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7.塔の噂と女

今日もウィルはいつものようにレオンを補佐とし、自身の領地経営に関する資料や貴族たちの領地政策とその実施状況に関する報告書に目を通していた。ジョンは騎士団の仕事に行っているため、今ウィルの執務室にはレオンとウィルと、ウィルの幼い頃からの執事であるギールだけである。


「レオン、以前話したマイヤー伯爵の密輸入港先などについては分かったか。」

「それが...すみませんウィル。あの日からマイヤー伯爵はこちらの動きに勘付いたのか、なかなか巧妙に隠され掴みきれないらしいのです。」

「いや、いい、どうせもうすぐ分かることだ。しかしゆっくりしてもいられない、領民が苦しんでいることを考えると早く終わらせたい案件だ。引き続き調査をしてくれ。」

「はい、そのように伝えておきます。」


ウィルは部下が失敗をしても決して理不尽に怒ったりはしない。部下が国のために毎日懸命に仕事をこなしてくれていることを理解しているからだ。そうしたウィルの寛容さや聡明さを、王宮に仕える使用人たちは知っているため、ウィルを認め大切に思い見守っているのだ。



「それと、この間ジョンが言っていたフィル・フォン・マイヤーを呼んでくれ。」

「ウィル、以前も申しましたが、あれは罠ではないかと思いますよ。それにマイヤー伯爵の子息です。何を考えているか分かりません。関わらないのが良いと考えます。」

「あぁ、しかしもし本当であれば大きな手がかりが掴めるかもしれない」

「それはそうですが・・・」

「まあ、聞いてからでも遅くはないだろう、レオン。多くの情報を得ておくに越したことはないからな。とにかく呼んでくれ。」

「分かりました。」



しばらくして執務室の扉がノックされ、執事のギールが開けると

平均的な身長でぱっとしない容姿をしたフィル・フォン・マイヤーが挨拶をして入ってきた。そして、強い意志を宿した瞳をフィル・フォン・マイヤーはウィリアム王太子殿下へと向け、丁寧なお辞儀をして名を名乗った。


「顔を上げろ。私がお前を呼んだ理由を理解しているか?」

「恐れながら申し上げます。殿下が私をこちらへ呼んだのは、我が父であるドブリス・フォン・マイヤーの不正についての話をするためではありませんか。」

「ああ、その通りだ。分かっているのなら話は早い。ドブリス・フォン・マイヤーの不正の証拠を提出しろ。」


その言葉はフィルを驚かせた。それは自分が父親の不正を提出すると言っても罠だと疑われ、まともに聞いてもらえないだろうと考えていたからだ。


「私の言葉をお疑いにならないのですか?」

「さぁな。お前が嘘を言っているのか真実を言っているのかは私には分からない。だから、お前の話を聞いてから判断しても遅くないと思った。話を聞かずに疑ってばかりでは大切なことを見落としてしまうし、何より話が進まない。」


ウィルの言葉を聞いてなぜウィルが多くの臣から信頼され、期待されているのかフィルは理解したような気がした。そして、この人になら彼女を救ってもらうことが出来るかもしれないと思った。



「恐れながら、証拠を提出するにあたり、殿下に一つお願いしたいことがございます。」

「あなたは不正の証拠を提出することに見返りを求めるんですか。」


レオンがフィルの言葉に抗議しようとしたところをウィルが片手で制し、フィルが望みを言うことを許可した。


「なにが望みだ?言ってみろ。」

「はい、恐れながら、我がマイヤー家の隣に建てられた小さな塔にいる少女を救っていただきたいのです。」



フィルの言葉にウィルとレオンは少なからず驚いた。


「塔の女の噂は本当だったんですか?」

「マイヤー伯爵家にご令嬢がいると言う話は聞いたことがないが」

「はい、塔の噂は真実です。嘘でも妄想でも夢物語でもありません。そして殿下方がご存知ないのも当然です。おそらく彼女は出生証も出されていないと思います。」



出生証とは、セレスト王国に生まれたものならば、必ず持たなければいけないもので、持っていないのは貧民街に住むごく少数の人間だけだ。セレスト国民は提出しなければ罪にとわれてしまう。



「その話、詳しく聞かせてくれ」


ウィルは話の続きを促し、フィルの話を聞くことにした。


「はい、塔に囚われているのはセシルという名前の少女で、父が知らない女に産ませた子どもで私の義妹です。

私は十歳のころ一度だけ塔に入り、彼女に会ったことがあります。ですがその後は母に塔への出入りを禁止され、今では彼女の顔も覚えていません。塔の周りには多くの兵がいて、私でさえ近づくことは許されません。

一度だけ会った彼女は外の世界に出てみたいと言いました。しかし彼女の願いは叶わずに、十六年間経った今もずっと塔の中に囚われ続けています。」

「十六年間も?!」

「はい、私は一度父に彼女を塔の外へ出してあげて欲しいとお願いに行きましたが、父は知らないうちに私が彼女に会ったことに対し、酷く怒り、私を殴って塔の周りの兵をますます増やしました。それから私は父とは不仲になり、もう五年以上まともな会話はしていません。その後私は父が不正をしていることに気付き始め、それを暴くことで彼女を解放出来るのではないかと考えました。結局不正の証拠を見つけるのに七年もかかってしまいましたが.....」


フィルが言い終えると、ウィルは疑問を口にした。


「なぜ、マイヤー伯はそこまで少女に執着しているんだ?」

「それは、分かりません。しかし、調べたところ、少女の母親の名前もセシルだということが分かっています。他にも、塔には屋敷のいらない本が大量に投げ入れられたり、私の母は月に二、三回ほど塔に足を運んだりしています。」

「オリビア伯爵夫人か....彼女は気が強いところや少々はっきりしたところはあるが聡明な方だったと認識している」

「はい、母は少し不安定なところはありますがしっかりと屋敷を守()()()()。しかし、父の帰りが遅くなり帰らないことも増えたせいか最近は部屋に引きこもってばかりで、散財するようになりましたし、部屋から出たかと思えばあの塔に行くようになりました。」

「そうか・・・」


まあ夫の帰りが遅くなれば女は不安になるものだと聞くし、オリビア夫人は気の毒だなとウィルは考えていた。


話を聞き終え、証拠を提出させた後、ウィルは塔にいる少女を助けることを約束し、フィルを下がらせた。


「これは、俺たちを罠にはめようとしているとは考えられないな」

「えぇ、それにこんなにきちんとした証拠を持ってこられては嘘とは言えないでしょう」

「よほどの脚本家でなければな」


二人はフィルの話を信じることにし、証拠を精査した上で明後日、ジャンのいる第一近衛騎士団とともにマイヤー伯爵邸に行くことに決めた。







































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