副作用なし、対ウイルス新薬が完成した。
「早く、患者にアビガンを投与するべきじゃないですか」
司会者は食ってかかった。
「アビガンに効果があるというデータはありません」
G医師は冷静に言った。
「タレントのAさんは、ブログでアビガンで良くなったっていってるじゃないですか」
司会者は詰め寄ろうとするが、足をとどめる。
「私もブログを読みました。
確かにアビガンの治験に参加されています」
G医師は淡々と言う。
「だから治験でアビガンを飲んだんですよね」
司会者は首をひねる。
「いえ、飲んでいない可能性があります」
G医師はまっすぐ司会者の目を見た。
「飲んでいない?」
司会者の声のトーンが上がった。
「ある一定数の患者に薬の効果を客観的評価するため、
まったく効果がない偽薬を患者にその事実を知らせず与えます。
偽薬でもプラセボ効果で症状が改善することがありますから」
「プラセボって、ビタミン剤でも立派な医者が患者に与えると、
患者が薬と信じて治っちゃうやつ?」
司会者は声のトーンを落とした。
「そうです。
人間の体には不思議な力があります。
だから、真に薬の効果を確認するため、一定数の人に偽薬を投与するのです」
G医師は微笑んだ。
「まだアビガンに効果があるというのは、早いんですね」
司会者は納得したようだった。
日本のワイドショーでこんなやり取りが行われている中、
ある科学者は対ウイルス新薬が完成したと発表した。
しかも、副作用はないという。
でも、はじめから怪しかった。
彼は科学者と言ってもIT関係で、
医療に関係した経歴はまったくなかった。
でも、患者はすがってしまう。
怪しいモノでも藁にもすがるように。
手の届かない金額でもないのだ。
当然保険適用さないが、3万円程度だった。
患者が押し寄せた。
完治率は35%と低い数字だったが、
まったく副作用なく、
3万円。
だったら、皆、訪れたくなるわけだ。
始めはカウンセリング、
それから新薬の投与のようだ。
というのは詳細の治療内容は明かにされなかった。
しかし、ぞくぞくと患者は詰めかけた。
ある記者は初めから変だと感じていた。
そして、潜入した。
処方された薬を飲まず、
持ち帰り研究所に解析依頼した。
すると驚くべきことが分かった。
薬はたんなるビタミン剤だった。
記者はその事実を公表した。
プラセボ効果によって
症状が改善していると。
批判にさらされた科学者は会見を開いた。
「確かに新薬と称したモノは、単なるビタミン剤です。
しかし、効果があったのは事実です。
35%の人が改善したのは紛れもない事実です」
科学者は深く頭を下げた。
「即座に治療を中止します」
と言い残し会見場を去っていった。
何が悪いんだ。
通常プラセボ効果は10%程度だという、
それを35%に引き上げたんだ。
まあ、俺の得意分野、
VR・ヴァーチャルリアリティを使った催眠術で。
ようは治ると信じ込ませればいいだけ。
そうすれば人間の免疫力は勝手に上がる。
それを応用しただけ。
35%、2000人以上を副作用なしで救たんだ。
何が悪い。
彼は悪びれもせず思った。
まあ、薬が日本製と言ったのが、一番効果があったかな。