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レラシオン~時の使者~  作者: 時々
勇者と魔王編
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王都

今日は後一話更新する予定です

 王都・イステルダム。国王であるゼスティリーア・イステル・ムーアが治める、主に人族が暮らしている国。人族が国のトップとして君臨している中では三大王国の一つに数えられるほど規模の大きい国でもある。

 またこの国の初代国王が武力にて勇名をとどろかせたこともあり、数々の実力のある冒険者が集まった影響からか、冒険者ギルドの支部を束ねる本部がある。また、世界有数の冒険者育成学園も存在する。


「へーい、らっしゃい、らっしゃい! 良い薬、扱ってるよー!」


「狩りたてのビクトリーボアの串焼き! 今日買えば特別価格で売るよー!」


 冒険者ギルド本部へ続く一本道は特ににぎわっている。主に冒険者の利用者が多いためか、店を構えている人たちも活気にあふれている。

 時刻は早朝。これから依頼を受けるであろう屈強な体格の冒険者が、鎧、またはごつい武器や多くの道具を身にまとい冒険者ギルドの本部へ向かう中、明らかに場違いな雰囲気を放つ5人の少年少女がこれまた同じく冒険者ギルドの本部を目指して歩いていた。

  

「んー! マスター! このビクトリーボアの串焼き、すごくおいしいの! もう一本食べたいの!」

 

「姉さん、はしたない。マスターが困っているでしょう。少しはおとなしくしてください。私たちの品まで疑われてしまいます。子供みたいにはしゃぐなら一人でしてください。迷惑です。うるさいです」


「む。そんなこと言ってコハクだって今朝、マスターに体を揺さぶられながら起こされて、そのあと、ずっとあわあわ言いながらうるさかったの!」


「そ、それとこれとは話が違います! あ、あれは……その、マ、マスターが悪いんです!あんな不意打ちするから、まだ寝癖もまだあったのに……」


 早朝からテンションがほぼマックス絶好調な双子の姉ユヅキとそれを毒舌でたしなめるコハク。後半は立場が逆転していたような気もしたがこの二人は口ではどんなことを言い合っても基本仲がいい。見た目も判別できないほどそっくりで違いは雰囲気くらいではないだろうか。まさに双子の鏡である。


 その二人の後をこのギルドマスターである僕を含めて3人が追いかける形で歩いている。

 冒険者に女性がいないというわけではない。が、多くはなく大半が男性でありそれも若くても成人していて20歳は過ぎているのが普通。


 そんな中で4人の幼女(のように見える)に囲まれる少年。そしてその少年さえも15歳くらいの見た目でしかない。加えて手ぶら、浴衣にしか見えない服装。どう見ても冒険者がしてもいい恰好ではない。率直にいうと浮きまくっている。


「にぃに。浴衣……どう?」


「さすがノア。凄くかわいい。髪がきれいな青色だから浴衣も青色にしてよかったな。柄の花模様もとてもよく似合ってるよ」


「マスター、私はどうですか? ちらっ」


「アイ。コハクの言葉を借りるようで悪いが、はしたないから胸元をはだけさせるのはやめなさい。」


「なんかノアちゃんと対応が違いません!?」


 アイは黒色。双子はどっちも薄紫色の浴衣を身にまとっている。この3人も浴衣の色は髪の色にそろえてある。

 ちなみにノワールは黒を基調としており、ゆったりとした普段着姿である。


 余談だが浴衣は何代目かの勇者が異世界の知識をもとに再現したものらしい。とても高価で主に貴族が趣味で着るものとなっている。


 目立っている。いや本当にものすごく目立っている。が、この中でその自覚があるのは少年だけだったりする。


 彼はこの世界に来て、初めて冒険者登録した時を少しだけ思い出した。あの時は大変だった。この容姿かつ身元不明だったせいもあり、思い出したくもないほどの手続きが必要だった。

 時魔法の応用で記憶の時間を狂わせ、いわゆる記憶操作もできたりするが時魔法は普段封印している。あまり使っていい類のものではない。使うべき場面なら躊躇はしないが。


 改めて思う。ここに初めて来たときのことを思い出す。何もかもが目新しかった。


 ギィ……


 扉を開ける。朝から酒を飲んでいる冒険者。依頼を受注するために受付嬢のもとに並ぶ冒険者。パーティーやギルド内で依頼内容の確認をしたり計画を練っている者たち。

 

 懐かしい。この王国を冒険者活動の拠点にしてから2年くらい活動して“静謐の森”に引きこもってしまったからノワールたちにとっておよそ5年ぶりの冒険者ギルドだ。何度か見たことのある顔もある。冒険者や受付嬢含めて。


