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1.檻の中の生活

初投稿です。

初投稿で連載小説は緊張しますが、よろしくお願いいたします。



 生まれた時からここだけが私の世界



「あ……さ……?」




 瞼の奥に光が差し込むのを感じながら、少女は開いた目を細めた。



 そこは檻の中だった。



 上半身を起こし、伸ばしていた足の上に置かれた自らの手を見て、少女はいつもと変わらない目覚めに小さく息を落とす。




少女の名はセシル。


 セシルの生活はいつも、天蓋が降ろされた大きく真っ白な寝台の上から始まった。



 自分に名を与えた者も知らず、暗い檻の中で生活をしているセシルは、普通の人間であれば誰もが当たり前のように知っている己の存在を知らなかった。

 なんとなく、身体の特徴から考えておおよそ十六歳前後だと考えてはいたが、それすらも不確かであり、確かなことなど何一つない。




 部屋はレンガで出来ていて、窓は大人五人分ほどの高さの場所にポツンと、赤子が一人出られるというほどの小さな鉄格子が取り付けられていた。

 鉄格子の窓から差し込む光はたとえ晴れの日であっても、その大きさから部屋を照らすことはなく、ただわずかな隙間から差し込んでくる光は、その先に自由な世界があるかもしれないと思わせてくる。


 晴れた日は嫌いだった。いつもこの光に期待をし、絶望させられる。




 セシルは寝台から足を下ろすと、いつものように浴室に向かい、軽く支度をし始めた。


 部屋の中は十分な広さがあり、そこにはトイレと浴室、天蓋付きの寝台だけが置かれている。寝台はクイーンサイズと大きめで、床には二、三着の衣服と思われるものが散らばっていた。


 シャワーを浴びて顔や髪を洗うと、セシルは床に散らばっていた服を手に取り、身に纏う。



そのときだった。



 中と外を繋ぐ扉にかけられたいくつもの鍵がガチャガチャと音を立てると突然扉が開き、セシルは思わず肩を震わせ身構えた。

 開かれた扉の前にいる一人の男が手にしていた食事を置き、何冊かの本をセシルに向かって投げつけてくる。


「おらよ、今日の飯だ。たっぷり味わんな」


 女性の部屋に無遠慮に入ってきた男は兵士のような格好をしており、今日の食事を置いていくと、ぶつぶつと文句を言いながらセシルのいる部屋を去っていった。


 置かれたパンは硬くカビが生えていて当然口にできるようなものではない。さらに横に置かれたスープには虫が浮かび、異臭が漂っていて、食べ物と呼べるようなものですらなかった。



「今日も、食事はなしね……」



 そんな生ゴミのような食事をセシルは勿体ないという表情で持ち上げ、部屋の隅へそっと避けて置いた。勿体なくはあるが食べるわけにはいかない。

 幼かった頃、同じような食事を口にしたセシルは腹を壊し熱まで出した。しかし薬はおろか、セシルの体調を心配すらせずに世話係は毎回同じような食事を運んできた。

 父親だと思われる男がセシルの異変に気づき事なきを得たものの、その男も所詮は同じだった。世話係を問い詰めることもその待遇や場所すらも変えることはなく、セシルの生活は何も変わらなかった。

 五日も食事を口にしてないため、今日は少し食べられるものがあるだろうかと期待をしていた。

 しかし今日の食事もまた腐っていた。過去一番酷い食事と言ってもいいくらいだ。セシルはまた水ね、と洗面所にあるコップを手に取り水を入れて飲むだけにした。



 そのあとも、セシルのいる部屋にはいろんな人がやって来た。

 メイド姿をした女はセシルに向かって毒を吐きながら散らばった服を持ち、代わりの服を投げ捨てて去って行った。胸元が大きく開いた派手な赤いドレスを着て、化粧を厚くほどこした女はセシルを罵倒し蹴ったり殴ったりしながら鞭を打ち、セシルがぐったりと倒れたところで出て行った。また、兵士のような男が夜に酔って押し寄せ、セシルの体を舐め回すように眺めたり、触ったり、苛立っているときは首を締めたりしながら笑い、セシルを深い闇の中へと堕としていく。




 初めは抵抗していたセシルも同じようなことが十年以上続けられるようになると、痛みも麻痺してくるためか、顔からは感情が剥がれ落ち、まるで表情を変えない人形のようになっていった。



 セシルは白銀の髪色に赤い目という珍しい色の持ち主だった。体つきは華奢で、腕や足は折れそうなほど細いが胸は大きく腰はくびれているため、理想の体形そのものといえた。それに加え、長年光を浴びていない体は透き通るように白く滑らかで、誰もが見惚れてしまう見た目をしている。

 そのことが原因でか、初めて部屋へと訪れた男たちは彼女の姿を見てあまりの美しさに目を見開いた。

 しかし、その美しさにも慣れてくると、次第に彼らは自分たちの欲求不満を満たすためにセシルを利用するようになった。それはセシルが成長するとさらに酷くなり、セシルの心をしだいに凍りづかせていった。


 そんな日々が続いていく中で、セシルの唯一の楽しみとも言えるものが本を読むことだった。中には読まなくなったり邪魔になったりしたためか、多くの本が放り込まれるため、セシルは本から学ぶ機会を得ていた。

 文字を書くことは出来ないが、投げ捨てられていく中にある絵本を見ながら少しずつ文字を学び、今では研究書や論文を読み理解することができるようになった。


 この日、セシルはふと一冊本を手に取り読み始めた。それは王子と囚われたお姫様の物語だった。

 ある日、王子は塔に囚われている姫がいるという噂を耳にする。そこに囚われているのは国一番の美しい姫であると言われていた。それを知った王子は兵を率いて塔へと行き、姫を救い二人は結婚するという話だ。


 本を読み終えたセシルは自分と似ている姫が救われたと知り、嬉しく思うと同時に、少し羨ましいとも思った。


 わたしには縁のない話ね、と本を閉じて立ち上がると同時にまた、扉が開かれた。



「……………!」



その瞬間セシルは先程までの無表情から酷く怯えた表情へと変化し、今すぐこの場から逃げ出したいと震えながら隠れられる場所を探した。

 


 もちろんそんな方法や場所はあるはずもなく、結局開け放たれた扉からこちらへ向かって来る男をただ眺めていることしかできなかった。







「ああ……私のセシル、会いたかったよ……」






セシルの尻まだ伸びた長い髪を掬い上げ口付けをし、ねっとりと甘く囁いてくるこの男はセシルが最も会いたくない人だった。








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