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3話 「呪魔憑依」



 『禁術』

 あまりの危険性から、使うことを禁じられた魔法。

 その一つである、『呪魔憑依』


 術者の肉体を呪魔に捧げ、肉体の成長を止め、更には能力の習得スピードを数百倍にするという付与魔法。

 上級魔法として使用されている精霊に捧げる『精霊憑依』の呪魔版だ。


 村長の書斎に忍びこんだ時一瞬見ただけで、呪魔が魔物とどう違うのかどうとか、詳しい所ははよく分からないが……


 やり方がとても簡単。『詠唱』をすれば良いだけ。『精霊憑依』と同じく、呪魔の魔力を使うため魔力消費も無い。

 それだけは覚えている。


 だが、この禁術を使うということはつまり人間であることを捨てるということ。

 『精霊憑依』を使った人達の中には、精神を精霊に乗っとられ自我を失い、森に返されてしまった人もいた。


 「けど」


 俺は周りを見渡す。


 俺が今いる場所はあまりの僻地だからなのか、人どころか魔物すらいない。


 乗っとられたとしても、被害は少なく済むだろう。例え倒す人がいなくても、いつかは死ぬ筈だ。


 「……やってみるか」


 禁術成功者。

 良い肩書きだ。




 「ふぅ……」


 俺は一つ息を吐き、目を閉じる。


 「今度こそ、本当に死ぬのかもしれないな」


 なんせ禁術はよく分からないヤバイ魔法ばかり。

 呪魔に捧げた瞬間お陀仏だなんてこともあり得る話だ。

 失敗は死。

 それしか無い。


 額から大粒の雫が落ちる。


 「全く……まだ、俺は死ぬ事に迷ってるのか? まだ生きたいという考えが心の奥底にあるのか?」


 あの村に帰った所で、待っているのは地獄。

 こんな辺境に来たのだし、どうせ死を待つだけの余生……いっそのこと派手に死ぬのも手じゃないか?


 俺はそんな思いを巡らせながら、目を開けた。


 「……よし」


 俺は生きる意味を失ってしまった。

 もうこの世に未練は無い。


 俺は、手を固く握りしめながら、口をゆっくりと開いた。



 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」



 ……ん?


 俺、今、何て言った?


 「……っあれ」


 何故か『詠唱』が思い出せない。

 だが、俺達が話す言語でないことは確かだ。

 そんな物、どうやって覚えて、どうやって発音……


 「いや、そ、そんなことより呪魔は……どうなったんだ」


 自身の体を見下ろす。


 川の水に濡れ、泥だらけの薄汚い布服。

 その下から覗くいつも通り肌色の皮膚。


 俺は、口を押し開き、言った。


 「何も、変わってない……?」





 「はぁ……はぁ……」


 俺は腹に手を当てながら歩き続ける。


 「腹が……減った……」


 植物すら生えていないこの地。

 食べ物などある筈がない。

 恐らくこの先にも……


 俺は果てなく続く地平線を見つめる。


 「クソォ……!!」


 俺はカラカラのひび割れた地面に膝をついた。


 「…………」


 ……実は『呪魔憑依』が成功してる、だなんてこと無いよな?


 ……いや、無いだろう。

 『精霊憑依』の使い手は見た目も変化していた。同じ系統であるこの禁術が例外だということはあり得ない筈だ。


 「……っ」


 『私、弱い人嫌いなの』


 ……一度、試してみる価値はあるか。



 俺は手の平を上にして、力を込める。

 使うのは火属性最下級魔法、『火球』。


 体中のエネルギーが右手に集まっていくような感覚。

 赤い炎がゆらゆらと浮かび上がっていく。


 だが、これで安心してはいけない。


 集中しなければならないのだ。

 ただ単に魔力が多ければ良いという訳ではなく、生成した魔術に魔力を更に送り続ける微細なコントロール力が必要になってくる。


 「すぅ…………」


 集中。

 エネルギーを手のひらに集めていく。ゆっくり、ゆっくり。焦らずに。


 足の先、頭の先、指の先から。

 炎の玉を打ち出すイメージで。

 炎の玉……炎の玉……

 もう少し……もう少し大きく……


 「おっ」


 何だか頭の中で炎の玉のイメージがし易くなっている。

 禁術の影響なのだろうか。


 いける。

 どんどん火の玉が大きくなっていく。

 どんどん、更に大きく。


 「おおっ?」


 自分の頭ぐらいにはなった。

 こんなに大きいのは初めてだ。

 後は……タイミングよく、放つだけ。

 魔力の波と波の間。一番安定している場所……


 「……ここだッ!!」


 「『ボゥッ』」


 その手からは見た目に反した地味な炎の玉が打ち出された。


 「……」


 実はこの作業をみんな無意識のうちにやっている。

 本来、2歳ほどで使うことのできるこの魔法だが、俺はこの魔法すら形が安定していない。


 この感覚……どれだけ成長できるか分からないが、何回かやってみる価値はあるだろう。


 「『ボゥッ』『ボゥッ』『ボシュッ……』」


 「あっ」


 魔力切れだ。

 今日の記録は4回。

 普段ならこんなに集中できる環境は無いし、もっと少なくもっと弱い。


 だが、逆に4回も撃てたのだ。禁術の影響だと言っても差し支えは無いだろう。


 信じて……みるか。




 何日経っただろうか。

 お腹が減りすぎて逆に何も感じない。

 眠たすぎて逆に眠くない。


 頭がボーッとしている。

 何も考えることができない。


 「あぁ、会いたい……ドロ……うっ!!」


 何だ?

 今一瞬魔導師らしき女性の姿が目の前に見えたような。

 幻覚だろうか。


 「……」


 空を見上げる。

 果てなく続く曇り空。


 ん?


 ……女性?

 何だそれは。

 俺は……男だ。

 女って……何だっけ?


 余計な事を考えるな。


 「『ボゥッ』」


 「1」


 「『ボゥッ』」


 「2」


 俺は最下級魔法を使い続ける。





 「『バゴォォォォン!!』」


 「……62568」


 「『バゴォォォォン!!」


 「……62569」


 「『バゴォォォォン!!』


 「……」


 俺は異変に気付いた。


 妙に音が大きい。

 一日で撃てる火球の量も増えている。

 考えるのをほぼ辞めていた為気付くのに遅れてしまった。


 周りを見渡す。


 それに、この威力。

 地面が吹き飛び抉れている。


 「……」


 度重なる魔法の使用により、魔力が上昇しているからだろう。

 そう言えば、お腹も減りも眠気も感じない。

 どういう原理かは分からないが、禁術の影響で既に体が必要としなくなったようだ。


 「強く……なってる……」


 俺はその喜びを噛みしめた。


 また、長い年月が流れる。



―――――



 ある所に、緑で覆われた大地があった。

 その大陸は3000年前、草木一本生えていない不毛の大地であった。


 なぜ不毛の大地が緑に覆われているのか?


 種が飛んできたのか。

 雨が降り注いだのか。

 はたまた、人知を超える力によって無から現れたのか。


 ――否。


 一人の『元』人間の生命力である。


 それは、人の領域を外れていた。


 「よし、そろそろ……行くか」


 それは立ち上がった。


 ついに男は人間界に歩み始める。

 世界が滅びかけていることも露知らず。


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