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追放された村娘に《魔神の瞳》は荷が重い  作者: 佐藤悪糖
1章 才能がなければ運もないけど、何かの間違いで生きている
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1-3 そうだよチョロいよ、悪いかよ(わるい)

 で、結局。


「負けてしまった……」


 押し切られる形で、私はアルタと迷宮探索をすることになってしまった。

 散々に頼まれて、夢を語られて、「頼れる相手はお前しかいないんだ」とまで懇願されてしまって、断りきれるほど私は鬼になれなかった。


 昔から私は押しに弱い。頼み事や泣き落しなんかにはめっぽう弱い。自分でも自覚していることだし、人からは「お前はいつかそれで身を滅ぼす」とまで言われてしまっていた。

 ひょっとすると、そのいつか(・・・)は今日かもしれない。なんとも恐ろしい未来予想に、身を震わせるばかりである。


「でも、一回だけ。一回だけだから……」


 なんとか取り付けたのが一度限りという約束だ。もう次からは付き合わない。今日の探索が終わったら、今度こそ私は自由気ままな単独(ソロ)生活を始めるのだと胸に誓っていた。


 宿屋の自室で探索用の装備を確認する。軽量な鹿革のフード付きコート。厚めのロングブーツに、滑り止めのついた革のグローブ。インナーは動きやすいシャツとショートパンツだ。


 私は器用貧乏なので、剣も魔法も使うし斥候もする。近接戦闘用の防御力と斥候用の隠密力を確保しつつ、呪文の詠唱を阻害しない軽さを求めた結果、こういった形に落ち着いた。

 せめてコートではなく革鎧にしておけばもう少し防御力を高く持てるのだけど、重さで気が散ると呪文詠唱が難しくなる。より軽量なローブにすれば、防御力不足で近接戦闘ができなくなってしまう。あちらを立てればこちらが立たず。うまいこと間を取ったのが今の装備である。


 得物は鉄製のショートソードと、副武装の短剣が一本。後は体力や魔力を回復できるポーションに、保存食と水筒、迷宮内で使える各種小道具なんかをバックパックに詰め込めば準備は完了だ。


「髪、やっぱ染めた方がいいかな……」


 姿見で装備を確かめながら、なんとなく気になった髪をいじる。どう見ても自称十八歳の男には見えない(どころか、誠に遺憾ながら十六歳の女としても童顔気味の)顔の上には、赤っぽいショートヘアがあった。


 髪の色は保有している魔力の質や量に応じて変化することがある。どういった色に変化するかは個人差があるが、私の場合は生来生まれ持った茶髪が段々と赤っぽくなってきていた。

 隠密行動もする私としてはあまり目立つ色は嬉しくないのだけど、染めるのがついつい手間で放ったらかしにしてしまっていた。これはこれで綺麗なので、このままでいいかなとも考えている。


 なお、瞳の色も同じく魔力の影響を受けるらしいのだが、私の場合は以前と変わらぬ焦げ茶色のままだ。魔力量が増えるにつれて少しだけ鮮やかな色になった気もするが、正直誤差である。まったく変わらない人もいるので、こればっかりは体質の問題だ。


 装備も整ったところで、待ち合わせ場所の探索者ギルド内酒場へ向かう。アルタは既にそこで待っていた。


「おう。やっと来たか」

「あれ、待たせちゃった? 待ち合わせ、三十分後だよね?」

「待ちきれなかったから先に来た」


 子どもかお前は。


 限りなく軽装である私に反して、アルタの装備はいかにも前衛然とした重装であだった。迷宮探索に耐えうる最低限の機動力を確保しつつ、要所要所に金属製の装甲を備えたアーマー。がっしりとしたガントレットにグリーヴ。インナーもしっかりとした生地のものだ。

 傍らに立てかけてあるのは鋼鉄の両手剣(トゥーハンドソード)。私の背よりも高い、ほとんど大剣と言っていい代物。なんとも攻撃的な主武装だ。


 私に言わせてしまえば、総じてお金のかかる装備だ。しっかりした作りもさることながら、使い込んだ上でしっかりと手入れされた跡がある。アルタにはこれだけの装備を購入し、運用し、維持できるだけの実力があるのだろう。単独で数年迷宮に潜っていたというのは伊達でないらしい。


 私はアルタの装備を上から下まで見る。そして彼もまた、私の装備を上から下まで見ていた。


「お前、その服寒くないか?」「ねえアルタ、その装備暑くない?」


 質問は交差する。そしてまた、答えも交差した。


「寒いけど」「暑いな」


 今の季節は冬と春の境目。厚着をするにはもう暑く、薄着をするにはまだ寒い。よりにもよってこの呪われしロマン男と考えることが被ってしまい、私はなんとも言えない気持ちになった。

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