 ノワールたちは誰も並んでいない受付嬢のもとへまっすぐ向かうとすぐ目の前まで進んだ。周囲は何だアイツらといった視線を送ってくる。


 5年前にはいなかった受付嬢だ。


 近づいていくと、彼女が営業スマイルを向けてくる。


「初めまして。受付担当のテーオといいます! それでえーっと、ここは冒険者ギルドなのですが」


 誰がどこから見ても成人していない子供。が精一杯背伸びし、後ろにいる少女たちの影響もあって冒険者にあこがれる子供集団といった風体。だがノワールたちは迷い込んできたわけではない。


「知ってますよ。冒険者活動を再開したいので一言挨拶をと思いまして」


 その言葉に固まる受付嬢。すぐに状況を理解したのか、慌てながら言ってきた。


「あっ、すみません! 少しびっくりしてしまいました。えーと冒険者登録でしょうか。その、冒険者はとても危険が多い職業です。親御さんには許しをもらったのかな?」


 否、今だに困惑しているらしい。


「いや、ほら。僕たちすでに冒険者ですから」


「え……ええ!?」


 ノワールが腕の紋章を見せると、彼女は驚愕したような声を出した。


 ノワールと受付嬢の会話を聞いていた周りの反応はなかなかにカオス。

 腕に刻まれている孤立ギルドの刻印を見てあからさまに馬鹿にした表情を向ける者、浴衣姿が恐ろしく似合っている少女(幼女)たちに向けて下心満載の表情を晒す者、驚愕する者、顔を恐怖に染める者、懐かしさを覚える者、呆れた表情で顔を横に振っている隣の受付嬢、その周りの反応を見て訝しむ者たち。


「えーと、そのあの……」


「ほら、お姉さん落ち着いて。深呼吸深呼吸」


「すーはー、すーはー」


「はいそこで営業スマイル!」


「にこっ」


「んー、残念! 髪を伸ばすんだったら腰あたりまでがベスト。中途半端に伸ばすくらいだったらバッサリ切っちゃおう。その方が絶対良い!」


「あぅあぅ……」


 彼女はまだ受付嬢になってから日が浅いのだろうか。あわあわしながら目を右往左往する様子が面白くてノワールがにやにやとした顔で彼女を見ていると、見かねたのか近くにいたもう一人の受付嬢が声をかけてきた。


「テーオちゃん、代わって。その人たちの相手は私がするから」


「あ、先輩……。でも私の担当ですし! 迷惑かけるわけには」


 その割には救いの神が手を差し伸べてくれた! といった顔をしている。


「動転しているのはわかるけど、彼らはそんじょそこらの冒険者とは踏んでる場数が段違いだから。ほら見てみなさい。彼のにやけた顔。あなた完全に遊ばれているわよ」


「あぅぅ」


「それに見た目はあんなんだけど実際は何歳だか誰にも分らないんだから。エルフじゃないはずなんだけどね。でもあなたもしっかりしないと。見た目と実際の歳が違うなんてことは無いわけじゃないんだから。じゃ、私の方頼んだわよ。ノワール君たちはこっち!」


 施されるまま移動させられる少年たちを唖然と見送るテーオ。去り際に「また相手よろしく」といった少年の完全に面白がっている表情が印象的だった。



「で? 久しぶりに来たと思ったら何しているんですか? 何の御用ですか? またどっかの盗賊団でも潰したんですか。それとも隣国に喧嘩を売った報告とか?」


 そう言ってくるのはノワールたちの知り合いの受付嬢。改めて見ると5年たっているのに成長が見られない。年は25歳のはずだが低い身長、少したれ目で小柄な可愛らしい顔だちにノアたち同様薄っぺらい胸。全く変わってない。まるで時の魔法でもかけられたみたいですね。


「なーんか、とても失礼なことを考えられている気がします」


じとーっとこっちを見てくる懐かしい顔。この顔を見ていると帰ってきた感じがとてもある。



僕が冒険者活動を休止してから5年。

冒険者に戻る気なんてなかった。今でも迷っている。頭の冷静な部分が問いかけてくる。また繰り返すのかと。お前は冒険者に絶望したのではなかったのかと。


 僕はそっとポケットから自分の冒険者カードを取り出す。




ノワール ランクX

年齢 ――

使用魔法――

戦闘方法(使用武器)――

最新履歴……孤立ギルド“幻想”の創設



 ふつうは最新履歴には魔物の盗伐記録が残る。随時更新されながら。だが僕はギルドを

設してからすぐ休止に入った。


 カードを受け取った受付嬢は、相変わらずの意味不明な内容に苦笑しながらお決まりのセリフを言う。



「冒険者活動再開ですね? おかえりなさい」


読んでいただきありがとうございます。

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