチルの前に立つ。


「ソフィーさん!後は頼みます!」


「デカブツは頼んだぜ!ソフィー嬢!」


その言葉に答えるように、ソフィアはオーガキングに向かっていく、しかし。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


オーガキングが咆哮をあげると、ソフィアの周囲に複数の魔法陣が現れそこから合わせて30体ほどのオーガが出現した。


「召喚魔法!?」


「ソフィーちゃん!」


突然の事にレオンとアリサが声を上げるが、

ソフィーは静かに刀の鯉口を切る。


その瞬間、一斉に敵がソフィーに襲いかかる。


しかし、その攻撃はソフィアに届くことは無かった。


風を切るような音が幾度が聞こえたかと思えば、

敵の群れは血を吹き出してその場に崩れた。


その血溜まりの中心に、ソフィアは血の滴った刀を片手に顔に少しばかり返り血を浴びながら静かに佇んでいた。


「・・・は?」


その光景にクロウは唖然としながらも声を上げた。


一瞬の出来事、しかし目の前で起きた現実に味方はもちろん知能の低いオーガ達でさえ固まっていた。


それはオーガキングも例外ではない。


「ウガアアアアアアアアアアアア!」


オーガキングは恐怖からか数歩後退りすると、咆哮をあげる。


それを合図にレオン達と戦っていたオーガ達がソフィアに向かっていく。


しかし、待っていたのは殺戮だった。


ソフィアの間合いに入った瞬間、敵はすべからく斬り伏せられる。


オーガ達はソフィアに一撃も当てることは叶わず一瞬で次々に肉片と化して行く。


「ソフィア・・・まさか・・・ソフィア・ナイトレイか。」


レオンか不意に声を漏らす。


その言葉に、クロウは驚いて声を出す。


「ソフィア・ナイトレイって・・・勇者パーティーの!?」


「記者の前に出る時はいつも仮面をつけてるから写真でも素顔は見たことねぇが・・・あの強さ・・・間違いねぇ。」


気がつけば沢山いた敵はすべてソフィアの手で倒され、その頃には彼女の服と顔には返り血が飛び散り、

美しい白い髪もところどころ赤く染っていた。


ソフィアは宝石のような赤と青の瞳でオーガキングを見据える。


「グルルルルッ!」


オーガキングは唸りながら後ろに下がっている。


「・・・逃げるのか。」


ソフィアの声には、微かに怒りが混じっていた。


「王の名を冠しておきながら・・・配下を盾にしておきながら・・・お前は1人逃げるのか。」


ソフィアは目の前の敵を睨む。


「恥を知れ。」


「ウガアアアアアアアアアアアア!!」


咆哮を上げてオーガキングはソフィアに斬り掛かる。


巨大なふたつの剣を目の前の小さな影に振り下ろした・・・はずだった。


しかし、ソフィアは何事も無かったかのようにその場に直立していた。


代わりに、オーガキングの剣は2つとも剣先が斬り飛ばされていた。


「ウガ?」


オーガキングがわけもわからず声をあげると、次の瞬間体が切り刻まれ倒れ、しばらく経つとその体も黒い塵になって消えていった。


「あれが・・・白麗の剣聖。」


そう呟いたレオン達の方をソフィアは振りかえり、

先程敵に向けていたものとは違う優しい笑顔で言う。


「さて、帰りましょうか。」


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