1-6 ルーチェちゃん@やることあって嬉しい
何度目かの敵襲。何度目かの撃退。突っ込んでくる敵を私の風魔法で絡め取り、突っ込んだアルタが曲芸めいた剣捌きで切り伏せる。
数回の戦闘で互いの呼吸を掴んだ私たちは、恐ろしいほど順調に探索と討伐を進めていた。
……進めていたのだけれども。
「ねえアルタ……。これさ、僕のサポート必要なくない……?」
「んなことないぞ。おかげで楽させてもらってる」
そうは言われても、やっぱり気にしてしまうのだ。
オブラートを剥がして現実に向き合うと、私は役に立たないから前のパーティを追放されたのだ。
今回のパーティは望んで組んだわけではないと言え、アルタからも役立たずの烙印を押されてしまうと、さすがにちょっと凹むものがある。泣いてしまうかもしれない。
「でも、アルタ強いじゃん。これくらい一人でも倒せるでしょ」
「そりゃまあ倒せるが、さすがに単独だともっと苦戦はする。そもそも敵が近づいてきたとか俺にはわからんからな」
そうかな……。そうなのだろうか。私は、誰かにとって必要な存在でいられるのだろうか。
「やっぱりパーティは楽でいいな。敵の接近にも気づけるし、先手も取れる。隙も突きやすいし背中の心配もしなくていい。こんなに楽な迷宮探索ははじめてかもしれない。お前のおかげだ。ありがとな、ルーク」
「ねえアルタ、それ。そういうの。もっと言って。そういう言葉がもっとほしい」
「あ? 急にどうした?」
「へ? ……あ、やっべ。ちょっと待って。今のなし。なんでもない」
「?」
おい待て、落ち着けルーチェ・マロウズ。いくらなんでも気を抜きすぎだ。久々に誰かの役に立てたからって浮かれるんじゃない。いやでも嬉しいけど。正直めっちゃくちゃ嬉しいけど……!
おそらく今、私は人様に見せられる顔をしていない。アルタが前を歩いてくれて助かった。深呼吸を何度か繰り返して、緩みきった顔をなんとか律することに成功した。
「じゃ、じゃあさ。逆に聞くけど普段はどうやって探索してるの? 索敵のない迷宮探索なんて、ちょっと想像つかないんだけど」
話題を変える。少しだけ声が弾んでしまっていたかもしれないが、アルタには気づく素振りはなかった。
「まず敵が突然ぶん殴ってくるだろ。そしたら殴り返す。それで大体なんとかなる」
「奇襲受けてから反撃してるの!? 毎回!?」
「そんな感じ。運が良ければ前から襲ってくるから、そん時は先にぶった斬る」
うっわあ……。ワイルド極まってんなぁこいつ……。
アルタがまったく索敵ができないというのもあるだろうけれど、それだけではないように思えた。こいつと一緒に迷宮を歩いているとよくわかる。現れる敵が、毎度絶妙に対処しづらい方向から来るのだ。
ただの偶然だと言えば、それまでなのかもしれないけれど。
アルタが言っていた凶運と言う言葉が、妙に気になっていた。
「毎回奇襲受けておいて、今までよく死ななかったね」
「あー。まあ、ちょっとな」
「探索ができないのなら、罠とかはどうしてたの?」
「ああ、そっちは簡単だ」
先を歩くアルタの足が一瞬沈み込む。何らかの罠を踏み抜いたようだ。
重量がかかることで発生する感圧式トラップ。ここからは見えにくい場所に仕掛けられていた装置から、アルタめがけて矢が射出される。
アルタはそれを、素手で掴み取った。
「こうしてる」
「……さいですか」
迷宮探索をする上でどうしても気を使わなければならない厄介な罠を、こいつは身体能力のゴリ押しであしらってみせた。
それができたら斥候職なんて必要ないんだけどなぁ……。一応私、斥候のマネごともできるんだけど、この男にそういうのは必要なさそうだ。反射神経だけで罠の対処ができるなら、むしろ気を張らずに探索した方が体力を消費しなくて済むだろう。
「ふーん……。そうなんだ。そうなんだー。すごいねー……」
なんだかんだと言いつつも、やはりアルタは本当に私のことを必要としているわけではないのかもしれない。索敵だって、やり方さえ学べば誰だってそれなりにできるようになる。そうなれば彼が私とパーティを組みたがることもなくなるだろう。
それは私の本望だったはずなのだけれども。それだけでは割り切れない悲喜こもごもの感情があった。
「つっても、これができるのは対処できる罠だけだ。毒ガスとかは普通に厄介だぞ。それでひどい目に遭ったことなんて何度でもある」
「あっ、じゃあ! じゃあ僕が罠の探知もやるよ! 斥候の役目もちょっとはできるんだよね!」
「お、おう……。あんまり無理するなよ」
アルタに代わって前に出る。パーティを先導し、罠の回避や敵を発見するのは斥候職の大切な仕事だ。その任、私が請け負おうではないか。
……やる気が空回りしているのは自覚している。いいじゃないか。久々にパーティ内に仕事があって嬉しいんだよ私は。もう少しだけ、誰かに必要とされている感覚に浸らせてほしい。ルーチェ・マロウズは他者からの承認に飢えているのだ。