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追放された村娘に《魔神の瞳》は荷が重い  作者: 佐藤悪糖
1章 才能がなければ運もないけど、何かの間違いで生きている
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1-5 ようこそ迷宮へ。大丈夫、ここは安全な階だから!

 アルザテラ大陸の地底に広がる大迷宮には、いくつかの入り口がある。

 地表にぽっかりと空いた直径十数メートルの大穴がそれだ。聞いた話では大陸中に同じようなものがいくつかあるらしい。

 そんな大穴を中心に仮設された探索拠点が、いつしか都市に発展するというのもよくある話である。ここ、迷宮都市ガレナリアもそういって生まれた街の一つだった。


 迷宮の入り口は大陸中にいくつもあるわけだが、どこから入ったとしても待ち受けているものは同一だ。第一迷宮・洞窟のクレイドル。地底に広がる広大な洞窟が、我々探索者の仕事場である。


「にしても不思議だよな。地下にこんなにでっけー穴が開いてるのに、地上の建物とかって大丈夫なのか? 突然迷宮の天井が抜けたらどうすんだ?」


 カンテラの明かりを手に洞窟を歩きながら、アルタはそんな気楽なことを言う。私は彼の後ろをついて歩いていた。


「迷宮の壁や床や天井には、堅固な保護? みたいなやつがあって、絶対に崩れないんだって。異界の魔法による強力な加護だとか、迷宮自体が一つの迷宮の遺宝(アンノウン)だとか噂されてるけど、詳しいことは誰も知らない」


 迷宮内部というのは往々にして常識の通用しない空間だ。地上の何倍も濃い魔力に満ち、濃厚な魔力に晒されて変質した生態系が築かれている。それどころか、遺物(ロスト)や迷宮の遺宝なんていう異界産と思わしき人工物まで見つかるのだ。不思議に満ちたこの場所では、むしろわかっていることの方が少ない。


「ふーん。物知りなんだな」

「そっちは六年も探索者やっといて、こんなことも知らないのか」

「ああ。これまで聞ける相手なんて誰もいなかったから」


 お、おう……。そんなこと言うなよ。私が悪いこと言ったみたいじゃないか。

 なんとも言えない気持ちになって、私は話題を変えることにした。


「ところでさ、アルタってどこまで潜ったことがあるの?」

「どこまでって、何がだ」

「階層のこと。僕はパーティでなら深層まで潜った。一人だと中層でもちょっと厳しいかも。アルタは?」

「あー……。中層とか深層とかって、何で見分けるんだ?」

「そっからか」


 迷宮は大きく浅層と中層と深層の三つに分けられる。層の境目は一目では見分けづらいが、慣れてくれば結構わかりやすい。


 今私たちがいるのが第一迷宮・洞窟のクレイドルが浅層、黒鉄の洞穴だ。見通しが悪い真っ暗な洞窟で、いくつも枝分かれした横穴からは、時折何らかの生き物の息遣いが感じられる。

 黒鉄の洞穴にはゴロゴロと岩が転がっていて、歩くなら足元に気をつけなければならない。この岩からは魔力を含んだ魔鉄鉱がよく採れて、これがまたよく売れるのだ。


「迷宮の中で湖は見たことある? もしくは、水晶が転がっていたのを見ただとか」

「どっちも見たぞ。水晶の方は転がっていたなんてもんじゃない、一面水晶まみれだった」

「一人でそこまで行ったの?」

「そりゃそうだが」


 湖があるのは中層、水晶が転がっているのは深層だ。一面水晶まみれとなると、深層のかなり奥まで行ったのだろう。しかも、一人で。もし本当なら大した実力者だ。

 この男、これで中々強いのかもしれない。その実力のほどはすぐに証明してもらえそうだった。


「アルタ、左後方に四体いる。気配の割に羽音が小さいから多分暗闇コウモリ」

「気づかれてるか?」

「うん。まっすぐこっちに近づいてきてる」


 陣形を入れ替える。アルタを前に置いて、一歩下がった邪魔にならない位置に私が立った。


 アルタの武器である、身の丈ほどもある両手剣を考慮した布陣だ。こいつの持っている無駄にかっこいい剣、これで迷宮探索の上では中々面倒な代物なのだ。

 両手武器は確かに高い攻撃力を誇るが、その長いリーチゆえに手狭な迷宮内では扱いが難しい。一人なら気兼ねなく振り回してもらって構わないのだが、パーティを組む以上、私を巻き込まないように注意してもらう必要があった。


 アルタには前衛に立って自慢の剣で暴れてもらうとして、私は一歩引いた位置から魔法で援護するのが仕事になる。本職の魔術師ほど強力な魔法は使えないけれど、小技なら色々と使えるのだ。


「突っ込んでいいか?」

「ううん、先手は僕がやる。合わせて」

「了解」


 暗闇の中、アルタは邪魔にならない位置にカンテラを置く。真っ暗な洞穴において明かりは生命線だ。戦闘中と言えど絶やすわけにはいかない。

 気配、羽音、風の流れ、ちょっとした振動や反響音。そういったものに意識を傾けて敵の位置を割り出す。真っ直ぐにこちらに向かってくるそれらは、明かりが届かなくともよく見えた。


風魔法(エオーラ)


 指先から魔力を薄く広げ、空気を掴む。魔力で作った大きな『手』で風を掴むようなイメージ。十分量の風を掴み取れば詠唱は完了だ。

 敵影が近づいてくるタイミングを見計らい、飛んでくるボールをはたき落とすように、掴みとった風ごと『手』を振り下ろした。


槌風(ハンマー)ッ!」


 吹き荒れる下降気流(ダウンバースト)は、四体の暗闇コウモリを巻き込んだ。

 一体は直撃を受けて床に叩きつけられ、二体は体勢を大きく崩す。最後の一体はすぐさま体勢を立て直し、勢いを殺すことなくこちらに飛んできた。


「アルタっ!」

「ほいよ」


 アルタは右手一本で両手剣を逆手に持ち、左足で強く地を蹴った。

 ズン、と鈍い振動。それがアルタの蹴り足によるものだと理解した時には、既にアルタの姿は消えていた。


 右足で敵陣のど真ん中に着地したアルタは、半月を描くように剣で一閃。その一振りで、床に叩きつけられていた一体と体勢を崩していた二体の暗闇コウモリは、ざっぱりと二つに切り分けられた。


「……は?」


 飛び込んで、一閃。ただそれだけで三体の暗闇コウモリが消し飛んだ。

 最後の一体はと言えば、アルタの左手で鷲掴みにされている。飛び込みの途中で捕まえたのだろう。

 実質、アルタはこれだけの動きで四体の敵を無力化していた。


「あいつ……めっちゃくちゃ強いな……」


 追撃のために用意していた魔法を消す。初動で一体倒せれば上出来くらいのつもりだったが、戦闘はあっさりと終わってしまった。

 腕に覚えがあるだろうとは思っていたが、これほどの実力は想定以上だ。一人で深層まで潜れるというのは、決して伊達ではないのだろう。


「ルーク」


 アルタは左手で掴んでいた暗闇コウモリをこちらに投げよこす。露骨にわかりやすい軌道で飛んできたそれを、私は半ば呆れながらショートソードで切り捨てた。


「いえーい。ナイスコンビネーション」


 アルタは無邪気に親指を立てるが、コンビネーションだとかそんな程度の話ではない。

 浅層の依頼が退屈だと言うアルタの気持ちも、わかるような気がした。

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