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『明日までに熟読しておけ』という言伝からも予想していた通り、全ての講義が終わり夕餉も終えた頃にクゥラムズ殿下の使いが『殿下がお待ちです』との言伝をペィティリアの元へと運んできた。

これについてペィティリアが唯一意外だと感じたのは、呼び出された時刻がこれほど遅い時間だということだ。



(お風呂は後回しにしていて正解だったわね)


ーーそんな呑気な事を考えながら、渡された時と同じ包みに戻した件の本を抱え、彼女は殿下の使いの案内について行った。




しかし、そうして案内されたのが殿下の私室だったのから、彼女は混乱してしまった。

こんな時間に私室へ呼び出すなど、ただ事ではない。


手をとりあい連れ立って歩いているだけで二人の様子が新聞の見出しになるのである。

いくら王族は、ペィティリア含む別の生徒が住んでいる学園寮とは別の……専用の別邸に住んでいるとはいえ人の目がないとは言いきれず、ましてや人の口には戸が立てられない。

こんな時間にペィティリアが殿下の部屋を訪ねたとひとたび知られれば、それはもう間違いなく、翌日の号外には呆れた夢物語が綴られてしまうだろう。


そんな愚行を犯すほど、彼もペィティリアも愚かではなかったはずだったが……一体。




もしかすると、この小説のせいで敵対する有力貴族の面々に何らかの餌を与えてしまったのだろうか……。可能性は低いがありえないことは無いだろう。

国を我が物にしたい彼らからすれば、この本の内容が事実であるかのように吹聴することで私の品位を下げ、上手く私達を婚約破棄に持ち込もうとするかもしれない。もし仮にそれが出来れば、これまで隙のなかった殿下の周囲にさざ波を立てることが出来る。


今のところ彼を失墜させるための取っ掛り一つ掴めていない彼らからすれば、それなりの収穫であろう。

彼らは何時だって彼を追い詰める機会を虎視眈々と狙っているのだから。





ーーーいや、違う。

もし仮にこの小説で敵対勢力に餌を与えてしまったのだとして、『日暮れに私室に呼ぶ』という行為はあまりに荒療治であり、むしろ逆効果である。

なぜなら、それは『婚姻前の浅からぬ関係』を示唆してしまいかねない。

もちろん、そんなものは事実無根なのだがーーー体裁を気にする貴族連中には真偽など関係なく、そういった噂がたつ事が問題なのである。


まぁ、貴族以外の人々は喜びそうな話題だが……






「ーーーあの……ペィティリア殿…?」



はっ、と気がつくと、先程までは閉じていた豪勢で重量感のある扉は内側に向けて全開になっており、ペィティリアをここまで案内してきた使いの男が開け放たれた扉の側から不安そうにこちらを覗き込んでいる。




ーーーしまった……。


こうなってしまっては、頭で悶々と考えていても仕方がない。もう……扉は開いてしまったのだ。



ペィティリアは目元をふんわりと緩めた笑顔を使いの男に返し、なるべく優雅に見えるよう、ゆったりと室内へ歩を進めた……。


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