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はてさて、そんなこんなで今日という一日が始まったはいいものの……。
泣き腫らした事があきらかな薄紅色の目元に加え、ほのかに漂うアンニュイな色香。
一見すると恋に焦がれ、世を憂いているようにしか見えないその姿のせいか、本日のペィティリアは全生徒達からの噂の的であった。
だが残念な事に、当の本人は多少の違和感は感じているものの、未だ例の小説の余韻から抜け出せていないためなのか、その現状をあまり気に止めていない。
それどころか、時折小説の内容を思い出して色を含んだ溜息をつくものだから、なおのことタチが悪い。
そんな彼女の様子は、その日の講義が全て終了する頃には学園に在籍している全ての生徒のみならず、口さがない食堂の女性陣や校門警備の騎士、しまいにはどこからか学園の敷地内に忍び込んでくる伸びやかな四肢の野良猫にまで伝わっている始末であった。
そしてさらに、これは彼女の預かり知らぬ話だが……。
その日、昨晩の小説の登場人物ーーーさらに言えば『主人公』の『恋人』……そのモデルとなったであろう人物が一時学園を訪れていたのである。
大半の……というよりもほぼ全て人々は、この二つの『非日常』に関連性を見出し、それらを結びつけたりなどはしなかった。
何せ、この二つの『非日常』は事実として何ら関係性のない……ただの『偶然』だったのだから。
しかし、存外火のないところからでも煙というものを見出す者はいるもので。
さらに大抵の場合、そういう事をする者は、誤解されると都合の悪い人物であったりするものである。
そしてこれは本当に……、今回の件に関しては彼女の『間が悪かった』というより他にない。
ペィティリアがそんな『偶然』の煽りをうけるのは、その日の暮れ方の事であった。